由良 理斗

かっこ悪いと思われてもいいから僕は僕を信じたい

由良 理斗

かっこ悪いと思われてもいいから僕は僕を信じたい

最近の記事

心音。

いつもよりゆっくり起きて。 いつもよりのんびり朝ごはんを食べながら、ニュースを流す。今日は暑いですよって。 いつもよりゆっくりと、冷たい水で顔を洗って、いつもよりゆっくり入念に歯を磨く。 それでもなぜか時間があまって、落ち着いた気分だったから、いつもよりゆっくり服を選んで、メイクをする。なんとなく気になって、リップを変えてみる。 いつもよりゆっくり時間が過ぎて、いつもの朝8時。 あなたがいなくなって。

    • くるし、まぎれ。

      スピーカーから流れてくる曲に耳を傾け。 詩は私の身体を、通り過ぎて。 日常に溶けていく。 足元にも、頭上にもない。聞こえてくる詩だけが、ただ私を抜けていく。抜かしていく。 置いていかれるのはいつも私。雑踏にも、喧騒にも。いつも何かに忘れられて。 ただ日常に紛れ込んだ私は、この誰へ向けるでもない音楽に似ている。 スピーカーから流れてくる曲は、 ただの一度も、耳を傾けてくれなどいわないだろうさ。

      • 羽音。

        バタバタと醜い音を立てて。 殺虫剤を撒かれたゴキブリは、まだ生きていたいと言わんばかりに。 空を飛ぶことを忘れ、気づけば地を這った。 まだ、終わらない。 片付けるのが面倒だった。何もかも。部屋を清潔になんか保てないし、おれの心だって仕事だってそうだ。なにも、片付いてなんかいない。 羽音が静まった頃。 おれはまた、地面に突っ伏して。 まだ、生きていたいだなんて思えただろうか。 バタバタと醜くとも、音を立てて。

        • モノガタリの物語、4夜目。

          もう二度と悲しまないように。 彼はそう言った。 忘れられない恋というものがあるとすれば、こういうものを指すのだろうか。 別れる時は嫌いだと言ってくれたら良かったのに。 もう二度と悲しまないように。 彼は私に深い傷を残した。 悲しい?悲しくはない。 けれどもやはり、残った傷は、いつまでも私の周りを走り回って、騒ぎ立てて。 なぜ私に嫌いと言ってくれなかったのだろう。 悪いのは俺の方だ。 そう言って彼は立ち去った。 なら何が悪いの。 何が変わってしまったの

          くれない月、夢の国の少年。

          今日もまた、 夢をみていただけなのかもしれない。 少しずつかけてしまった心を、埋めていく。 月が赤くなって、それを眺めているように、ぼくはあなたを見つめていた。 このくらいの距離でいつまでもいられたら、幸せだったのだろうかと。 あなたを見上げているくらいが、良かったのだろうかと。 もしぼくに勇気があったら、あなたとこの月を見ているのでしょうか。 夢でこの月に何度逢えたら、あなたに云えるだろうか。それで、あなたに手が届くなら、なんてぼくは思わない。あなたは僕が見

          くれない月、夢の国の少年。

          モノガタリの物語、3夜目。

          あなたは嘘つきだ。 やったことを認めない。 本当に感じていることは言わない。 本当に欲しいものは言わない。 本当に好きなものは愛せない。 本当に嫌いなものだけ嫌って、 本当に嫌いなものは自分だと言う。 あなたは嘘つきだ。 一番哀しい嘘つきだ。

          モノガタリの物語、3夜目。

          モノガタリの物語、2夜目。

          私が助けたのはあなたはではなくて、私だったと思う。 私が私たるためにあなたを助けたのだと思う。 私は私を認めるためにあなたを助けるしかなかったのだと思う。 私があなたを助けていなければ、あなたは今路頭に迷っていただろう。 私はだからあなたを助けた。 私があなたを助けていなければ、今のあなたはない。 私が助けたのは、私が私たるために、私がなければあなたがないという、証拠を欲しがっていた、私。

          モノガタリの物語、2夜目。

          苦悩

          人間は、苦悩する。 保育園、幼稚園。我々は、自他を学ぶ。あなたがあって、私がある。あなたは私とちがって、私はあなたとは、ちがう。私はひとりで、私たちはひとりではないこと。 小学校。我々は正解を学ぶ。投げられた問に、答えを求めること。答えが出せること。答えが出せると立派なこと。答えが出せないと、もどかしいこと。私たちが、ずっと答えを求めていること。 中学校。我々は葛藤を学ぶ。正解がわかっていても、そうしたくない時があること。必ずしもその正解が、正解ではないかもしれないこと

          モノガタリの物語、1夜目。

          1日1つだけでいいから、自分の人生のストーリーを書き出してください。と言われたら、あなたはどうしますか。 毎日、1つでも、書くことのできるような、「やり切った」と言えることはあるでしょうか。それがあったとしても、なかったとしても、書いたとしたらそれは日記と言われるものでしょう。 私は、私にはストーリーがあるはずなんだと信じて疑いません。私が、私というちっぽけな殻を抜け出して、「これこそが私の人生だ」と呼べるものを、私だと呼びたい。 それでは、さっそくですがひとつ、話

          モノガタリの物語、1夜目。

          残響、祈り。

          耳を澄ます。彼女の声に、私の胸は高鳴る。澄みわたる彼女の声は、さながら私を浄化するお薬のようで、フラッシュバックする自傷行為の血液と、右手に残った吐きダコの記憶や傷跡やらを、一枚ずつ埋めていく。 私はピアノを弾いていた。昔の話だった。音大に落ち、心のダメージから教師になる夢すら挫折。今では小さなバーを転々とし、縋る日々。好きだったメイクや、洋服、それらを選ぶ時間も金も気づけばきえ、舞台裏でチェックする私の姿は日々みすぼらしくなるばかり。衣装を着た今この時だけが私を飛躍させ

          残響、祈り。