藍の石けん 〜インディゴレッドのピンク〜
夏から作り溜めた沈殿藍や藍の石鹸のこと、メモ記事の続き。
沈殿藍、インジルビン、青汁、少しだけできた違うパターンの藍やその他の色素のもの、順番に書いていくうちのインジルビン編です。
※前のポスト
インディゴレッドーーインジルビン
前のポストで熱湯抽出の沈殿藍で赤い色素ができてしまったために紫になったと書きました。この赤い色素がインジルビン、インディゴレッドとも呼ばれます。
化学的にはインディゴ = インジゴの構造異性体です。
インジカンの加水分解によりインドキシルが生成し(反応1)、インドキシルの2分子が酸化的に二分子結合して青い色素であるインジゴが生成します(反応2)。
反応1の後、反応2が起こるのとは別に、インドキシルが酸化されたイサチンという物質が生成し(反応3)、イサチンとインドキシルが結合すると赤い色素であるインジルビンが生成します(反応4)。
まあ、文字で書かれても分からないですよね。私も書いているだけで、心から理解できているわけではありません。とにかく、インジゴだけを作りたいのに副反応でインジルビンもできてしまうということです。ちゃんとその条件をコントロールできる人は自由自在に青い藍染めと紫染めを使い分けますが、私はまだその域に達していません。
このインジルビン、兄弟であるインジゴとは、色だけでなく物理化学的な性質も少し異なっています。インジゴは水にも油にも溶解しない顔料ですが、インジルビンは水には溶けないものの、油には溶解する脂溶性です。
従って、その溶解性の差を使って、前のポストで私が作ってしまったと書いたようなインジルビンを含む沈殿藍からインジルビンだけを取り出すことができます。
写真の左側が植物油での抽出、右上が無水エタノールでの抽出です。
無水エタノールで抽出された赤色が真のインジルビンの色です。右下はそのエタノールを使った透明石けんで、そのままの赤色が出せました。
植物油では紫色なのは、油脂の粘度が高くインジゴの微粒子を沈殿除去しきれないのか、インジゴ自身が若干の脂溶性を保つためではないかと考えています(エタノールより植物油の方が圧倒的に極性が小さい)。極性が小さくて粘度も低い溶媒で抽出して確認してみたいところです。
藍から作るピンクの石けん
インジルビンが抽出できた紫のオイル、これを石けんにします!
レシピの油脂の約6割に、上の写真の紫のオイルを使いました。
オイルに対して10%量の沈殿藍を漬けました。ちなみに、自作沈殿藍はそれほどの量がないので、以前生産者さんから分けて頂いたものを使っています。
型入れまではベビーピンクな感じでしたが、固まると青みが増します。
黒い模様は、抽出残渣の沈殿藍入りオイルを使っています。オイルからさらにインジルビンが染み出して濃いピンクになっています。
できあがりはこちら
中まで綺麗な薄赤紫色の石けんになりました。
意図的にそのように作って売られていることは少ないので、偶然でしか手に入らない素材ですが、出会えたら必ず作る、と約束できる素敵な色です。
素材 注
染色用に販売されている沈殿藍にインジルビンが多く含まれているか(濃い抽出ができるか)どうかは、正直買ってみないとわかりません。私の経験では、濃い藍色というよりグレーがかっているものはその確率が高いです。
また、5−6年ほど前までは、染色用でなく生薬や健康食品として青黛(リュウキュウアイやリュウキュウアイやホソバタイセイからの沈殿藍的なもの)を入手することができました。青黛は製法にツボがあるのか、インジルビンを含んでいることがほとんどでした。しかしながら、H28年に厚生労働省から、摂取により肺動脈性高血圧を発症することがあるとの注意喚起が行われて以降、購入しにくくなっているようです。
https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/diet/dl/161227-01.pdf
もし藍の生葉を入手してご自分で沈殿藍を作られる機会があれば、かなり紫確率が高い方法をうっかり見つけてしまったのを別ポストに書くつもりなので参考ください。
紫沈殿藍石けんのその後
さて、実は前ポストの紫沈殿藍やこのインジルビン抽出の石けんを作ったのは夏の終わり頃、5ヶ月前です。5ヶ月後の様子をご覧ください。
インジルビン石けんは褪色なく、今も綺麗なピンクです。
そして両方の石けんとも、インジゴの青部分からインジルビンのピンクが滲み出しています。インジゴは顔料(固体)なのでその場に留まり、脂溶性のインジルビンは油分からできている石けんの中を徐々に拡散していく、染料のような振る舞いをしていることがわかります。
これも計算してデザインに取り入れたら、面白いものができそうです。