(3/3) SaaSスタートアップの資金調達のためのハンドブック by IVP

引き続きハンドブックをお届けしたいと思います。
1/3はこちら
2/3はこちら

VALUATION

これまでの内容は、究極的には投資家がいくらなら喜んで支払うのか?というバリュエーション価格をお伝えするための前段でした。
バリュエーションはアートとサイエンスの融合です。
アートな部分は、市場規模算定、製品のフィードバック、CEOのビジョン、マネジメントチームの強みといった主観的な評価です。
サイエンスな部分というのは、成長率やビジネスの基礎(営業効率、NDR、チャーン等)に基づいた客観的な評価です。

Private Comparables

投資家は通常、未上場SaaS企業の直近行われたラウンドの一覧リストを持っており、主に次の2つの指標にフォーカスしています。
1. 企業価値(プレバリュエーション)÷現在のARR
2. 企業価値÷NTM ARR (次の12ヵ月で期待されるARR)
マルチプルは、企業の長期的なパフォーマンスをドライブするいくつかの要因に影響されます。
成長率、資本効率、SaaSの主要指標(NDR, GDR, マジックナンバー等)に加え、市場規模、チームの強さなどもこれに含まれます。
注目すべきは、現在のSaaS企業のARRマルチプルが過去最高水準にあるということです。
ただし、ハイバリュエーションで調達することのリスクは数多くあります。
例えば、もしマーケット状況が変わったり、次の資金調達までにバリュエーションに見合うだけの成長ができなかった場合に、将来的にダウンラウンドする可能性もあります。
とはいえ、将来のマーケット状況を予測することは不可能に近いと言えるでしょう。

Public Comparables

スケールが大きいSaaS企業には、バリュエーションの際に上場企業を参考にすることがあります。ARRを公開していない上場企業の場合、NTMの売上高(次の12ヵ月に発生する売上)の倍率で取引されます。
ARRは四半期のサブスク売上×4で求められます。
下の図は、上場企業のNTM売上マルチプルの推移です。
ご覧の通り過去最高の水準です。

画像1

Returns Modeling

また、投資家は通常、投資に対し期待できるリターンを概算するモデルを作ります。
成長性、収益性、希薄化などについて様々な仮定を置き、複数パターンのケース(ストレッチケース、マネジメントケース、ベースケース、ローケース等)で作ります。
Exit時のマルチプルは、高成長率のSaaS企業の現在または過去の取引されている水準に基づき(先ほどの図)、検討中企業の成長性や収益性といった特性によって調整します。
これらの想定を元に、Multiple of invested Capital(何倍のリターンがあるか)やIRR(内部収益率)を算出し、さらにその結果に確率を加味して期待収益をシミレーションすることがあります。
タームシートを出すためには、マーケットの適正価格を鑑みても各ファームの戦略に基づく時間軸・リターン基準で巨大な経済的リターンがあると信じる必要があります。

CRAFTING YOUR STORY

資金調達のプロセスはしばしばプレゼンから始まります。
全ての資金調達プロセスでピッチデックが必要というわけではありませんが、新規投資家とスピーディーに会社のビジョンを共有すつためには、一つの効率的な方法と言えます。
ピッチデックの構成は様々ですが、説得力のあるストーリーを伝えるための最良の方法についていくつか考えを示したいと思います。

1. Intro (1枚)
全ての人にプロダクトやサービスのバリュープロポジションを知ってもらう
・経歴やミッションのサマリー
・コアバリュープロポジション
・プロダクトやサービスの定義

2. Team (1枚)
ビジョンを実現しうる経験豊富でモチベーションの高いチームであることを示す
・マネジメントチームと経験
・機関投資家
・取締役会メンバー

3. Opprtunity (1-2枚)
プロダクトやサービスのニーズと市場規模を理解してもらう
・顧客のペインを示す
・市場規模を推計する

4.  Solution
どのように問題を解決するのか明確に示す
・解決策をデモする
・なぜ今なのか?

5. Competition
競合は誰で、なぜ自社製品の方が優れているのかを示す
・競合マトリックス
・違いや他社が容易に真似できないアドバンテージを示す

6. Traction (2-4枚)
収益モデル、モメンタム、KPIを示す
・ARR / 売上成長率
・ACVやNDRといったKPI
・顧客のロゴ

7. The Ask (1枚)
投資家に求めていることの概要
・いくら調達したいのか
・資金用途
・過去の調達実績

STORY TELLING PRO-TIPS
[What Does Your Comapny DO?]
ピッチしている相手全員がきちんと理解していることを確認してください。
この市場においては、投資家はピッチの前に下調べをしているはずですが、強力な印象を残すことは重要です。

[Team Upgrades]
チームが揃っていなくても構いません。不足している部分とそのプランを率直に共有しましょう。熱意のある投資家は自分たちのネットワークの中で候補者になるかもしれない人を紹介してくれるかもしれません。

[Provide Historical Context]
市場機会を議論する際には、これまでの市場の変遷や、なぜ今その変曲点にいるのか、そしてなぜそのマーケットで自社のソリューションがベストなのかを説明しましょう。"なぜ今""なぜあなたなのか"は投資家にとって非常に重要です。

[Know the Financials Cold]
財務状況は詳細に説明できるようにしましょう。
投資家はあなたがビジネスをきちんとハンドルできているかを見ており、財務への理解はその指標になり得ます。

[What is Your Ask?]
自分たちが何を望んでいるのかを明らかにし、資金の使用用途を話せるようにしましょう。投資家はどれくらいのバリュエーションを期待しているのか尋ねてくるかもしれませんが、どの程度伝えるかはあなた次第です。よくあるのは、"Y%の希薄化で、Xドル調達を希望したいと思っています"という表現です。

[CEO is the Main Presenter]
ピッチの最中はCEOが話すようにしましょう。もしCFOやCOOが大部分を話せば、それはイエローフラグです。

[Polish Your Presentation]
もし時間やリソースがあれば、デザイナーを雇ってスライドをプロのように仕上げてもらいましょう。
テキストばかりでデザインが乏しいピッチデックは、第一印象を悪くし、企業ストーリーを効率的に伝えることが難しくなり得ます。


いいなと思ったら応援しよう!