しんどいと伝え合える関係
「立て続けのメールは、正直、しんどいな」
夕べ、タカシから返事がなかったから、矢継ぎ早にどうしてどうして、と、LINEを送ってしまったことを指すのだろう。
まりかは、心の底から幸せになった。
だって、やっとタカシがイヤなこと、ネガティブなことを、まりかに伝えてくれたのだから。
ほんの数日前のまりかなら、どうしようもなく落ち込んだだろう。
実は、今日だって少しの時間、彼のタイムラインを非表示にしていた。
彼から返事が来るまで、まりかからは連絡しないぞ、と。
でも、ちょっと待てよ、と、思った。
まりかはタカシを追い詰めたいわけではない。まったくない。
それなら、彼が気まずさを感じることなく、ちょこっと返信できることをまりかから投げかけて、助け舟を出すのがよいのではないか。
たまたま足を運んだ前の職場の敷地内にある、お気に入りの桜の木を見上げた。
蕾は固く大きくふくらみ、小枝の一本一本までがふんわりと桜色に染められている。
これから春になるぞという生命感に満ちあふれた、まりかが大好きな光景だ。
「木全体が桜色」
青空を背景にした大きな木と、蕾の写真を添えて、タカシに送ってみた。
「満開はまだだね」
「来週、きれいに咲くといいな」
来週の日曜、都内に桜を見にゆく約束をしている。
約束をしている、と、思っているのはまりかだけかもしれないけれども、少なくとも、まりかからはゆこうよと言ってある。
ことわりのメッセージが来なかったということは、イエスの返事と思うことにしよう。
まりかがほしいのは、彼から奪い取る愛ではなく、彼が自ら与えようとする愛だ。
そのためには、まりかがまず、自分を愛してあげよう。
まりか自身が愛したくなるようなまりかになれれば、タカシもきっと愛してくれる。
だって、タカシ以外にまりかの裸を見たり触れたりする殿方は、この地球上にいないのだから。
パートナーシップもであることではなく、すること。
ふたりで少しずつ重ねてゆく途上にあるのだ。