ECキューブ→Shopifyへの移行で経験したこと
こんにちは、化粧品会社でEC担当をしているユリです。
弊社は去年、自社ECサイトのリニューアルを行いました。
ECキューブというシステムからShopifyへ、ドメインも含めまるっとお引越しです。
入社2週間で当プロジェクトのプロジェクトリーダーとなった私は、数万人いる会員様を移行するため、半年に渡り奔走することとなったのです。
今となってはもっとこうすればよかったなぁと思うことや、Shopifyならではの特性、費用感やスケジュール感など。備忘録として、このプロジェクトを振り返ってみようと思います。
これからShopifyに移行する予定があるよーという方に、なにかご参考になる部分があれば幸いです。
曰く付きプロジェクトの始まり
2022年1月。私はEC担当として、この小さな化粧品会社にジョインした。
これまではアフィリエイトやSaaSなどの無形商材の世界にいたため、「在庫がある」ということが新鮮で、その面白さと煩雑さに驚いていた。
入社してすぐ、私はWEBリニューアルのプロジェクトを”引き継ぐ”ことになった。
そう、私の入社前からすでにプロジェクトは動いていた。
それも1年以上前から。
どういうことかというと、「作ってはいるけど、大量のバグがいつまでも直らず、とてもローンチできる状態じゃない。あっちを直せばこっちが壊れ、もう永遠に完成しないサグラダ・ファミリアと化している」とのことだった。
今の状態を把握したところ、根本的な部分に問題があり、もう修復不可能という感じだった。
時系列で言うと、
・SEO対策をし、デザインをブラッシュアップしたサイトを作りたいというトップの意向があり、トップ主導でプロジェクトがスタートする
・トップは日本語が話せない外国人のため、日本のベンダーではなく、英語でやり取りができる知り合いのアメリカ人ベンダーに委託
・アメリカ人ベンダーはWordpress専門で、ShopifyなどのECカートシステムにはあまり知見がなかった
・アメリカ人ベンダーは、「SEO対策なら絶対にWordpress」と主張し、Wordpressで作ったサイトに、カートシステムだけShopifyのものをくっつけるやり方を採用
・Shopifyのカート機能だけ切り出すというやり方はあまり一般的ではないようで、バグだらけとなった。また、WEBサイトやプログラミングの知識が一切ないトップがプロジェクトを主導することは困難を極め、結局現場メンバーがアサインされることとなる。
・アサインされた現場メンバーも、英語が話せなかったり、同じくWEBサイトの知識がなかったりで、なかなかうまくいかなかった。そして大量の退職なども重なり、プロジェクトリーダーがコロコロ交代することとなる。
・結局誰も担当者がおらず、なかば諦められた状態で、私はこのプロジェクトを引き継ぐこととなった。
という流れだ。
「ユリさん、とんだ不良債権受け継いじゃったね。頑張ってね」
チームメンバーから肩を叩かれた。
幸いだったのは、このプロジェクトをイチから巻き直すことを許してくれたこと。
つまり、1年以上、数百万をかけて開発してきたこのサイトを無かったことにし、また新たにベンダー探しから始めて作り直すこととなった。
サンクコストに固執せず、損切りするのは英断だった。
もしあのサグラダ・ファミリアをエイヤでローンチして運用していたら、私達はとんでもないトラブルやクレームに見舞われていたことだろうと思う。
大急ぎでのベンダー探し
そうと決まったら、まずは開発をしてくれるベンダー探しだ。
セキュリティやコスト的な観点から、Shopifyを使うという縛りがあったので、Shopifyが得意なベンダーを探した。
また、トップは最後まで「SEOのためにWordpressを!」と訴えていたが、私がSEOはどのシステムを使うかはほとんど関係なく、コンテンツが命だということ、Shopifyのブログ機能でも近しいことができることを伝えたら、Shopify一本でサイトを作ることを許してくれた。
ShopifyにはShopifyパートナーという、Shopify公認のベンダーがいるので、そのリストを片っ端から問い合わせた。
10社ほど面談した気がする。
会社によって「(技術的に)これはできる」「これはできない」と意見が分かれていて、同じShopifyというシステムの話をしているとは思えなかった。
その中で、最初の電話から好感を持った会社があった。
その会社(以下C社)は、福岡にあるShopify専門ベンダーだった。
窓口となった担当の女性がとても知識のある人で、こちらの質問にすべてよどみなく答えてくれた。
また、最初の面談から要件定義のテンプレートに書き込んで行くかたちで話が進んでいって、とても生産性の高いやり方をしてくれるように感じた。
相見積もりは大事だ。
少なくとも4〜5社以上は面談することをおすすめする。
他のベンダーはもう考えられないなと思い、見積もりをもらって社内協議。
ちなみに、いろいろな会社から見積もりをもらったが、予算はだいたい250万〜500万くらいという感触だった。
もちろんどこまで何をやりたいかによるけど。
このとき、すでに3月。
「お盆前までに絶対にローンチしたい」という、今思うとなんかよくわからない理由のリミットが与えられ、慌ただしく開発が始まった。
亡霊に命を吹き込む
今回のリニューアルは、ちょっと特殊だ。
というのも、現在稼働しているサイトAがあり、本来リニューアルサイトBになろうとしていたが、結局羽化せずにサナギのまま放置されたA'がある。
リニューアル後に使いたいドメインはA'に使われており、またA'にはあらかた新しいサイトの構成や情報が入っている。おかしいのは主にCSSやバックエンドの部分だから、要件定義はこのA'を基に作ろうと思った。
これはかなりショートカットになった。
放置され亡霊と化していたA'の魂を、新たなシステムに移植する感じだ。
ドメイン移行ではのちに地獄を見ることになるのだが、開発に入るまではかなり早かった。
ここもイチから考えていたら、お盆には間に合わなかったかもしれない。
あらかたサイトの構成が固まり、トンマナなどの意向を伝えたら、ベンダーがいくつかのテンプレートを提案してくれた。
Shopifyはテンプレートに依存するので、ここはかなり重要だった。
テンプレートに沿ってサイトを作ることになるので、商品の見せ方やレイアウトなど、一番理想に近いテンプレートを選ぶ必要がある。
あとから変更することが難しいので、慎重に検討したほうがいい。
候補のテンプレートのデモサイトをトップに提案した。
こだわりが強い人たちなので、苦戦するかと思っていたが、周到に準備していたおかげか、「これでいいじゃ−ん!」と意外とスッと通った。
基盤となるテンプレートが決まった。
並行して、どのアプリを使ってどんなことがやりたいかもすり合わせていた。
トレードオフなアプリ選び
Shopifyの特徴といえば、アプリによる拡張性だ。
Shopifyのデフォルト機能でできないことは、アプリを入れて解決する。
例えば、領収書をダウンロードできるようにするアプリ、送料無料のバーをつけるアプリ、自動でGWPをつけるアプリなど。
そんなアプリ選びの中で一番悩んだのが、顧客のポイントアプリだ。
弊社はもともと、注文金額の○%をポイントとして付与する、というポイントプログラムを設けていた。
自社ECで購入する唯一のインセンティブとなるので、新サイトでもポイント機能は必須だった。
ポイントというのは日本特有の商慣習なので、海外製のShopifyはデフォルトでポイント機能は備わっていない。
Shopify内でポイントの管理はできず、Shopifyに入れたポイントアプリ内にShopifyの顧客情報を引っ張ってきて、その中でポイントを紐づけるしかないのだ。
ポイントアプリはたくさんあるが、コストもまちまちだ。
C社はいくつかアプリを提案してくれたが、その中で最後まで迷った2つを紹介する。
1.Easy point
└一番メジャーなアプリ。費用が高額で、弊社のユーザー規模だと1ヶ月10万円前後かかる。
Shopify上のマイページからユーザーがポイント数を確認できるので、ユーザビリティが高い。
2.Growave
└日本語対応が怪しい(でも一応できる)海外アプリ。レビューやバースデークーポンなど色々な機能を搭載していて、コストは1ヶ月数千円と手軽だが、ウィジェット内でしかポイントが確認できない。
主にコストの部分で、Growaveを使用することになった。
表記がすべて英語で、大量の日本語翻訳作業が発生するが、仕方ない。
Easy pointは高額なだけあって、だいたいのことはできるようだ。
「マイページからポイント見れないんですか?」という声は割とよくいただくので、コストに余裕があるならEasy pointsのほうがいいかもしれない。
ただし、
・貯まったポイントを利用するときはクーポンコードに変換し、クーポンを適用するかたちで使用すること
・複数クーポンを適用することはできないこと
この2点はShopifyの仕様上、どのアプリでも一緒だ。
Shopifyは決済画面から先は拡張性がほとんどない。色々と機能をつけられるのはカートページまでなのだ。
緊張のユーザー告知&移行
ある程度ローンチの目処がついたら、早めにユーザーにリニューアルの告知をしなければいけない。
なぜなら、ユーザーには新サイトに移行していただく必要があるからだ。
そして、移行の際には貯まったポイントを引き継ぐことはできない。(やろうと思えば手作業でできるが、会員数が数千人以上いる場合は現実的ではない)
移行前にポイントを使い切ってもらう必要があるので、ギリギリに告知するとクレームにつながる。
かと言って、あまり早くに「○月にリニューアルしますよ!」と告知するのもリスクだった。
バッファがない状態なので、大きなトラブルに見舞われたら、多少ローンチ日が後ろ倒しになるかもしれない。
(事実、このプロジェクトは以前1年以上完成せずペンディングになっていたのだから)
そしたら、また「すみませんやっぱ遅れます…」という情けない告知をしないといけない。
ある程度土台ができたタイミング、ローンチ予定日から2ヶ月ほど前に、メールやSNS、ニュースなどで告知した。
ユーザーには、
・リニューアル前にポイントを使い切ってもらうこと
・リニューアル後、パスワードを再設定してもらうこと
をお願いした。
そして、「迷惑かけてゴメンナサイ!」というよりは、「より楽しいサイトになるので、楽しみにしててくださいね!」というトーンにするよう心がけた。
ユーザーにとってもなにかベネフィットがあると思ってもらう方が(実際あるのだが)、より移行に協力的になってもらえると思った。
ユーザーからは、多少戸惑いの声もいただいた。
2ヶ月でポイントを使い切れだなんて横暴だという意見もあった。
移行というのはユーザーに負荷をかけるものなので、ここでクレームをもらうのは仕方ないというか、リニューアル担当者は覚悟した方がいいと思う。
ちなみに、移行作業自体はECキューブの顧客データをcsvで落として突っ込むだけなのでそんなに大変ではなかった。
このとき、C社が「のちに移行ユーザーか新規ユーザーか見分けられるように、"移行"っていう顧客タグ付けますか?」と提案してくれたのだが、これはやっておいて正解だった。その後何かと地味に役に立っている。
直前のアプリトラブル
その後、ローンチに向けて細かい部分を一気に詰めた。
C社の細やかなコミュニケーションに助けられながら、私もこのプロジェクトは最優先で、できるだけ質問やタスクに即レスするようにしていた。
そんなこんなで、プロジェクトはほぼオンスケで順調に進んでいた。
が、ローンチの1週間前。
例のポイントアプリGrowaveが、予告なく大規模なアップデートをした。
海外アプリあるあるなのか?本当に突然で、一部の計画がひっくり返った。
また、せっかく時間をかけて調整したデザインや文言も崩れて、設定しなおす必要があった。(ローンチ前で本当によかった。)
勝手にアップデートされると困る、有効化の選択肢を与えてくれ、と怒りの問い合わせをGrowave社にしても、「Hi there!そうそう、アップデートしたんだよ!これからもどんどんアップデートするから、楽しみにしててネ☆」などと抜かす。暖簾に腕押しだ。
緊急でC社とミーティングした。
C社もこのアプリの利用経験はあるが、ここまで大きなアップデートは初めてとのことで戸惑っていた。
C社「…ポイントアプリ、変えます?」
1週間前に、アプリ自体を変更する選択肢まで出たほどだった。
だが、Growaveの調整にも1ヶ月以上かかったわけで、これからドメイン移行や決済の検証などもしなきゃいけないわけで、今からアプリを変えるのは非現実的だった。
どうしよう…
文字通り頭を抱えた。
結局、Growaveのままで、文言やデザインは急いで再調整、一部ポイントプログラムの計画も変更することとなった。
Easy pointsにすればよかったと後悔した。まさか、こんなことになるとは。
Growaveに限った話ではないが、日本の親切過ぎるサービスに慣れていると、海外のドライな対応に面食らうときがある。
このときが一番精神的に負荷がかかっていた気がする。
またいつおかしなことをするかわからないアプリとこれから付き合うのか…という不安と、ローンチのスケジュールに間に合うのかという不安。
ユーザーから大量のクレームをもらい、一人で返す姿を想像したら気が滅入った。
しかもこのとき、コロナのオミクロン株が大流行していて、見事にかかってしまった。C社とのミーティング中も高熱が出ていた。
ちなみにC社の担当さんもコロナにかかっていた。
コロナ患者二人でこの絶望的なMTGをしていた、あの金曜日を忘れない。
いよいよ大詰め&最悪にめんどくさいドメイン移行
ローンチまで残り1週間。
Growaveの再調整と、ドメイン移行、そして決済などの最終検証がタスクとして残っていた。
一番最悪だったのはドメイン移行だ。これは本当にややこしくて煩雑を極めた。少しバッファを取っておいた方がいいと思う。
弊社は新たにドメインを取得するのではなく、サグラダ・ファミリアのA'で使用したドメインを移行する必要がある。
前任のアメリカ人ベンダー、既存サイトを開発したベンダー、そしてC社との架け橋になったのだが、これが地獄だった。
こういう特殊な状況だからか全くうまく行かず、3方向のベンダーとやり取りをしまくることとなった。
なんとか移行したあと、C社からは「通常の5倍くらい大変でした、お疲れさまでした」と労われた。そちらこそ、本当にお疲れさまでした。
決済の検証は問題なく、Growaveもなんとか調整が終わった。
いよいよ来る月曜日に、新サイトをローンチすることとなった。
無事、ローンチ
2日ほどのダウンタイムをはさみ、新サイトをオープンした。
ユーザー移行を促すため、リニューアル記念に3日間限定で、15%オフセールを行った。
このセールの反応は凄まじく、過去最高の売上を記録した。
そのおかげもあってか、割と早い段階で旧サイトでのアクティブユーザーと同等数のユーザーが新サイトに登録してくれた。
パスワードの再設定や、新しいポイント利用の戸惑いの声も多少いただいたが、概ねスムーズに適応してもらえた。
ショッピングガイドは画像付きでかなり丁寧に作っておくことをおすすめする。
今回のリニューアルで、クーポンの併用ができなくなるなど、一部ユーザーにとって改悪と感じられる可能性のある部分もあった。
が、CVRは微増し、アンケートでも使いやすくなったという意見を多くいただけた。
そしてもともとの目的であったSEO対策や、セキュリティの向上なども一応果たすことができた。
繰り返しになるが、Shopifyの良いところは、ノーコード or ローコードでさまざまな変更や機能追加ができることだ。
おかげで、エンジニアが社内にいない弊社でも、継続的に気軽にいろいろな施策を打てる。
ローンチ後もトラブルは多々あったが、現在は一応平和に運用できている。Growaveも。
長くなりましたが、以上がShopifyへのリニューアルの記録です。
読んでいただきありがとうございました!