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ぴえん充電器
感情の小さな揺れが電化されるエコ商品という触れ込みの、腕時計型ぴえん充電器を買ってきた。フル充電されると、自治体のゴミ袋と交換出来るらしい。電源ボタンを押すと、『ぴえん』と哀しげな声がした。
手始めに映画でも観てみようかと、動画配信サービスを呼び出すが、どれもぴんとこなかった。小説はどうだろう。本棚を眺めていたら、高校の卒業アルバムに目に止まった。久々に見てみたくなって手を伸ばすと、卒業アルバムの上に置いてあった文庫本が足の上に落下した。
「いってえ!」
声が出たのと同時に腕時計から『ぴえん』という音がして、モニターの目盛が一つ動いた。目盛は百まである。
「何年かかるんだよ」
アルバムを開くと、好きだった彼女が恥ずかしそうに笑っている。文庫本が彼女から借りた本だと気づいて、携帯電話で彼女のアドレスを呼び出す。
「まだ変わってないかな」
心臓が高鳴る。
『ぴえん』と嬉しそうな音がした。
了
⭐︎毎週ショートショートnote応募作品です。内容が、かぶっていたらすみません🙇♀️