「この世界」

この物語は星界語で書かれたものです。そのため日本語では表現できない語彙が多数出現しますが、できるだけ本来の趣旨をそのままお伝えするために翻訳は行っていません。

星暦879年。神さまがこの世界をお創りになった年を1年として今年が879年目ということらしい。 私はどこにでもいる中等生。正直歴史になんてほとんど興味ない。

退屈な授業が五限目まで終わり、空に浮かぶ星々へ日頃の感謝を込めて拝する。 小さい頃から「お星さまは神さまで、お空にいらっしゃる」なんて言われてきたけど、私自身見たこともないし本当にあるのかもわからない。

portusontiが私を呼ぶ。夕食の時間だ。私のportusontiはとても物知りな聖職者で、この町の長老とも言われている。神さまがこの世界を創られる以前の「混沌」に生まれ、いまは推定で920歳らしい。
私の前にディナープレートが運ばれてくる。今日はビーフステーキらしい。香ばしいお肉がジュワジュワと音を立てている。とても美味しそう…

お風呂へ入って就寝の準備をする。 髪の毛を乾かしながらデッキへ出る。家の前の大樹の木漏れ日と心地よい風が私の頬を撫でる。

portusontiが私を呼ぶ。中等生になった私に昔話をしてくれるとのことだ。歴史と言われるといまいちだが、昔話と言われるとなんだか楽しそうに聞こえる。もちろんportusontiがしてくれるのは神さまがこの世界をお創りになるより昔の「混沌」の出来事。

「神さまがこの世界を作るより以前、人には「死」というものがあった。」
私はすかさず質問する。
「「し」ってどういうこと?」
迷わずportusontiは答える。
「世界から隔絶された深い深い虚空へと落ちること。長い長い時間も空間もないような状態で永遠にさまよい続けること。かな」
「神さまが現れて「死」の無い世界をお創りになられた。それがこの世界。」
どうしてだろうか、「死」というものを体感することは永久にないはずなのにとても「怖い」と感じた。
「ごめんね。怖かったかい?」
私は頷く。

「もう少し別の話をしようか」
といって話を切り替える
「「混沌」ではいま当たり前にできる多くのことができなかった。」
顔を上げて私は尋ねる。
「たとえば?」
portusontiは答える。
「空を飛ぶ、壁を抜ける、ワープする。そこらへんは軒並みできなかったかな。みんな自分の足で歩いた。」
私は驚く。この世界において空を飛べないことなんて考えられないからだ。自分の足を使って歩くなんてせいぜい家の中でしかしない。

「逆にいま無くて昔あったものってなにかある?」
片方を効いたらもう片方が気になってしまい尋ねる。
「あるね。」

portusontiは思い出したかのように言葉を発する。
「「夜」かな。真っ黒な空に浮かぶ星がよく見えた。」
私ははっとする。毎日何も気にせずに拝していた星はあったのだと。
「星っていくつあるの??どのくらいの大きさ??」
「うーん、数えたことはないけど無限にあったんじゃないかな。大きさは米粒より小さく、そして光っていた。」

私は星を見てみたくなったのと同時に疑問がよぎった。
「なんで「夜」と「星」は無くなっちゃったのかな?」
portusontiは口を開く。
「その昔、人は死んだら星になると言われた、だけどこの世界に「死」は無い。死のないところに星は生まれないということだろうね。もうひとつ、夜は無限の力を生み出すと言われていて、空を飛んだりすることができる代わりに夜が消されたんだろう。ここからさきは私にも分からない。気づいたら夜がなくなり空を飛べるようになった。死が無くなり星も消えた。」

難しい話だが、なんとか感想を述べる。
「「死」が無くなってよかったね。星が見られなくてもportusontiがいれば私も幸せ。」
portusontiは笑顔で私を撫でる。
「さ、もう遅いから寝ようか。」
窓から差し込む光を遮るようにカーテンをして、眠りに落ちる。


システム、オートコンプリート。すべてのデータを高次世界へ転移します。

「やっと「死」から解放される。こんなに辛く苦しい世界とはさよならだ。」

一人の科学者そう言い残し視界から消失する。

目の前には青白く光る照明装置と無数の肉体が等間隔に機械へと繋がれていた。

いまはもう機械の音しか聞こえない。

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