地面にほっぺたをくっつけて世界を眺める⑦
数年前のこと
ある時わたしはひどく落ちこみました。
特別、嫌なことがあったわけじゃない。
思い出してしまっただけです。
生きていくのが辛くなりました。
下を向いたら涙がいっぱい出てきて、眼鏡に池ができました。
人の言ってることを、あからさまに無視しました。
そしたら、その人が超つまらん独り言を言ってるみたいになったので、ちょっと笑えました。
通勤でいつも通る、人通りの多いところに
『声優・ナレーター募集』っていう紙もった男がいて、パッとひと目で悪い奴だとわかる人相の人だったので、
ああこういうのがAV強要をたくらんでるんだろうなって思うとさらに気分が悪くなり、
数メートル先に同じ一味のオタクっぽい男がニヤニヤしながら同じチラシをもってたので、
思わずそれを奪いとってクシャクシャにしてそのまま何もなかったように通り過ぎたら
4ミリくらい気分がスッキリしました。
出勤して仕事してたら、上司が
「きみのおかげで終わりそうだ」とほめてくれたので、
「私にも生きてる価値があるんですね、よかったです」
と、とても面白い冗談を言いました。
休憩時間にスーパーに行ったら、
昔祖母とスーパー行って「なんでも好きなものを買いなさい」と言われてお菓子を大量買いしたのをふと思い出して、
「なんでも好きなものを食べなさい」という声が聞こえてきたので、
おいしそうなスナック菓子を二袋買って、スーパーのイートインスペースみたいなとこで、無心で食べました。
バカな話ですが、生きているのがしんどいときでも、やはり『これはイヤ』『これはしたい』というのがあって、それを整理していったら、
私の『これはイヤ』の中に
太ることと肌荒れ
『これはしたい』の中に
キレイな肌と髪でいること
と、
おいしいものを食べること
が入っていました。
幸い、体に悪いものを食べまくっても肌荒れを起こさず、激太りもしませんでした。
そして、ここに書くのも憚られるような自分のむきだしの欲望を確認しました。
なんのために強くならなきゃならんのか、生きていかなきゃならんのかわからない。そんな気持ちになった私は、最大限まで自分を甘やかし、「ココロの矯正期間」を設けることにしました。
もう一人の「常識的な自分」に、いなくなってもらうことにしました。
自分で自分を苦しめるのをやめました。
私が何に傷つこうがどう思おうが、正しいも間違いもない。
自分の根本的な性質を責めない。
いつまでたっても許せない自分を責めない。
笑顔でいなきゃいけない決まりはない。
前向きでいなきゃいけない決まりもない。
死にたくなってはいけない決まりもない。
もしそうだとしても、誰かから押しつけられた考え方なんか受け入れられないから、自分でちゃんと経験してこの心と体で理解をしたい。自分の答えを知りたい。
固定観念をぶっ壊して、ゼロに戻ろうとしました。
とはいえべつにそっから何かを創造しようという積極的な気持ちはなくて、たまたま何かができたらいいなっていう程度でした。
ある日の仕事で、ビルの7階の屋外で広告の撮影をしました。
ベンチに座り、社会人の人たちが縦横無尽に歩いているのを上からぼーっと眺めてました。
ここから飛び降りたら、一発で死ねる。
私が思っていたのは、そういうことなんだぞ。飛び降りたいか?
と自分に問うたら、
飛び降りたくない。と思いました。
別のある日、職場のすぐ怒鳴るアホ上司が、ささいなことで私に怒鳴ってきたので、
それ以降私は大女優のごとく、そいつがいる時にだけ「怒りのマスク」をつけ、今にも殴りかかりそうな顔で仕事をすることにしました(接客業ではない)。
怒りのマスクをつけたままトイレに行って鏡を見たら本当に恐い顔をしていて、一人になった途端にふっと抜けた表情の変わりように自分で笑えてきました。
同じ月のある日、
私の大好きなフェアリーズの新曲リリースイベントに足を運びました。
浴衣撮影会があったので自分も浴衣を着て行きました。
トイレに並んでるときに後ろにいた子どもが「ねぇママみて」って私を指さしたらしく、そのお母さんがにっこりしながら「きれいだね。」って言ってるのが聞こえてきて、天にも昇るほど嬉しくなりました。
難なく前から2列目をゲット、フェアリーズちゃんが登場して、何曲か披露し、その回はMCで「質問コーナー」をやってくれました。
フェアリーズちゃんに聞きたいことならいくらでも思いつくので思わず手を挙げて質問しました。
そしたらあの超絶美少女5人組は真剣に楽しそうに、笑いを交えながら答えてくれました。
数年に一度の幸せなひとときでした。
また私は神様に、
「これをあげるから立ち直りなさい。」
とご褒美をもらいました。
しんどいけど、あと一週間は弱音を吐かずに頑張ろう。と、元気を取り戻しました。
一週間すぎたころ、またアホ上司が理不尽なことで怒鳴ろうとするので、
フン。こんな仕事イヤになったら辞めてやる。死んでやる。クソが。
と自分を甘やかそうとしたときにハッと気づきました。
せっかくフェアリーズちゃんにもらった元気を、そんなに簡単にとりこぼしていいの?
不思議なことに、自分の気分の波で元気になったのと違い、誰かにもらった元気は大切にしなきゃという愛着がわくのです。
なんか、このまま私が元通りになったら、フェアリーズちゃんがあのアホ上司に負けるような気がして、それが悔しかった。
かくして私は妖精にもらった「元気のかけら」を装備し、
山を越え森をぬけ、ダンジョンの地下に入り、
すぐ怒鳴るクラッシャーアホ上司、略して
「すぐどな牛」
を会心の一撃でやっつけて、
「かこのきおく」を封印し、地上に戻ってきて平和に暮らしましたとさ。
〜END〜