長い長い旅路
祖親の家へ帰省する。
私は母親とともに北27区の駅へ向かっていた。
ここから飛行列車の発着する中央駅へと向かう。
週の初めということもあって電車は通勤客でごった返す。
まだ朝は早く、窓からは街を照らす光体がよく見える。
途中で大きな壁のようなものが見えたが、何事もなかったように過ぎ去る。
壁を抜けたらもうすぐ中央駅だ。
中央駅に着く
乗り換えに一時間程度時間がある。
先程北の方の国から到着した行商人が露店で野菜を販売している。フローレンスで新鮮な野菜はとても貴重で高価。
それと同時に今度は警備隊がものすごい勢いで盗人を追いかける。
地面を覗くと何かが落ちている。手で掴んだところスーッと消えてしまった。ドライアイスのように
売店に入り、列車で食べるものを調達する。なんでも今から乗る列車は丸一日をかけて終点へ向かうらしい。
国際列車の発着するのりばはとても荘厳である。
改札口で母親がリングを照合させる。難なく通過できたようだ。
列車に乗り込む。
2つのベッドが上下についた三等寝台。
夜が明けた頃に列車は発車した。
テラリウムを抜けたあたりで一度停車した。ここで乗客を乗せるのだろうか?
しばらくすると発車した。
あたりに広がるのは一面の平地と、かすかに見える星空。生物の気配はない。とても静かである。
時間はくさるほどあるので学校の勉強をする。週始めなのでもちろん授業は開講される。寝台に腰を下ろし先程買ったパンと牛乳を食べつつ、受講する。特別な端末を用いて。
「…は使用者の意思によって発動するが、適応者でない限り素体のままでの発動は難しく…」
つまらない。
私は眠くなりベッドへ横になりながらグダグダと受ける。
寝落ちしそうになったそのとき、列車の後方から大きな爆発音が聞こえ、一瞬のうちに連鎖し視界は真っ暗になる。瞬間に母親は私を守るために強く抱きしめる。
一瞬の出来事だった。乗客は広い大地に放り出され、列車は脱線、損傷している。
う…寒い…
寒さで正気を取り戻した。何が起こったのかわからなかったが、
母親は血まみれで私を抱いていた。
私は無傷で無事であったがそれどころではなかった。
すぐに管理局の医療スタッフが駆けつけて母を介抱する。それと同時に厚い毛布を背中にかけてくれた。
「大丈夫ですか?」
医療班のスタッフが声をかけるが反応がない。するとスタッフは首からかけた端末を母親のリングと接続した。
「…803-027187822…AN…B/6…」
何やら聞き慣れない言葉をスタッフが小声で読み上げている。
このあとどうなるんだろう、助かるのかななど様々な思考が脳内を駆け巡る。
しばらくすると声をかけられ、はっとする。
「申し上げにくいのですが」
はい、と軽く受け答える。それどころではない。
「お母様は身体を強く打ち付けており…助かりません…」
軽く受け流すつもりだったところに飛び込んだ言葉で私の中の何かがぷつりと切れた気がした。震える手、不思議と涙は出ない。ただ血まみれの身体が目の前に横たわるだけ。
なんでなんでなんでなんで…
嘘でしょ…
嘘だと言ってよ…
頭が真っ白になる。
母親を私は抱きしめる。力強く、
次の瞬間右手がとてつもない勢いで光る。
医療スタッフはこちらを眼を丸くして見ている。
何が起きたのか最初はわからなかった。
しかも光は後方へと伸びる。
次の瞬間別の医療スタッフがこちらへ駆け寄ってくる。
「大佐、こちらの重傷者が次々と回復し、意識を取り戻しています…!」
「なんだと?」
そう言って医療スタッフ…大佐は私のもとから離れる。
「リ…ゲル…」
私の名前を呼ぶ細い声が聞こえた。
ふと手元に目をやると、息を吹き返した母親の姿がそこにあった。
奇跡が起こった。奇跡が起こったんだ…そう思い私はまた母親を強く抱きしめた。
安心しきって寝ていたようで気づいたときにはあたりは真っ暗になっていた。
救援列車が駆けつけ、そろそろ出発というところだった。
私は母親とともに再び列車に乗り込む。
何が原因で起こった事故だったのかはわからなかったが、いまの私にはそんなことはどうでも良かった。