番外編2:7時35分の恋人
私には、「小さな恋人」がいる。
彼は毎朝、7時35分に私の家の前を通りすぎる。
彼は黒いランドセルをカタカタ鳴らし、黄色い帽子をかぶって、はにかんだ笑顔を浮かべて私に手を振ってくれる。
くりくりっとした茶色がかった瞳で、私の心はどきゅんと射抜かれる。
私の家の前には、1枚のチラシが揺れている。
そう、私は子ども食堂のおばさんだ。
子ども食堂を立ち上げたのは、2020年の春、一斉休校のさなかだった。
年明けにちょうど、この地区にも子ども食堂がほしいね、と、5人が集まったところだった。
仕事を休めず困っている保護者もいるだろうし、世の中がざわつく中、子どもたちも不安なのでは、と思ってのことだった。
最初は20食ほどだったが、現在は毎月、60食ほどを提供する。
小さな接点が信頼を生み、「電気が止まりそう」「お米がなくなった」などのSOSが飛び込むこともある。
ときには私たちスタッフが、ときには民生委員や行政と一緒に駆けつける。
同じ地域で同じ時代に暮らすのも、何かのご縁だ。
地域での活動は、新しいつながりを運んでくれる。
昨年の春と秋、屋外で食堂を開催したときは、防災パトロールと防災グループの人たちが、交通整理を黙々とやってくれた。
子ども会のママパパたちは、マシュマロ焼きやホットチョコレートで盛り上げてくれた。
バルーンアートのボランティアグループのみなさんは、カラフルなつるぎや動物づくりで大忙し。
会場の公園では、ひとり暮らしと思しきシニア男性たちがベンチに陣取り、おにぎりをほおばりながら、走り回る子どもたちをにこにこ見つめる。
子どもたちを真ん中に、同じ地域に暮らす人たちが、想いを重ねてひとつになる。ああ、地域って何てすてきなのだろう。
そして今朝も私は、7時35分に家を出る。
私のまちの「小さな恋人」に会うために。
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