月は死の世界へ誘う②
夫はギャンブル依存症に陥り、1000万円の借金を残して自殺しました。愛車の助手席には「入学金の振り込み用紙」が残されていました。命を絶つ前に、娘の大学入学金だけは振り込んでから旅立ちました。遺書には「迷惑をかけて申し訳ない」と繰り返し書かれていました。私たちにどのような学びと課題があったのか、知りたいです。
このようなご依頼を受けて、ご主人様の出生図を見た私は息を呑みました。牡牛座の月がなんと2ハウスに位置していたからです。さらに、その月が火星、土星、海王星、冥王星、ドラゴンヘッドとメジャーアスペクトを形成しています。そして、奥様の太陽が牡牛座なのです・・・なんという巡りあわせでしょう。
牡牛座の月を持つ場合、金銭や収入に囚われます。その根底には「安定した生活や物質的幸せが失われるのではないか」という無意識の恐れがあります。そして、金銭を生み出す才能や自らの感受性自体に自信が持てません。自分の持ち物としての才能や価値への強い不信感を生み出すため、自己不在感と自己否定感に苛まれやすくなります。
その牡牛座の月が2ハウスという最も働きやすいホームグラウンドにあるのです。ご主人様は「もっともっと家族に豊かな生活を与えたい、与えなければ自分の存在意義がない。もっと多くのお金を稼ぐ自分でなければ価値がない」という強迫観念にかられていたのでしょう。
ご主人様の太陽は牡羊座1ハウスにあり、人生が向かう方向性はパートナーシップと精神性でもありました。やはり、自分の存在証明や自己価値というテーマが絡んでいることは間違いなさそうです。
しかし、月の強迫観念は幻です。事実や現実とは全くリンクしないのです。実際、ご主人様は十分な収入を得ておられたそうです。それなのに、給料明細を見せることを拒んでいたそうです。なんという哀しさ、まさに月の魅せる幻影ではないでしょうか。
奥様の太陽が牡牛座にあるため、ご主人様は「妻はもっとよい生活を望んでいるはずだ、もっと豊かな生活を与えなくてはならないのだ」という月の幻想を「牡牛座太陽=奥様に投影した」のではないかと思われます。
男性にとって、金星は理想の女性像(永遠の女性像・アニマ)を示します。ご主人様の金星は牡牛座にあり、奥様の太陽・ドラゴンヘッド・パラスと重なります。お二人が出会われた時、ご主人様は奥様に対して、強い魅力や吸引力を感じられたことでしょう。
どこをどう判断しても、その根底にあるのは、奥様・ご家族様への愛だとしか思えませんでした。愛していたからこそ、もっと幸せにしたいと思っていたからこそ、月の幻影を強化してしまったのではないでしょうか。これこそが月の哀しさです・・・
さらに、奥様の太陽とご主人様の月が合です。これは結婚に結びつきやすいよい配置ですが、奥様の方が強い立場になりやすい、あるいは、エネルギーの逆転が起こる可能性も示唆されています。つまり、ご主人様が奥様の太陽が眩しくて、ご自身の月を投影してしまう可能性です。(逆の場合は最高の相性とされます)
おふたりのホロスコープを重ねると、奥様の太陽が位置する8ハウスで太陽同士が緩い合になります。ご主人様の金星も重なってきます。お二人が共に歩む時、「一体化しようとする強い力」が働くことが読み取れます。お互いの太陽と土星が絡むため、宿命的なご縁であり、過去生で「共に学び合う」ことを約束して出会われたお二人ではないかと思われます。
過去生を示すドラゴンテイルにご主人様の天体が絡んでいるので、過去生で昇華できなかった感情や想いや愛情を深めるために、また、自分を尊重して命を生き切ることの重要性を教え合うために、今世で再会されたのではないかーーそう感じました。
お互いに、もっと深淵で一体化するような深い絆や感情体験を経験することで、奥様の太陽が活性化する関係だと読むことができます。ご主人様の魂は、奥様の魂が望むこと(意識の進化、霊的成長)を後押ししたいという深い願いを持っていたのではないでしょうか。
ご主人様にとって、牡牛座的豊かさを得ることが人生のテーマのひとつであり、また同時に月があるために、そこに囚われます。特に、ジュノーも牡牛座2ハウスにありますので、奥様に「金銭的・物質的安定感と豊かさ」を与えることが自分の役割であり、存在意義であると感じる傾向が強まります。(ジュノーは権利を主張したくなる事柄や月的な囚われを含みます)
牡牛座というサインが持つ本質を手に入れたかったーーというご主人様のホロスコープの願いを感じます。しかし、本当の豊かさとは「豊かだな、満たされているな、ありがたいな」と感じる精神そのものです。そこから生み出されるものが物質なのです。
地球に生きている自分自身が、地球の恵みを享受していることを、全身全霊で感じることができる豊かで健全な感性そのものが牡牛座の本質です。その学びと悲願が祈りとなって、太陽牡牛座の奥様に引き継がれているように感じます。
お二人のホロスコープを合わせると、グランドトラインが2つできており、助け合い、補い合える部分も多分にあられたことでしょう。特に、奥様のマイペースさや前向きさがご主人様を力づけ、生命力を与えていたと思います。どうしようもない問題がお二人の間に生じていたーーとは星を読む限り、到底思えないのです。
シナストリーにおける複合アスペクトは、驚くほどお二人の関係性を表していることが多いのですが、ご主人様のアセンダントと天王星、奥様の月でヨッドを形成しています。
天王星を頂点とするヨッドの場合、天王星的力や性質を最大限まで引き出すように働きかけます。大胆な行動力で限界を突破したいという衝動や独立独歩で突き抜けた生き方をしたい、集団や常識から抜け出したい、もっと、家族のために力を持てる自分でありたい、世の中のために変革を促したい、といった衝動的な想いがおありだったのかもしれません。
しかし、これは全体のために使おうとする時に、活きてくる能力ですので、自分自身にベクトルが向くと、破壊的衝動を生み出すことがあります。ヨッドを持つ場合、内在した強い力がありますが、一方で真実を歪めてしまう危険性も生じます。
アセンダントも月も共に「地のサイン」ですので、やはり、ご主人様は「豊かな生活を与えることができる、もっと社会的地位があって甲斐性のある自分像」に囚われてしまったのだと感じます。
しかし、それはご家族への愛から生じるもの、愛そのものであったのだと思います。ホロスコープ全体を考慮しても、どうしても地のサインの豊かさというテーマが浮き上がってきます。奥様の望み(太陽牡牛座)を叶えたい・・・(本当は叶っていたのですが・・・)という想いです。
奥様とお嬢様が「毎日を豊かに満ち足りて生きてくださる」ことでこの学びも完全に成就すると感じます。ご主人様の葛藤はその裏にご家族、あるいは他者への優しさや愛があったと思われてなりません。奥様が涙ながらに仰いました。
「1000万円というお金は決して返せないものではなかったと思うんです。夫はまさに月の幻影に魅せられて、そして取り込まれてしまったのだと思います。夫は(かなり長期の)生命保険をかけており、残された借金はそれで返すことができました。私が自分を精一杯表現して生きていくことで、夫は安心してくれると思います。私たちを見てくれていると思います・・・」
肉体を去られても、ご主人様のスピリットは奥様と共にあることでしょう。8ハウスを成就したいという願いの下、時空を超えて出会われたお二人なのですから・・・ご主人様の生き様を通して「どんなことがあろうとも前に進み続ける強さ、生き抜く生命力、極限的力」の重要性を感じ取られたのであればホロスコープの願いが成就され、それはなんという深い愛なのだろうと思います・・・
※ギリギリの苦しみを乗り越えて、奥様とお嬢様は前だけを向いて進んでこられ、現在はお幸せに生きておられます。月の苦しみや悲しみを断ち切っていくために、ご自身の貴重な体験談を「公開してもいいですよ」と仰ってくださったその尊いお気持ちに心から感謝致します。