京都SM官能小説 『縄宵小路』 第4回
第一章「前戯」其の四
「うっ……」
高辻が無言でリードを軽く引くと、リードが首に食い込み呻き声が出る。飼い主が散歩中の犬に道を逸れぬように促す動作に似ていた。
「散歩だ」
高辻はそう言うとゆっくりと歩き始める。リードは伸縮するものではなかったので、高辻のペースに合わせて雌犬のように這って進んだ。広いリビングダイニングの周囲を反時計回りに進む。少しでもペースが合わないと、首がキュッと締まり慌てて無意識に首を手で押さえてしまう。四足歩行では手を別のことに使うと、うまく歩けず止まってしまう。止まればまた首が締まる。はじめは膝を使っていたが床につく衝撃ですぐに痛みを感じる。膝の代わりに足の爪先を使って歩行する……。
焦りと痛み、混乱と息苦しさなど様々な感情と感覚が複雑に入り混じる。それだけではない。四十を過ぎた女が全裸で首輪を繋がれ、男性に引かれている。そう思うと気を失いそうなほどの胸の高鳴りと共に、どうしようもない倒錯的な興奮も感じていた。
高辻はそんな私の混乱におそらくは気付きながら、ペースを変えずリードを引き続ける。太腿が擦れ合うとき、粘り気のある液体でヌルッと滑るような感覚を感じた。
リビングダイニングを二周した後、高辻はソファの傍で止まる。白いボールのようなものを手にすると、今度はエントランスの方に進み、扉を開けガレリアに降りた。私もリードに引っ張られるように後に続いた。
ガレリアは吹き抜けのように天井が高く、天窓から床の白いテラコッタに光が射してとても明るい。壁から少し離れた位置にあるダークブルーの二人がけソファが素敵なアクセントになっている。高辻は私の首輪から伸びるリードを玄関ドアの近くの壁に付いているリング状の金具に取り付ける。金具の横には頭から爪先までとてもよく見える大きな姿見が取り付けてあった。
「鏡に手をついて尻を向けなさい」
私は鏡を跪いた格好で鏡を向き手をついた。鏡には全裸の私と背後に立っている高辻が映っていた。彼の表情には少しの感情も読み取れない。
「口を大きく開けるんだ」
言われたとおりに大きく口を開く。
「あんっ……」
白いボールギャグが押し込まれる。ストラップのリングを後頭部で固定され、口を閉じることはできなくなった。
「はぁ……はぁ……んぐ……ぐっ……」
急に呼吸が荒くなる。口を閉じられないので分泌された唾液を飲み込むのに苦労する。
「優里香、ちんちんで待っていなさい」
「へ?いんいん……えふあ……?」(え?ちんちん……ですか……?)
頭が回っておらず変な質問をしてしまう。
「お前、何を言ってるんだ?」
呆れたように高辻が続ける。
「犬のちんちんのポーズだ、わかるか?」
「ふぁ……はぇ……」
うまく返事ができないので、大きく頷きながら答えた。
「その格好で鏡を向いていなさい」
「はひほふぁいあいあ……」(かしこまりました……)
私はしゃがんだまま爪先立ちになり足を広げ、手のひらを丸めて顔の横の高さに上げた。フラフラしながらも許しを乞うような眼差しで鏡に映る高辻を見た。
「それでいい、しばらく待っていなさい」
そう言うと彼は背を向けてリビングの方へ戻っていく。鏡越しに映る高辻の後ろ姿を見送った。
全裸でちんちん……目の前の鏡にはこれ以上はないと思うような屈辱的な自分の姿が映っている。パンティを履いていないので、この格好になると性器がぱっくりと口を広げているのが見えた。冷えた空気が直接湿った粘膜に触れてひんやりとする。うまく飲み込めず溜まった唾液が口から溢れそうになる。垂らさないよう少し上を向いた。
(つづく)