映画「ドライブ・マイ・カー」、素晴らしかった
良すぎた。
とんでもなく良かった。
個人的に、映画やドラマを観ることを、ここ数十年くらい避けてきた。
感情移入しすぎたり共感しすぎたりドキドキしすぎたりと、自分の感情が揺さぶられるのが苦手。
文字だけならまだいいけど、映像や音が入ると私には刺激が強すぎる。
HSP気質なのもあって、与えられた情報をはるかに上回る情報を受け取ってしまい、苦しくなる。
原作原理主義なこともあり、村上春樹作品に限らず、映画化やアニメ化されたものはほぼ観ないでいた。
でもこの映画に関しては、渡利みさき役が三浦透子さんというのを知った瞬間、絶対に観たいと思った。
私が原作を読んでイメージした渡利みさきの姿そのものだったから。
WOWOWで放送されたときに録画して、でも3時間かあ……と躊躇して数年、やっと観た。
本当に素晴らしかった!!
3時間という長さもあまり感じず、三浦透子さん演じるみさきはもちろん、家福役の西島秀俊さんや高槻役の岡田将生さん、家福の妻の音役の霧島れいかさんなど、もう出演者全員がすごく良かった。
ドライブ・マイ・カーだけじゃなく、他の作品の断片が入っていることは、前情報として知ってた。
でもシェエラザードのエピソードが出てきたときは
「お??……おーー!ここで!!!」
と意外なところへの差し込みに驚いた。でもそれがとても良かった。
原作を何年も読んでないから、観ている途中で「こんな話だったっけ?」と思ったけど楽しめたし、むしろそれが良かったのかも。
映画と原作は別物で、違う楽しみ方ができるんだということが、原作原理主義の私にもよくわかったから。
それはこの映画が原作を大事にしてくれているからこそ、伝わってくることだと思う。
いろんな想像ができる終わり方もとても良かったし、久しぶりに原作を読み返したくなった。
ここからは簡単に役者さんの感想を。
霧島れいかさんの音役、素敵だった。
他の男とも寝るけど家福のこともちゃんと愛している、という「相反するはずのものが心の中に同列に同居している」感じ、すごく伝わってきた。
観ているこっちがびっくりするほど、あ、家福のことも大好きなんだね、と思えた。
シェエラザードのエピソードが音の不安定さや脆さや弱さをより表している気がして、すごくハマってたなー。
高槻役の岡田将生さんの「繊細がゆえに危うい精神状態を持つ青年」という演技、ものすごく良かった。
観ててほんとにドキドキした。あまりにも危なっかしすぎて。
でもきっと、それゆえに(映画の中で立つ)舞台では役に取り憑かれたようになったんだろうし、そのあとに判明する現実で起こしたこととの重なり具合に、震えた。
車の中で家福と音の話するところは、ほんと凄かった。
最初は家福が知らないことを自分が知っているという優越感と、家福を責めるような怖さがあって、そのあとどんどん悲しさと涙が溢れてきて、その表情の推移に私も泣きそうになった。
三浦透子さんのすごく平坦な声色と感情を見せない表情、うわー、私のイメージ通りのみさきだ!って思った。びっくりしたし嬉しかった。
少しずつ家福に心を開いていく、というか、少しずつ自分のことを見せていく感じ、原作は短編だからほぼ書かれてないことなのに、とても自然だった。
十二滝町での家福とのやり取りでは、感情を抑えようとしているのに少しずつ出てきてる感じとか、なんというか……とにかく素晴らしかった。ほんとに。語彙力皆無。
西島秀俊さんの家福役は、原作を読んで私が抱いたイメージよりもだいぶ若くてかっこ良すぎでは?と最初は思ってたけど、ぜんぶ良かった。なにもかも良かった。
演出家としてワークショップで俳優を指導するところとか、きっと俳優業の人には日常茶飯事のことなんだろうなあ、と変なところに感心したり。
あと有名な、車のルーフから2人で手を出してタバコを吸うところ。
ここで来たかー!!!
そりゃ吸いたくなるよね!!!
あんなことがあったら!!!
と思った(元喫煙者としての共感)。
何十年ぶりに映画というものを観たけど、この映画は本当に良かった。
観終わったあと、しばらく余韻を楽しんでから原作を読み返したくらい。
そして食わず嫌いをやめて、これからは映画も観ようとしみじみ思った。
次は朝井リョウの「正欲」が観たい!
原作を(というか作者の作品世界を)愛しすぎて映画を敬遠していた私にも、原作と映画は別物として楽しめることを教えてくれた映画「ドライブ・マイ・カー」に、大感謝。