日本語のお話①:「は」

日本語について記事にしていくと宣言してから早二か月が経ちました。更新できず、申し訳ありません。学生から社会人へのシフトがなかなかに忙しく、記事を書く時間が取れてませんでしたが、落ち着いてきたので少しづつ書いてみようと思います。GW中に5つくらいは記事を書きたいな。細々とやっていくので、よろしくお願いします。

というわけで、本題に入ります。今日は「は」について話そうと思います。「は」だけだと、何のこと?となると思いますが、今回は「は」の音についてです。助詞としての「は」、文法としての「は」についても今後書く予定です。

それでは、質問です。みなさんは「は」をどう読みますか?「歯」や「葉」の読み方の「は」でしょうか。それとも、「こんにちは」や「わたしは~」のような「わ」の読み方でしょうか。「は」だけ示されただけだと、2通りの読み方がありますよね。日本語ではひらがな1文字に対して1音が普通です。例えば、「さ」を「差」や「佐」のような「さ」以外に当てはまる音がありません。「は」は特別です。先ほど示したように「歯」や「葉」の読み方「は」と、「わ」という二つの音があります。同じように、「へ」も「へ」と「え」という二つの音があります。ローマ字の方がわかりやすいので、そちらで書くと「は」は/ha/と/wa/、「へ」は/he/と/e/です。なぜ「は」と「へ」には2音あるのでしょうか。

その謎を解く鍵として、日本語の歴史(通称:日本語史)が鍵となってきます。その歴史の中に「ハ行転呼音」という現象があります。この現象は、ハ行音がワ行音化し、今のハ行音化することを指します。では、ここで突然ですが、なぞなぞです。昔(中世)のなぞなぞにこのような問題があります。

「母には二たびあひたれど父には一たびもあはず」

(訳:「母だと二回会うけど、父だと一回もないものなーんだ?」)

解けましたか?答えは「くちびる」です。その答えを聞いて、え、「母」も一回も会わないじゃん、と思った方もいるのではないでしょうか。でも、答えは「くちびる」なんです。すると、「母」の読み方は昔は違ったのでは?という疑問が生まれます。ここで少し言語学的な話をすると、唇が触れて発音される音のことを両唇音と言います。日本語だと、「ば」「ぱ」「ま」「わ」「ふ」「ふぁ」が挙げられます。実際に発音してみてください。音を出すときに唇を使っていると思います。逆をいえば、唇を使わずに発音は難しいと思います。もし出来たなら、ご一報ください。大発見なので、大学の恩師に連絡して、データを取らせていただきます。^^

話が少し脱線してしまいました。ここで何が言いたいかというと、このなぞなぞが作られた時の「母」の読みかたは「はは」じゃなかったということです。では、何の音だったのか?「わわ」?「ふぁふぁ」?結論からいうと、これは実際の発音を聞かなければ分かりません。文献だけでは答えを出すことは難しいです。しかし、最初のほうに日本語史の中には「ハ行転呼音」の現象があることをお伝えしました。それに基づくなら、「わわ」となります。しかし、「わ」は他の両唇音に比べて、唇の触れ合い具合というのは弱いです。これでは、このなぞなぞで「唇会わないじゃん!」「いや、ちゃんと言えば唇会うよ!」などと論争が起きてしまいます。答えが納得いかないクイズほど、人から嫌われるものはないと思います。つまり、「わわ」ではないことがわかります。すると、「ふぁふぁ」という選択肢が残ります。「ふぁふぁ」でも納得いかないかもしれませんが、実際の発音はわからないこと踏まえた上でここから聞いてください。

分かりやすく説明するために、まず「ハ行転呼音」の現象は「ハ行」が「ワ行」から「ハ行」になっていった現象と冒頭で言いました。しかし、ここで付け加える点として、この現象には「ワ行」→「ハ行」の変遷の中で「ふぁ」が「ワ行」よりも前に存在したいうことです。実際の音声がないため、きっちりとした時代区分はないですし、また「ふぁ」と「わ」が話し手によって違い、同時期に存在した可能性もあります。断定はできませんが、昔の「ハ行」が現代の「ハ行」ではないことは、現代のあいうえお表を見れば推測はできます。どういうことかというと、「か」からのあの段をゆっくり言ってみてください。「か」、「さ」、「た」.... そのまま「わ」まで言ってみましょう。すると、あまり違いを感じないかもしれませんが、「か」から「な」までは舌がだんだん前に動かしていたものが、「は」で下に戻ります。そして、「ま」からまた舌が前のほうに、また唇を使い始めます。あいうえお表では、「は」を除いて発音する場所が「か」→「わ」に移動するにつれて、だんだん前になっていきます。しかし、この中での「ハ行」は他の行のように、口の中では発音しておらず、実際「ハ行」は喉の音、咽頭音と呼ばれ、実質一番後ろで発音されています。つまり本来ならば「カ行」よりも前に来なければならないのが、なぜか「マ行」の前に来ているのです。あいうえお表は平安時代に平仮名が作られたときに、作成されたものです。その時代から変化なく、「ハ行」が今の行に居る理由としてその時代では「ハ行」は今の「は」ではなく、「ふぁ」のような両唇音だったことがわかります。そのため、「な」よりは前だけど、「ま」よりは後という今の位置としてあいうえお表になったのではないかと言われています。

結構長くなってしまいました。では、なぜ「ハ行」が今の「は」の所謂、喉の音になってしまったのか?その理由は「ハ行転呼音」と深い関係のある「唇音退化」という現象です。人間、楽になるのであれば、どんどん簡単にしていきたい生き物です。唇を使う音も、使わなくてもいいなら使わないとなったのが「ハ行」です。その結果、唇を使用して発音していた「ファ行」が段々「ワ行」そして今現代の「ハ行」になったと言われています。つまり、その現象名の通り、「唇音」が退化していったのです。その結果、「は」には「は」と、少し昔の「わ」の音が今でも使用されています。また、「へ」には「へ」とワ行のえ段「うぇ」が段々「え」の音になったのではと言われています。すると、ハ行の中で「ふ」というのは、昔から今まで音が変わっていないこともわかってきます。

以上が「は」についてのお話です。1000字くらいでざっくり書こうと思ったら3000字近く書いてました。もし日本語史に興味がある人がいれば、『ケーススタディ日本語の歴史』がおすすめです。また、日本語の音声については『ここからはじまる日本語』という本が個人的にはわかりやすいです。音声以外にも色々日本語について書いてあるので、ご興味があれば是非。

次回は音声つながりで「じずぢづ」について書こうと思います。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


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