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土岐麻子 / TALKIN'

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日本のビッグバンドdCprGをまとめる菊地成孔氏が、過去にaikoについての愛を語っていた。もし関わったらガチで好きになってコクってしまう、という何とも面白い内容だったのだが、菊地氏がそう語る気持ちも分かる。
なぜなら私も同じような感覚を覚えるアーティストがいるからだ。  

そのアーティストとは、土岐麻子さんだ。
日本で一番好きな女性シンガーであると私の周りの人にも語っているのだが、もう本当にただただ好きなのだ。
人によってそれぞれハマる歌い方や歌声はあるとは思うのだが、私の場合はドンピシャで土岐麻子さんの歌が好きだ。
聴き始めたのは私が大学受験で浪人するかしないかという頃くらいだったと思う。初めて聴いた時は体に稲妻が走った。一発で好きになってしまったのだが、センター試験の頃に土岐さんが結婚したというニュースを見て結構ショックを受けた記憶がある、懐かしい思い出だ。
過去にApple Musicのアカウントで『My Toki Asako』というプレイリストを作ったのだが、我ながら名曲しか入っていない良プレイリストだと自負している。


そんな土岐麻子さんが大好きな私が紹介するのは、『TALKIN'』というアルバム。
土岐麻子さんは元々Cymbalsというバンドでボーカルを務めており、その後ソロ活動を始めた。
当然私はCymbals時代の曲から全て聴いているわけなのだが、正直Cymbalsの楽曲は個人的に好きでないものも多い。というのも、沖井礼二さんの楽曲があまり好きではない。もちろん好きなものもあるのだが、あの目まぐるしいコード感など少し聴いていると疲れてしまう曲が多いのだ。なので、ソロ活動の曲の方が好きだ。
ソロ活動になってからの土岐さんの楽曲は、R&Bであったりジャズ、AOR的な要素が強い。私は元々ブラックミュージックが大好きだったので、そういう意味合いでは親和性が高かったのかもしれない。そんな私が恋に落ちた土岐さんの『TALKIN'』を紹介していく。



本作のスタートは"モンスターを飼い馴らせ"
この曲は私にとって思い出の曲で、大学に入学してから一番初めにコピー練習した曲がこの曲だ。最近弾き込んではいないものの今でもすぐに思い出せるほど練習していた。
陽気で健康的なアーバンポップで、土岐さんの魅力を前面に引き出している楽曲だ。この曲の他にも、"青空のかけら""WALK ON"も比較的明るめのポップで、土岐さんの可愛さが引き出されている。
"モンスターを飼い馴らせ"のレコーディングでベースを演奏しているのは、NONA REEVESでのサポートやKIRINJIの正規メンバーとして活動する千ヶ崎学氏。サビやアウトロのベースラインは、まさに一級品。ありがとうございます!と言いたくなるベースラインを堪能できる。


2曲目の"HOO-OON"は山下達郎氏の楽曲のような80年代AORや松任谷由実氏のような雰囲気を感じさせるメロディの楽曲だ。
こちらもかなり明るめのポップスでいわゆるドライブミュージックという感じなのだが、土岐さんオリジナルの曲の中でもかなり英詞の部分が際立っている楽曲。


"ファンタジア"は本作の中でも恐らく一番有名な曲だが、同時に一番の名曲と言っても良い。
夜の都会を彷彿させるが、毎回クリスマスイブの日に決まって必ずこの曲を聴いてしまう癖がある…。別に自分に余裕を出したいから聴いている訳ではないのだが、なぜか引き寄せられてしまう。
歌詞の言葉選びも秀逸。一つ一つの表現が繊細でとても美しく、私の心をガッチリ掴んで離さない。この曲で完全に恋に落ちてしまった。
ギタリストの小倉博和氏やボーカリストの佐藤竹善氏が参加しているライブテイクがあるのだが、何十回、何百回と見た。そして何度見ても鳥肌が立つテイクだ。
ちなみに、PVには在日ファンクの浜野謙太氏が出演している。


あまりにも好き過ぎるが故に、大学のサークルでも何度もバンドでコピーしている(難しい楽曲が多いにも関わらず付き合ってくれる先輩や同期、後輩には頭が上がらない、ありがとうございます)。
本作の中でも'モンスターを飼い馴らせ""ファンタジア"、そして"MY SUNNY RAINY"は、大学のサークル内で演奏した。
"MY SUNNY RAINY"はまるでディズニー映画の『Mary Poppins』やミュージカルの世界観を彷彿とさせる楽曲になっている。
転調後からのラストにかけての盛り上がりは本当に拍手を送りたくなるほど好きだ。
土岐麻子さんは現代における「シティポップの女王」と呼ばれる程の存在であるが、このようなシティポップと呼ばれるようなアルバム以外にもジャズスタンダードのアルバムをリリースしている。この"MY SUNNY RAINY"は、双方の要素が上手く混ざりあった良曲。


"眠れる森のただの女""サーファー・ガール"も私の大好きな曲だ。
"ファンタジア"を除いて今まで明るめのポップスが多かったが、"TALK SHOW""眠れる森のただの女"では打って変わって落ち着いた雰囲気に変わる。
"眠れる森のただの女"も、少し物語や映画の世界観を想像させるような楽曲。Cメロを聴くといつも私の胸はぎゅっと熱くなってしまう。

土岐さんのシティポップ3部作のうちの1枚目の作品である『PINK』の初回限定盤にはライブDVDが付いてきており、そのツアーライブでは"サーファー・ガール"が演奏されていた。一つ前の『Bittersweet』のツアーの映像であったが、その際にはこの曲は弾き語りアレンジになっている。原曲の方が好きではあるのだがそのライブテイクも良い。
バンドサウンドはかなりスムースで、こちらの方が松任谷由実さんの雰囲気に近い。土岐さんもカバーアルバムの『CASSETTEFUL DAYS』で名曲"Hello, my friend"をカバーしており、やはり強くリスペクトしているのだなと思わされる。


ラストに収録されている"COME ON A MY HOUSE"は元々1939年に作曲された曲である。江利チエミさんというシンガーがカバーした昭和の歌謡曲感の溢れるテイクを元に再びカバーされている。
明るくキュートでファンタジックな曲が多い中で、"MY SUNNY RAINY""COME ON A MY HOUSE"のようにジャジーで60年代以前の雰囲気を感じさせるような楽曲も歌いこなせてしまう。アルバムの中でもサウンドだけ見ると少し異色な雰囲気を放っているが、リード曲の"ファンタジア"を初めとするコンセプトには不思議と合っているような気がしている。




これでアルバム自体のレビューは終わりなのだが、私は本当に土岐麻子さんが好きなので少し土岐さんの別の曲の話をしたい。

私はバラード人間と言っても良いほどバラード楽曲が大好きなのだが、その中でも土岐さんのバラード曲はピタッと自分の中にハマる。
"ホロスコープ""Mr.Summertime"などは過去の自分の記憶などと結び付いてしまって、何度聴いてもつい泣いてしまいそうになる。特に、秦基博さんとの共作である"やわらかい気配"は本当に素晴らしいと思った。こんなに優しい声でこんな言葉を歌われてしまったら…。いや、もうこの先は書かないようにしよう。思いが溢れてしまう。

ダンサブルな曲も大好きだ。"セ・ラ・ヴィ ~女は愛に忙しい~""LIBERTINE"等、本当に好きな曲を挙げていくとキリがない。
歌とバンドサウンドが見事にマッチしており、本当に全部の曲をコピーしたくなってしまう。土岐麻子さんの声や歌い方は、ライトなR&Bやディスコサウンドとの相性が良いのだろう。見出した人を称賛したい。



正直な話、シティポップ3部作と評されてきた『PINK』、『SAFARI』、『PASSION BLUE』は、アルバム全体の感想としては好きな方ではなかった。
もちろん"美しい顔""STRIPE""mellow yellow"など私のドストライクの曲もあったが、やはり土岐さんには生音ベースのあのエネルギッシュなバンドサウンドの中に囲まれて歌っていてほしいとどうしても思ってしまう。
過去に投稿した「音楽におけるジャンルについて向き合うこと」でも述べたが、DAWソフトの発達やDIY系のムーブメントの台頭によって打ち込みの音色が目立つようになってきている。その時代の波に乗った、現代の都会的な生き方の結果としてのシティポップの回答がこの3部作なのではなかろうか。

内容が少し重複してしまうが、本当に私自身の好みの話であるが土岐さんにはやはりあの上質で、少し繊細かつエネルギーに満ちたサウンドの中で生きていてほしい。そのような意味において、本作は本当に私の中で傑作と呼べるものだ。私の好きなものが凝縮されている本作を聴いたら、もしかすると貴方も土岐さんに恋をしてしまうかもしれない、なんてことを考えながら今回の記事を締めたい。

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