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京都SM官能小説 『縄宵小路』 第14回
第三章「調(しらべ)」其の二
引越や転居の手続きなどは初めてのことで不安だったが、永楽さんや同僚となる先輩の家政婦さんたちが手伝ってくれたおかげて滞りなく済ませることができた。家政婦の仕事は少し休んでからでも良いと言ってもらったが、一日でも早く一人前になりたいと思い引越しの二日後から始めさせてもらうことにした。
働き始めてからは時間があっという間に過ぎていった。はじめは慣れないことばかりでとても気疲れした。それでもどこか心地よい充実感を感じられたのは、働いて人の役に立ち自分の力で娘を養えることが嬉しかったからだろう。ただ週に一日程度と言われていた高辻の専属業務については未だ指示がなかったのが気がかりだった。
「さあなぁ……坊ちゃんのお考えやからなぁ……
いずれ言ってきはるやろ?」
永楽さんに聞いてみたが、どこか呑気の答えが返ってきただけだった。自分で考えていても仕方がないことなので、永楽さんの言う通りそのうち指示があるだろうと頭を切り替えた。
三週間ほどが過ぎたある木曜日のことだった。いつものように娘を岡崎にある託児所に預けてからUターンで高筒庵に戻り母屋に入った。休憩室を兼ねた更衣室で制服に着替え、その日の当番の玄関前のお掃除に取り掛かろうすると、先に来ていた永楽さんが声をかけてきた。
「おはようさん」
「おはようございます」
「今日もよう晴れてええお天気さんやなぁ」
「ええ、本当に、暑いくらいですね」
「そうそう、それでな、
坊ちゃんから例の件で託けなんやけど、
明日の金曜日にな……」
永楽さんは本題を切り出した。
託けの内容はふたつだった。
・今後は毎週金曜日に仕事を頼むことになる
・明日は最初なので、歓迎も兼ねてランチミーティングにしたい
「それと、これはよう詳しくは
わからへんのやけど……」
永楽さんは前置きをした上で、週一の仕事の内容が英語やおもてなしに関わるもののようだと説明してくれた。そう言えば先に提出していた履歴書には、まともな職務経歴がひとつもなかった。それを補完するために得意な語学と主婦時代に通ったことがあるプロトコールスクールのことをアピールポイントとして書いておいたのを思い出した。きっとそれが高辻の目にとまったのだろう。そんなことでも役に立つことがあるんだなと、このときはそれくらいに考えていた。
最後に永楽さんから、明日の十二時にこの店に行くようにとメモ書きを渡されお互い仕事に取り掛かった。
(つづく)