【ショートショート】支払いはバナナで
その国では、商品をバナナと交換していた。
良いバナナがとれれば、良い商品が手に入る。
おいしいバナナほど良い。
しかし、味は食べてみなければ分からない。
食べてしまうと、交換できない。
そこで食べなくても価値が分かるように、産地や品種などが重視されるようになった。
以前に食べておいしかったバナナと同じ方法、場所で育てられたバナナ。
それならきっとおいしいだろう、であれば価値は高い、という考え方だ。
しかし、すぐに偽モノが、産地や品種をごまかしたバナナが出回るようになった。
本物と見分けるために、色々な方法が生まれた。
ある時、天候不良による不作で、バナナがまったくとれなくなった。
困った人々は、バナナを別のなにかで作ることにした。
粘土で作ったバナナ、木彫りのバナナ、ガラスで作ったバナナ。
ガラス製のバナナはもっとも価値が高い。
しかしこれは割れやすく、扱いが難しい。
どこかにぶつけて欠けたりすると、バナナとして価値が下がる。
また、本物のバナナより重いので、持ち運ぶのも大変だ。
この問題の解決には、長い年月がかかった。
そしてついに、国民のひとりが天才的な方法をひらめいた。
紙にバナナを印刷するのだ。
持ち運びやすく、かさばらない。
バナナの香りを染み込ませることもできる。
さらに、多少破れたりしても価値はおちないというルールも用意した。
この発明は、この国をおおきく発展させていく。
「これが今、みなさんの手元にあるバナナのお話です」
スーツを着こなした男が、ステージのうえで語る。
「しかし、紙という素材も永遠ではありません」
「我々が提案するあたらしいバナナ、紙に変わるモダンなバナナ」
「デジタルバナナです」