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アルベルゴ・ディフーゾ 「Il Canto del Maggio」への滞在記と日本のまちやど「hanare」の宿泊記
アルベルゴ・ディフーゾは、イタリアで「分散宿」という意味。
私自身は、学芸出版から出た”CREATIVE LOCAL”の本を通じて、取り組みを知りました。街にすでにある地域資源を生かして、街の人自身が楽しみながら、外の人も受け入れる「仕組み」があるんだ!と、読みながら心惹かれ、興味を持っていた取り組み。今回はクリスマスでお休みになる前に、駆け込みで滞在してきました。上の写真は、滞在していたお部屋です。
1月6日(日)の日経新聞にも見開きで特集が組まれていて、滞在していたill Canto del Maggioのシモーナさんも出ていました。紙面を手にしたら、じっくり読んでみたいと思います。
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▼私が滞在させてもらった宿
フィレンツェから電車で40分、Montevarchi駅から10分程度車に乗って進むと、小高い丘に「ill Canto del Maggio」はあります。
宿は石造りのしっかりとした造り。キッチンにエスプレッソ専用のヤカンがあるのは、イタリアならではかもしれません。
内装のアイディアは、シモーナさんが考えているそうで、パンフレットをはじめ、彼女のセンスが光ります。お父さんは空き家の改修を行い、内装のデザインはショコラティエの旦那さんが担当しているそう。
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ここでの滞在の仕方は、車を使ってどこかに出かけるスタイル。
フィレンツェまでも一時間程度で行くことができます。
繁忙期は、毎日の夕ご飯の準備で目が回るほど忙しくなるそうで、手伝ってくれるスタッフを雇っています。最近は、インターンとしてイギリス人が1ヶ月ほど滞在していたり、絵を描くアーティストが手伝いながら滞在したい、ということもあるそう。
HPには、ハイシーズンには音楽やアーティストのイベントなどが開催されると書かれていました。近くにプールやガーデンもあり、「初夏には花が咲いて天国のような場所になる」と話されていました。ぜひ見てみたい。
一番忙しくなるのは、6月、7月、8月、9月頃。12月から3月頃は、宿自体は閉じています。多いお客さんはドイツ、オランダ、日本の順番だそう。http://www.cantodelmaggio.com/ja/
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デザインやWEBがとても素敵だ!と伝えると、何年か前にデザインができる女の子と準備をしたと話してくれました。日本語にも対応しているんです。
▼シモーナさん家族の場合
今回滞在させてもらった、シモーナさん家族は数年前から宿経営をはじめました。きっかけは、新聞で「アルベルゴ・ディフーゾ」を紹介する記事をお父さんが見つけたこと。もともと経営していたレストランの周りにある空き家を改修して宿としてスタート。現在は小高い丘の上にある集落内に宿が9つ、最大20~25名ほどが滞在できます。近所には5-6つのお家で暮らしている方がいるようです。
彼女のお家で見せていただいた、およそ10年くらい前に出た本の中では、お父さんが独学でレストランをはじめ、彼女は看板娘としてドルチェを担当していたと書かれていました。現在はシモーナさんが仕切り、シェフは別の方がスタッフとして働いています。かつては、日本人の方が10年ほど修行していたそうで、現在は京都で「OSTERIA IL CANTO DEL MAGGIO」というトスカーナ料理のレストランを開いています。彼女自身、日本に旅をするなど日本好きでもありました。
「アルベルゴ・ディフーゾはいろんな形があるけれど、私たちの場所は”家族”のように接する」
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シモーナさんはそう言いながら、この街が好きで、ここに居たいという言葉も、合わせて伝えてくれました。
彼女自身が同じ言葉を、アルベルゴ・ディフーゾの宿を何件も旅する滞在客にも言われたそうです。景色の綺麗な宿、海のそばの宿、いろいろなスタイルがあるけれど、ここの特徴は”家族のようにアットホームなことだ、と。
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滞在させてもらう間、毎朝泊まるゲストに朝ごはんを出して、接するシモーナさんのそばで見ていたけれど、とてもフランクで、そしてリラックスして話しているように感じました。滞在している人との会話がイタリア語なので、わからないのが悔しい。
▼日本・谷中「hanare」での滞在を振り返って
イタリアへ行く2週間ほど前、友達と「日本のアルベルゴ・ディフーゾモデル」と言われるhanareにも滞在しました。今年のGOOD DESIGN金賞も受賞し、話題になっている場所です。
hanareは東京・谷中のホテルです。
しかし、単に一つの建物に完結したホテルではなく、まち全体を一つの大きなホテルに見立てることで 地域と一体になったホテルです。| hanare HP
東京に住んでいるとなかなか機会を作りにくかったのですが、行く前に体験したいと念願叶っての初訪問。
(シモーナさんも日本に行った際に、訪れたと言っていました!)
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hanareは、谷中の街全体を舞台に滞在を楽しむスタイル。
HAGISOの2階で受付を済ませ、昼・夜に分かれた2面のまちのMAPを使って、スタッフの方におすすめを聞いて、カフェ、夜ごはん、銭湯、と過ごし方を考えます。お茶とクッキーの心配りも嬉しい。
そこから100mほど歩いた宿に案内してもらい、荷物を置く。
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重箱に入ったアメティグッズがとても素敵でした。
ひとつひとつがデザインされていて、細やかな気配りを感じます。
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ひと息ついたあと、MAPを片手に街に出て、倉庫をリノベーションしたカフェ「CIBI」、イタリアン「NOBI」、銭湯「ふくの湯」に行き、お部屋でゆっくり過ごしました。
▼日本のまちやど「hanare」との比較
hanareは、「まち全体を宿に見立て」たコンセプトによって、
普段とは別の視点で街を楽しむ滞在方法。
アルベルゴ・ディフーゾは、街や集落に分散した宿で「暮らすように過ごす」ことをコンセプトにした滞在方法、だと思いました。
hanareは谷中の街に根ざし、「歩く」ことを通じて街に滞在する、1日〜数日の短期滞在のイメージ。
私が東京に住む日本人だからということも大きく作用していると思いますが、暮らすというよりは、街中の一部屋に滞在してみる体験でした。
配られるMAP、それをもとにしたアドバイスが街を見るガイドそのものでした。情報を伝えるMAPとアドバイスをするコンシェルジュスタッフの声で街での過ごし方は、自分で遊びに出かけるのとは異なるものに変わりました。
アルベルゴ・ディフーゾは、あくまでもヨーロッパの人の長期のバケーションに合わせた「暮らす」ことで街に滞在する、数週間の長期滞在イメージ。
私のいた宿は、近所には5-6家族ほどしか住んでいない集落のため、滞在客はみな自家用車で出かけたり、プールサイドや外でのんびり過ごすそう。
街のMAPのようなものはなく、きっとその人次第で時間を過ごしていく。
シモーナさんは、相談に乗ってくれるお母さんのような存在なんだろう。
だからこそ、アルベルゴ・ディフーゾの取り組みでは、ホストの存在はとても大きいと思います。
今回、私はお手伝いで居させてもらったこともあり、シモーナさん家族の一員のようにいられる時間でした。あくまでも、アルベル・ディフーゾの宿のひとつだけを体験した意見ですが、私自身が行くまでは日本のように「街」を舞台にした取り組みだと想像していたので、今回の滞在ではその違いを感じました。ご縁をいただいて住み込みのような形で滞在できたことに感謝しています。肌で感じられて、ますます知りたいことが増えました。
シモーナさん、シモーナさん家族の皆さん、縁をつなげてくださったまきさん、本当にありがとうございました。
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・・・
これからも、イタリアを中心に広がるアルベルゴ・ディフーゾの宿、北イタリアの地区の家、日本のまちやど、場づくりの現場など、私自身が惹かれる”地域資源を生かしながら、街に住む人自身が楽しんで、そこでの暮らしを共有していくまちづくり”の取り組みを、自分なりに考えて、言葉にしてみたいと思います。
▼私が滞在していた時のメモ
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12/19
1日目:フィレンツェから移動して、ディナーのお手伝い
リコッタリーズを練りこんだ、ほうれん草のニョッキをつくりました。
イタリア名物のアーティチョークはパセリにつけておくと変色を防げる、と豆知識ももらいつつ、
この日は一緒に来たまきさんと、特製ディナーをいただく。
厨房でお手伝いしていたからこそ、一層美味しく感じられました。
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12/20
2日目:街に出かけて、ショコラティエへ
驚くほど物音がしないことに驚きながら、隣の食堂で朝ごはん。
シモーナさん手づくりのスイーツとカプチーノをいただく。
この日はお昼にショコラティエの旦那さんのお店へ。
クリスマス前ということもあって大忙しのチョコづくりをほんの少しだけお手伝い。何層にも分けて流し込んでつくる過程はとても細やかな作業。
まかないをみんなで食べ、夜はシモーナさんのお家でごはん。
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12/21
3日目:マーケットに買い出し
昼にディナーの買い出しへ街へ、クリスマス前の金曜のマーケット。
銀行に寄るシモーナさんを待ちながら、覚えたイタリア語でお茶を飲んで待つ。昼は実家でお母さんの手料理のスパゲッティが美味しかった。キッチンもとても可愛らしい。夜は、シモーナさんのお家でごはん。
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12/22
4日目:1日のんびりと集落で過ごす
本を読んだり、散歩をしながら過ごす。
夕方から仕込みをする。1日目も作ったほうれん草のニョッキの作り方も慣れてきた。昼も夜も、シモーナさんのお家でごはん。
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12/23
5日目:クリスマスディナー
午前中にテーブルセッティング、ごはんを食べて夕方から準備。
飲めや歌えやの、こどもも大人も集まる25人の大宴会。厨房でイタリア語でなんとかシェフと話しながら、野菜のフリットを揚げ続ける。
「今日は立ちながら食べてね」と、作ったディナーを立ってつまむ。
作ったニョッキは柔らかかったようで厨房は一悶着していて不安になる。
つまんだけれど、とってもおいしい。これぞまかないごはん!
緊張の中での8時間労働でくたくた、翌日はひどい筋肉痛。
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