【小説】交渉力

「それを私に譲ってくれ!」

会社に向かう途中の、いつもの駅前。
見知らぬ男に、とつぜん声をかけられた。

とまどう僕を気にすることもなく、男は近づいてきた。

男「急にすまない、でも私にはそれが必要なんだ」

男「それじゃないと私はダメなんだ、ゲン担ぎなんだ」

男「今日は重要な商談があるんだ」

男「絶対に失敗できないんだ、わが社の運命がかかっているんだ」

男「この車体の番号は、私のラッキーナンバーなんだ」

男はシェアバイクにまたがり、颯爽と走り出した。
僕が乗ろうとしていた、最後の一台だったのに。

時計を見る。

やれやれ、どうやら間に合いそうにない。

今日は大事な商談があるのに。

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