君に贈る火星の
「誕生日おめでとう」
友人は宝石箱を開けた瞬間、笑みを引っ込めた。
「何よ、この黒い石」
「ヘマタイトだよ。勝利へ導く石って言われていて、火星でよく採れるらしいね」
「何でそんな石」
「星間トライアスロン、参加するんだろう」
太陽系をスペースシップで一周する競技だ。
「まだ決めたわけじゃないわ。それに、試験だって競技可能ギリギリのC判定よ」
壁に貼られた火星の写真を羨望の眼差しで見た。
「君に足りないのは自信だよ。それに、優しすぎる」
接触事故を気にしすぎて、競り勝った事が無かった。
「分かってるわよ」
「火星はローマ神話の戦いの神マルスだとも言われてるんだ。きっと君に力をくれる」
火星の写真が、窓から差し込む太陽の光で燃えるように赤くなった。
「きっと、大丈夫さ」
友人は力強く頷くと、ヘマタイトのピアスをつけた。
「有難う。私、やってみるわ」
戦いの神の力を得た彼女は、きっと無敵だ。