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消費税・輸出戻し税のインチキ

政府が無理やり導入しようとしているインボイスや増税論議で注目を集める消費税。この消費税には輸出で儲ける大企業への特典「輸出戻し税」がついているのをご存知だろうか。
本稿ではこの「輸出戻し税」の「インチキ」について解説する。
(文責: 城崎裕一)


消費税は「預かり金」か

消費税は「売上税」という名前で議論されていたところを名前だけ「消費税」に切り替えて導入されたものである。
この消費税という名前に惑わされて「免税事業者は消費者が預けた消費税をネコババしている」と言っている人がいるが、それは間違い。
消費税法(以下、税法)第五条にあるように、消費税は「対価をもらって課税資産の譲渡など(要は売ったってこと)を行なった事業者に納税義務がある」税金なのであって、消費者が納税して事業者が預かる税金ではない。つまり消費者が事業者に支払う時点でその金はまだ「税金」ではないのである。

消費税の計算方法

消費税は以前の物品税と違って、小売段階だけでなく多段階取引の全段階のそれぞれにかかる建て付けになっているため、各段階の売り手からの徴収金額を決定する時に「売渡し価格」ではなく「付加価値(売渡し価格 - 原価)」を基準にしないと「課税の重複」が発生する。

消費税の計算方法を解説するにあたって何かわかりやすい例でやるのがいいと思うので、
ある事業者がある商品を400円で仕入れ、500円で売ることを考えよう。この時、仕入れに転嫁される消費税相当額は40円、売値に転嫁される消費税相当額は50円となる。(税率10%)

定義通りならこう計算される

消費税は「売り手事業者」がその付加価値を基に決まる税額を納税する税金であって、買い手は売り手が転嫁した相当額を「価格の一部」として支払う。
その定義に則るならば、税額の計算は以下のようになる。

ここで取り上げた例では事業者の支払う仕入れ代金が440円、客に売る代金が550円となるので、その付加価値は
550 - 440 = 110円。
この110円が事業者の取り分+消費税額(取り分の10%)なので、ここから消費税額を割り出すには(税率) ÷ (1 + 税率)を掛ければよい。
つまり、110 × 0.1 ÷ (1 + 0.1) = 10円が納める消費税額となる。

こうして輸出戻し税は産まれる

「課税仕入れ」とはどういうこっちゃ??

前節で紹介した消費税額の計算方法は「資産の譲渡等を行ない対価を得たものにその付加価値から算出される税額を課す」本来の消費税の定義に自然に沿った計算方法である。
ところが税法第三十条以下におかしなものが登場する。
「事業者(括弧内略)が、国内において行う課税仕入れ(括弧内略)若しくは特定課税仕入れ又は保税地域から引き取る課税貨物については、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める日の属する課税期間の第四十五条第一項第二号に掲げる消費税額(括弧内略)から、当該課税期間中に国内において行つた課税仕入れに係る消費税額(括弧内略)、当該課税期間中に国内において行つた特定課税仕入れに係る消費税額(括弧内略)及び当該課税期間における保税地域からの引取りに係る課税貨物(括弧内略)につき課された又は課されるべき消費税額(括弧内略)の合計額を控除する」
ん?? 「課税仕入れ」?? 何じゃそりゃ??
税法第二条十二号
「課税仕入れ 事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(括弧内略)を受けること(括弧内略)をいう」

ザックリ言うと「仕入れの時に転嫁された消費税相当額を、消費税として払ったものとして売値の10%の消費税額から〈控除〉する」ということ。しかし、この取引での実際の納税義務は普通の売り買い同様売り手である仕入れ先が負っている。〈消費税は「預かり金」か〉で述べたように、買い手事業者が支払った「対価の一部」は〈まだ「税金」ではない〉のである。

「価格の一部」なのに「控除」とは?? - インチキな計算方法

さて、いよいよ税法に示されたインチキ税額計算を先の例をとって見てみよう。
この事業者が買い手消費者に転嫁する税額相当分が50円
仕入れ業者がこの事業者に転嫁する税額相当分が40円
このとき、
本来の「税額」は50円なんだけど、仕入れ時に「払ったものと見做される」消費税額40円を「控除」して
50 - 40 = 10円
を消費税として納めるよう規定されている。
でもこれはおかしい。財務省の見解にも裁判所の判例にもある通り、転嫁された税額相当分は「価格の一部」であってまだ「税金」ではない。つまり「租税法」の世界の言葉で言うと「仕入れ取引の消費税において買い手は転嫁された金額を払っているだけで租税当事者ではない」ということである。
租税当事者ではない(=その税金に関わる法的地位を持ってない)事業者が「控除」を受ける法的根拠がないのである。

「輸出戻し税」爆誕

ではなんでこんな仕掛けにしてあるのか??
「インチキって言うけど、計算の順序が違うだけで結果同じでしょ」
…確かに国内に売ってる分には同じことになる。
しかし、同じ例で「税法第七条により免税(ゼロ%課税)」である「輸出」について計算してみよう。

  1. 定義通りの計算方法
    仕入れにかかる代金は440円
    売値は消費税率が0%なので500円のまま。
    付加価値が
    500円 - 440円 = 60円
    税率がゼロなので消費税額は
    60 × 0 ÷ (1 + 0) = 0円

  2. インチキの計算方法
    仕入れにかかる代金は同じく440円。
    このうち40円は「課税仕入れで支払ったと見做される消費税」
    輸出は免税(0%課税)なので売値に転嫁される消費税は0円。
    売値に転嫁される消費税相当額から「仕入れで支払ったと見做される消費税」を控除すると…
    0 - 40 = -40円!!
    あれ?? 消費税額がマイナスになっちゃった??

このインチキ計算でマイナスになった「税額」を還付する、これが「輸出戻し税」の正体なのだ。
実に手が込んでいる。見かけ上は「買い手に転嫁した税金分から仕入れで転嫁された税金分を控除して計算しましょう」「輸出は免税(0%)なので転嫁する税金はゼロですね」「控除を差し引くとマイナスになりました。つまり〈払い過ぎ〉なので還付します」と辻褄は合っているように見える。が、騙されてはいけない。この論理、そもそもの最初がおかしくて「売り手がその付加価値にかかる税金を支払う」のが消費税なのになんで「仕入れ」に限って「買い手」まで「支払ったと見做される」のか??
この「課税仕入れ」こそが「輸出戻し税」を産む「インチキのタネ」なのである。

おまけ・本来インボイスなんかいらない

とまあ、消費税法が「課税仕入れ」というインチキを組み込んで「輸出戻し税」などというものを作り出しているわけだが、そんなインチキしないで定義通りの計算方法にするだけで「インボイス」が実は全く不要なものであるということもわかる。
「インボイス」は「課税仕入れにおいて支払ったと見做される消費税」の「控除」が正しいことを確認するために請求元に「適正請求書」の発行を義務付けるものなので、本来あり得ない「課税仕入れ」という概念のない定義通りの計算方法にすれば要らない代物なのである。


変更履歴

2023.12.05

  • 「間接税の定義が通説と違う」とのご指摘を受け、調査の結果「間接税」の「租税法」「財政法」での定義がこれまで素朴な感覚で捉えていたものと違って諸説ある状態で結構複雑であったため、「直接税・間接税」の話は別稿に譲って「預かり金か」に章題を変更

  • 分数形式の数式表現をやめた。見づらいので

  • 「価格の一部なのに…」の項題から「複雑な」を削除。会計処理の話は本筋ではないので内容からも削除

  • 「租税法」「財政法」を調査した結果を反映して記述を変更

2023.10.08

  • 「非課税」と「免税(0%)」は違うので、輸出を「非課税」とするのは誤りとのご指摘を受けたので修正

2023.10.06

  • 変更履歴の日付の間違いを修正

  • 「消費税法」の初出箇所が間違っていたので修正

2023.10.05

  • 「税法に書かれていない計算方法を〈本則通り〉と書くのはおかしいのではないか」というご指摘を受けて「定義通り」に変更

  • 「課税仕入れ」と「特定課税仕入れ」を混同してしまっていたので修正

  • 「課税仕入れ」についての記述を詳細化

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城崎裕一(遊楽庵)
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