毒素がたまってんな
思えば、ユミの家にはその時々にブームになった健康器具がいつでもあった。ランニングマシーンやらぶらさがり健康器、乗馬マシン、デトックスフットバス、ワンダーコア、などなど覚えているだけでもこれだけの器具が常にリビングの片隅に鎮座していた。それらは増えていくわけではなく、常に流行のものが代替わりで置かれていくのだった。
デトックスフットバスなどはユミの家でも特にホットな家電となったため、遊びに行くと私も真っ先にやらされた。足湯が茶色く染まって「毒素がたまってんな」とユミに言われたが、びっくりしつつも疑り深い私は(おいおいほんとかよ〜)と思いつつ「ウンすごい」と頷いた。
この流れはいつものことなのであるが、決してユミをバカにして心の中で笑っているわけではない。ユミはいつも色々な物事に飛びついて、心底良いと思っている。それに、良いと思ったものを心から分かち合いたいと思ってくれるユミのことが大好きなのだ。
だから、こういう時私は「まただな」とか「ちょっとどうなんだろ?」と思いながらもひとまず神妙な顔で頷くことになる。宇宙の謎が解けた時だってそうだ。面白すぎると思いながら、彼女の話は尊重したいといつでも思っているし、なんならワクワクして待っているところだってある。
人に関してもそうで、いつも誰かに心酔している。占い師からスピリチュアルカウンセラー、ダンサーなどなど数えたらキリがない。私にも毎度力強くお勧めして動画などを送ってくるのだが、私にとってユミより面白い人がいないので「ウンみとく」といってユミのブームがそのうち終わるのを待つ。
もちろん、悪そうな人であれば騙されないように適度な興味を持って話を聞き、できる範囲で軽く監視しているつもりである。
それにしても過去の歴史を考えても、純粋なやつだよなあと思う。時々、本気で羨ましいと思う、そしてどうかまた騙されませんようにと願っている。私の心配をよそに、たまに脳開発セミナーに数十万払ったりダンサーさんに出資してその後決別したりしているので私の尽力など及んでいないのだが、本人はまるで後悔がなく前だけを見ているので、それもまた無駄なことではなかったのかなと思うことにした。
ユミに比べたら、色々疑ってしまう私は確かに毒素が溜まっているのかもしれない。