【小説】コミュニケーション

ウソがつけないコミュニケーションには、いくつか利点がある。

それが一方通行であれば、なお良い。

とくに ”相手の考えは知りたいが、こちらの考えは知られたくない” というケースには最適だ。

相手が本当はどう思っているのか。

これを一方的に引き出すことができれば、色々と大きなメリットがある。

平和を乱す輩(やから)の特定、反抗的な思想の把握、裁判の際にウソがつけないからラク、などなど。

簡単にいうと、一般市民の監視や管理につかえるのだ。
もっというと、一部の支配者側の人間が、よりその地位を強固にできるということだ。

これに必要なのは、送信用と受信用の2種類の装置。

一般市民には送信用の装置をつかわせ、少数の支配者側の人間は受信用の装置をつかう。

私がこれまで研究してきたテレパシー技術をつかえば、簡単に装置はつくれるだろう。

問題はその装置を「どうやったらこっそり、一般市民につかわせられるか」だった。

数回にわたる会議で、装置を薬のカプセル程度に小さくし、何かの機会に飲ませることに決まった。

当然、私はこのミッションの最高責任者になった。

成功すれば、はれて私も支配者側の一員だ。
そうと決まれば、さっそく製造にとりかからなければ。

ほとばしるエネルギーで、数日で2種類のカプセルが完成した。
1つは送信用で、もう1つは受信用だ。

あとは私が受信用の装置を飲みこみ、誰か手頃なヤツに送信用の装置を飲ませてテストだ。

テストの実験台として手っ取り早いのは、この研究所で働く助手だろう。

「そうだ、一番つかえないアイツに飲ませよう。」

先日大きなミスをやらかした助手をさっそく呼び出す。

ものの数分で私の研究室にあらわれた助手は、

なんだろう
この前のミスをまた叱られるんだろうか
もうこれで5回目じゃないか

そんな顔をしていたが、今日はどうでもいい。

いつものように「未来のための実験だ」とだけ伝えた。

そして装置の入った薬のカプセルを手渡し、飲むように伝える。
もちろん、助手にはこれがなんのカプセルかはわかっていない。

助手はおそるおそる眺めたあと、覚悟をきめたように飲み込んだ。
それを見た私も、右手にもっていたカプセルを飲み込んだ。

こうしてそれぞれがカプセルを飲み込んだ。
私は受信用を、相手は送信用を。

さてさて、どうなるかな?
正直なところ、こいつが何を考えているかなどどうでも良いが、テストは必要だ。

飲みこんだカプセルがとけて装置が動き出すまでは、3分ほどかかる。

私はイスに座り、コーヒーを飲みながらじっくりと待つ。
助手は所在なさげに突っ立ったままだ。

コーヒーを飲み終わったが、テレパシーが送られてこない。

かべの時計を見ると、5分は経過しているようだ。

遅いな。
なにか失敗したのかもしれない。

私の飲んだ受信側の不具合か?
このマヌケの飲んだ送信側のトラブルか?
あるいは両方?
成功なら、コイツが考えていることが私に伝わるハズなんだが。
しかし見れば見るほど腹のたつ顔だな。

困っている私の顔をみて、助手は声に出して言った。

「あの、その、なんというか…」
「なんだ?」

はっきりしないヤツだ。
だからコイツは使えないんだ。
だからいつまでたっても助手なんだ。

助手はこちらを伺いながら、おそるおそる、こう言った。

「おそらく、逆のものを飲み込んだのかと」

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