Sunday’s Book 30 「見えないボーダーライン」

★Sunday’s Book★

明日が憂鬱な日曜日に、読んだらほんの少しココロが前向きになれるような
「心の体温が上がる」本をテーマにご紹介します。

<30冊目>
タイトル「舞台」
作者:西加奈子

近年、「自分らしく」とか「誰かに左右されるな」と言われる。

だけど、それでもなお、見えないボーダーラインを超えないよう

ついつい意識してしまう。


社会には、「ここまではセーフ」「ここからはアウト」というラインが、目に見えないが、厳然としてある。服装や目つき、ものの言い方や仕草、あらゆることにそのラインはあって、俺たちはそのラインを超えないように、「正解」の中にい続けられるように、意識的であれ、無意識であれ生活している。そして、少しでも「あっち側」に行った人間がいると、嘲笑したり、ときには恐怖したりして、結果、排除するのだ。

これを恐れ、ボーダーラインを守り続ける男が

この作品の主人公、葉太だ。


彼ははしゃぎすぎてバチが当たることを恐れ

バチが当たったときに哀れまれることを恐れる。


その結果、ニューヨークでバッグを盗まれたのに

叫んだり追いかけたりできず

初日に盗まれて馬鹿だと思われたくなくて

パスポートなし超貧乏なまま大使館に行かず

1日4ドルで生き延びようとする。


馬鹿にされたくなくて頑張りすぎて

余計に滑稽になってしまう葉太。

死んでも自意識を守りたくて苦しむ葉太。


こんな滑稽な人いないでしょ!と思いつつ

彼の自問自答には覚えがある。


人はときに「正解」の中にいたいと強く願う。

「こうあるべき」の中にいるために、キャラを演じたりしてしまう。


結局この世の中のボーダーラインはなくならない。

私はときに、本や演劇が好き!と言いながら

そこまで詳しくない自分が嫌になったり自信が無くなったりする。

けど、それで良いのだ、とも思う。


ミーハーでも、にわかでも、

なんとなくの「世の流れ」を感覚的に掴んでいることは

マーケティング界隈で仕事する私にとっては武器でもある。


がんじがらめになって苦しむ葉太は行き過ぎだけど

葉太のような瞬間は誰にでもある。

何にも縛られずに「自分らしく」生きるなんて不可能だ。


苦しみながら、恐れながら、

それでも自分の好きな道を選んでいく。

そういう一筋縄では行かないところが、人間の愛おしい部分なのだ、

とこの時代だからこそ、そう思えた作品との出会いでした。






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