天気の子とグライダー
(こちらは7月25日に共同通信社から地方紙向けに配信された「スポーツ随想」の千種担当回第5回の記事です。共同通信社からは許可を得てnoteにも配信しています。)
新海誠監督の最新作「天気の子」を観てきました。離島から上京してきた男子高校生が、必ず空を晴れにできる少女「100%の晴れ女」と出会う物語です。
気象予報士として思わず注目したのは、晴れ女の少女が晴天を作り出す方法。作中では祈るだけで晴れるのですが、雲は上昇気流によって発生し下降気流によって消散するので、彼女は狙った場所に下降気流を作る力があるのかなぁと思って観ていました。
雨が続くと下降気流による晴れが待ち遠しくなりますが、反対に上昇流を待ち望むスポーツがあります。飛ぶ姿の美しさから「空の女王」とも呼ばれる「グライダー」という競技です。飛行機に似た形の「滑空機」を使って空を飛び、スピードや距離を競うスカイスポーツです。
グライダーにはエンジンがないため、プロペラ機に引っ張ってもらうなどして上空まで上がり、そこから滑空します。切り離されたあと自ら上昇する動力はないので、自然の上昇気流をいかに見つけられるかがポイント。上昇気流をとらえながら高さを稼ぐことで、長く飛び続けることができます。燃料があれば浮かんでいられる飛行機とは異なり、グライダーは飛び続けることそのものにスキルが要求され、同じ距離を速く飛ぶには技量や知識、経験が必要となります。グライダーは飛ぶこと自体がスポーツなのです。
グライダーはエンジンがないのに何百㌔も飛ぶことができ、首都圏から飛び立って日本アルプスの絶景を上空から眺めて帰ってくる、なんてことも可能だそう。映画に描かれた空や風景の美しさにも息を飲みましたが、高度数千メートルの空とそこから見る絶景も、直接拝んでみたいものです。
<当記事の掲載状況>
7月27日付け神戸新聞夕刊(兵庫県)
7月31日付け西日本新聞夕刊(福岡県ほか九州)
6日付け徳島新聞夕刊(徳島県)
9日付け東奥日報夕刊(青森県)
15日付け山陰中央新報朝刊(島根、鳥取県)
気象予報士 千種ゆり子