「料理好きです」といえない理由
先日、こちらの有賀さん主催のイベント(座談会?)に参加してきました。
子育て中の主婦の方、学生の方、料理がすごく好きな人、作るのは別に好きじゃない人、一人暮らし、家族がいる人など様々。有賀さん含め8名の参加者。
他の参加者の方から、「どうして一人暮らしで忙しいのに料理をするの(したいの)?どうして買わないの?」という質問でふと気づいた。
私は本当は、料理をするのが好きだ。
私が料理で好きな部分は、「形のあるものを作ること(文章でも物体でも作るのが好き、下手さは関係ない)」「作り上げたものを食べられること(食べるのが好き)」「作ったものは食べられるので消えること(物を増やしたくない、でも捨てるわけではないから役立っている)」、このサイクルが好きなのだと思った。
これは完全に自分のための料理で、誰かに食べさせるときの料理の発想と全く違う。たまに誰かに食べてもらうのも好きだけど、これはイベント的な楽しさで、その好きな部分とは異なる部分が好きだ。
自分のために作る料理は、ただただ自由で楽しい。
でも私は、料理が好きだという自覚はなかった。今でも世間のいわゆる料理好きとは違うと思っている。というか、私みたいに適当な人が「料理が好き」というのははばかられるという感覚かもしれない。
なぜそう遠慮してしまうのか。たぶん「料理が好き」というと、料理をもっときちんとしている人から、「これは正しい」「これをやれ」「あれはだめだ」などと色々言われることが怖いのだと思った。
もともと自分の好きなことしかできない性格で、いやなことはやらないようにしている。人から言われてやるのが小さいときから苦手だった。
料理に関しては、「良かれと思って、親切心で」あれこれ言う人や、「理想の主婦像、妻像、女性像」からあれこれ言う人、「自分がそうしてきたから」あれこれ言う人、そしてその声を販促などに利用する企業など、私にとっては余計なお世話(悪気がないものがほとんどだと思うけれど)と思う声がありすぎる気がする。
ここまでちゃんと考えたことはなかったし、意識的に嫌だと思っていたことではないが、そういう声がかかることを避けてきた気がする。
だから今でも私は「料理が好き」と大きな声で言えないのだろう。だってもっと上手な人とか、ちゃんとやっている人がたくさんいるから、そういう人に申し訳ない&怒られたくない&「もっとちゃんとやれ」と言われたくない(笑)。
適当だし、下手だけど、でも実は作るの好きだから、これからも自分の食べたいものを好きに作ると思う。その中でもしかしたら少しずつ、レベルアップもしていくかもしれない。
実は有賀さんの今回のレシピ『帰り遅いけどこんなスープなら作れそう』というタイトルに決めるまで、『今日は帰り遅いからスープ作ろう』というタイトル案もあった。
もしかしたらボツになった案のほうが、売れていたかもしれない。それはわからない。でも私は、「作れそう」というタイトルにしたことはすごく意味があったと思った。レシピ本なのに、「作れる!!」とか「作ろう!!」とかじゃなくて、「作れそう・・・」というふんわりした感じにしたことで、私みたいに「料理上手でない人」の背中を押せたんじゃないかと。これは編集者の自己満足ですが(笑)
昨日レインボータウンFMの「本屋に行かナイト」という番組でこの本を紹介して頂いたときに、「読者に対してすごく過保護にできている本」と言って頂けて嬉しかった。作りたくなるように、でも無理にやれといってもともとあるやる気をそがないようにという私の性格からきた配慮から、そういう作りになったのかもしれない。
あと、ちょっとびっくりしたのが、「どうして料理が好きでないのに、レシピ本を作ったの?」と聞かれたこと。
料理が得意な人からすると、「料理しない人=したくない人(もしくは興味がない人)」という印象だから、不思議に感じたのかもしれない。
実は「料理しないけどしたいと思っている人」もいる。私の場合は、「得意じゃないけど、やりたい気持ちがある」っていう状態だった。そういう人の存在は、得意な人からは見えづらいのだろうなということに気づいた。きっとこれは料理以外にも言えることだと思うし、そこの溝ができる人とできない人の距離をどんどん大きくしてしまうのかもしれない。
有賀さんは、そこの気持ちを受け止めて、たくさん誰にでも優しいレシピを考えてくださった。柔軟に考えいただけたのは、有賀さんがいわゆる料理家さんたちとは違う経歴だからかもしれない。有賀さんのスープはもちろん大好きだけど、私は有賀さんの生き方もすごく好きで、柔軟でオリジナルな人生を創ってこられた方だから、他とはちょっと違うレシピ本になったのだと思う。こちらのインタビュー記事がすごく素敵なのでぜひ読んでほしいです。
食べることや、料理することについてしゃべるのは、大げさではなく、自分の生き方について考えることなのだと感じた。この座談会が面白すぎたので、こういう面白さ(参加者が自分の意見を双方向にいえること)をこちらのB&Bのイベントでもどうにか出せないか、考えようと思いました。