奇跡
好きなチームに、好きな選手がいる時間は奇跡です。
私は、スポーツに於いてひとつのチームにずっと所属して引退する、というフランチャイズプレーヤーの存在には、拘っていません。もちろんそれはとっても素敵なことなのですが、それだけに気持ちが縛られているわけではないのです。
バスケットボールにも、契約満了の報告の季節がやってきました。今シーズンも、私の好きな選手にも、遅かれ早かれアナウンスがあるのでしょう。
かつて、一度だけ悩みました。日本のバスケットボールを観戦しはじめて、最初の年、おそらく、そのチームとは再契約しないだろうな、と感じていた頃でした。
私は器用でもなく、また、所属していたチームと、選手の行く先の両方を均等に応援し、観に行く時間もありません。
最初に知ったチームにはとても愛着があります。今もです。その時、初めて(他のスポーツを観ているときは、あっさりと決めていました)私はチームに残って応援し続けるのか、それとも、ずっと好きな選手を応援し続けるのか、逡巡していました。
今でも、よく覚えています。6月、好きな選手が(便宜上、この記事の以下では彼、と表示します)試合会場に足を運ぶ日でした。出場する試合は前日に終えていましたが、翌日もホームタウンで別の試合が開催されるため顔を出すことが予定されていました。
その年の3人制の試合はららぽーとで行われ、オープンスペースで選手と同じ平面上に観客が存在できたので、彼はチームの仕事としてリストバンドを観客に配っていました。
私もリストバンドをもらいました。5人制の去就は決まっておらず、デリケートな時期に、なんの質問も私はする気がありませんでした。ただ会えるだけで嬉しかったのです。
そのとき、私の隣には英語が堪能な、彼と共通の知人がいました。知人は、私を指差して「彼女はどこのファンクラブに入るか迷ってるんだってよ」と冗談めかして彼に言いました。
私も彼も、何も言わずに笑ったことを覚えています。少しだけ申し訳なさそうな笑顔でした。
「あなたを応援します、どこでも」
私は英語はほとんど話せません。中学生の基礎英語も怪しいくらいです。それでも、勝手に口が動きました。今思っても、拙い英語だったと思います。
「ありがとう」
彼は日本語でそう返してくれました。素敵な笑顔でした。とても。
その日から、私は何も変える必要がなくなりました。距離や、住んでいる場所、ユニフォームの色、競技の種類、カテゴリー、何が違ったとしても、私は彼のバスケットをただファンとして観に行くことに、何の変化もなくなりました。変わるとするならば、年々プレーの内容が素晴らしくなることだけです。
この時期になると、いつも思い出します。
2020.05.01.