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個展を開いたら生前葬になった


帰国して1ヶ月半、蒲田の"もつ焼きいとや"の酒と並ぶくらいには濃い日々を走り抜けた。

もつ焼きいとやは現時点で私が大好きな居酒屋ランキング第1位である。

開店時間に行っても外には行列ができる大人気店で、よそにはないコアなもつ焼きたちと、シャリキンで作られるチューハイが絶品である。

私が特に好きなのはあみレバとレモンサワーの塩なしなのだが、本題とは何ら関係ないのでまたいつかどこかで紹介しようと思う。



先週末、初めて個展を開いた。

「暮らしと布〜ちいさな写真展とアフリカ布雑貨〜」と題し、ルワンダで撮ってきた写真を飾り、手作りのアフリカ布雑貨と、フォト&エッセイ本を販売した。


「そうだ、個展、開こう」と思ったのは、今から半年も前に遡る。


長いことルワンダで撮り続けた写真たちは、我流ながらも気に入っていた。

特に良い写真はSNSに載せていたけれど、画面ごしではなく、生で見て欲しくなった。

アフリカ布を使った雑貨も、主に自分のために作っていたけれど、もっと多くの人に、たくさん作ってみたくなった。


思い立ったら、頭より先に体が動く私。


夫の馴染みで、私も良くしてもらっている居酒屋、灯火の店主に、直アポである。

まだなーんにも準備していないのに。


なんと快くOKをもらい、日付も決まった。

そうとなったら、当日に向けて準備を進めるのみ。

すきま時間を見つけて商品作りをし、写真を選定し、フォトブックの編集をした。


帰国してからは、引越しや結婚で大いにばたつき、なかなか準備のできない日々が続いた。


が、商品はもう揃っていたし、直前の追い込みで何とか間に合った。

気が早過ぎるのも、役立つものである。


当日、スーツケースと大袋2つを引きずり、会場へ。


灯火の、初めて見る朝の姿に、何となく緊張してしまう。


お酒と料理を楽しむ空間を、少しずつルワンダの色に染めていく。


大好きな子どもたちの笑顔や、極彩色のアフリカ布により、朝の灯火が華やいでゆく。


私の写真、言葉、作品に囲まれる。


あっという間に1時間が経過したころ、開場の準備が整い、定位置につく。

チラシを指で撫でたり、スマホを確認したり、立ったり座ったりなんかして、最初のゲストを待つ。


たまたま通りがかった男性が、最初のゲストだった。


私の写真が、言葉が、今、彼の目に映っている。


ずっと、ずっと、この時を楽しみにしていた。

話しかけたい気持ちをなんとか抑えて、微笑みながら、ただそこに佇んだ。


彼が去ったのち、続々と他のゲストが姿を現してくれた。

その数、二日間合わせて、77名。

「行くからね〜!」と予告してくれてた人たち。

「ごめんねその日は行けないんだけど」と言っていたのに、急遽来れるようになった人。

何年も会っていなかった人や、SNSを見てくれていた、初対面の人。

遠くから何時間もかけて来てくれた人や、ベビーカーを持って来てくれた人。



こんなの、想像していなかった。


応援してくれている人がいることは、知っていた。

でも、私が知っていたよりも、もっともっと多くの人がいて、その想いは、もっともっと強かった。



たくさんの花束やプレゼントが、Visitor's noteに書かれた言葉たちが、写真を見つめる瞳が、愛に溢れている。


初日の朝、ずらっと並んでいた雑貨たちが、どんどん旅立っていく。

ニャムガリの、レンガのおうちで作られたそれらが、いろんなおうちに連れ帰られる。

誰かの食卓に並ぶ食べ物を運ぶために、綺麗になるための化粧品を入れるために、気分を上げるワンポイントのために、使ってもらえる。



人生の、いろんなタイミングで出会った、交わるはずのなかった人たちが、同じ場にいて、時に言葉を交わしている。



生前葬だ、これは。


その日、その時間、すべてのゲストたちの想いが私に向けられ、一つの場所に集う。

そんなことって、そんなことって、すごすぎる。


生前葬のようだけど、まだまだずっと、このまま、生きたいと思った。


生きて、生きていきたい。


楽しい時間は、すぐ終わる。

夢のような二日間は、あっという間だった。

だけど、幸福の余韻は、まだ終わらない。

むしろ、日を追うごとに、あの時間が現実味を帯びて、記憶の色が濃くなっていく。


人生に、無駄はない。
ただし、何事にも真剣に取り組めば。


今までたくさん回り道をしてきたが、それなりに真剣に生きてきた。

その時には気づけなくても、後から点と点が繋がり、思わぬ線を作ってくれる。

その中で、多くの人に出会い、これからもずっと大切にしたい絆が生まれたりもした。


そんなことを強く思わせてくれる、一生思い出に残ろう個展になった。


個展を終えた翌朝、前日までの猛暑が嘘だったかのように、涼しい風が吹いた。


2年前の7月から始まった長い長い夏が、私の人生のひとつの季節が、終わったような気がした。


これから、新しい季節を始める。

無謀だとか、どうせ無理だろうとか、そんな事を言ってくる人もいるだろう。

だけどもう、怖くない。


私には、何にも負けない、あの日の思い出があるから。


思い出を肴に、今日もビールを飲む。

明日が来るのを楽しみにしながら。

おわり

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