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『春と私の小さな宇宙』 その45

※ジャンル別不能の不思議な物語です。少し暗め。
※一人称と神視点が交互に切り替わります。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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○ 小さな宇宙


ある日の事だった。

いつものように映像を心待ちにしていると、希望通り映像が浮かび上がった。

ただし、 現在の映像ではなかった。熊に襲われた時のように過去の記憶が映し出されたのだ。

視線がかなり低い。子供の目線だと思う。これは恐らくハルの子供時代の記憶だろう。ハルの両親らしき人間が見えた。顔はぼやけていてよく見えない。

私の得ている知識だと人間は家族というコミュニティを形成する。ハルも例外では無いようだ。

私は興味津々だった。どういうわけかハルの過去を知るチャンスが来た。 映像を集中して見る。勿論、映像に声は入っていない。ハルの見た光景だけが淡々と流 れる。

ハルは両親に嫌われているようだった。なぜかその両親はハルによそよそしい態度をしていた。あまり話しかけてこない。極力、距離を取っているようだ。

私はその二人が嫌いになった。こんなにきれいで完璧なハルを遠ざけるなんてひどすぎる。それならアキの方がまだ、ましだと思う。そんな親、失格だ。

また映像が切り替る。

今度は白い服を着た男が現れた。ハルがよく着ている白衣だ。やはり男の顔もぼやけていてよくわからなかった。輪郭だけが浮かび上がっている。

男がハルを別の場所に連れて行く。
山の奥深くに建物が見える。その建物に入ると服や身体を調べられていた。持ち物は全て没収されるようだ。

その後、ハルは狭くて白い部屋に入らされた。机があるだけの質素な部屋だった。何をするんだろう。私は気になりながら映像の続きを見た。

しばらく待っていると、先ほどの研究員の男が現れた。いきなり髪を引き抜かれる。次に男は何かを持った。それをハルの腕に突き刺す。

注射器だった。腕から赤い血がみるみる吸い取られていった。ハルの感じた感覚が私にも鮮明に伝わってきた。

三回、採血した。 青白く、細い腕に小さな穴が三つ開いた。 腕から赤黒い液体がわずかに垂れている。

私は痛かったけど我慢した。ハルも耐えていたのだ。その子供の私が弱音を吐くわけにはいかない。

すると男は細い針を持った。ハルの指を強引に掴むと、その針を指と爪の間に差し込んだ。さっきとは比べ物にならないほどの激痛が、私の指先に走った。それが指の数、十回、 繰り返された。指が無くなったかもしれないと思い、慌てて手を握ってみる。無事に指も爪もあった。

それは単なる序章に過ぎなかった。

次に男はナイフらしき刃物を取り出した。特徴的な形で、柄はついておらず金属がむき出しになっている。 そのナイフでハルの掌を切った。しだいに新鮮な血液が溢れだす。

そこから腕や胸、ふ くらはぎに至るまで身体中を何回も刻まれた。うっすら血に染まる少女の姿が、刃物の刃に反射して見えた。

音が再生されないため声を上げていたかはわからないが、ハルの顔が歪んでいた。痛みが私に伝わってくる。全身が痛くてたまらない。

イタイ……。イタイヨウ……。

痛い以外の言葉が思いつかなかった。研究員の口元がうすら笑っているのが見える。なぜハルがこんな目に遭わないといけないのか、見当もつかない。

もはや拷問でしかなかった。 地獄の拷問はまだまだ続いた。

パソコンの画面に問題が映し出された。それを解かなければならないらしい。さすがにハルは早かった。私が問題を解く前に次々と解答した。全部、正解だった。ハルと一緒に勉強しているみたいで少し胸が温かくなった。

しかし幾度も問題を出され、食事もろくに 摂っていないせいか、ハルの指がしだいに力なく動いていて、見るに堪えなかった。

長い距離や短い距離を全力で何度も走らされた。今の私は立つことさえできなかったため、走る感覚は初めてだった。

息がすぐに切れて喉が痛かった。足が千切れそうだった。 自分は外の世界で走れるのか不安になった。 複数の研究者たちがこちらを見て、紙に何かを記入していた。彼らはつねにハルを観察していた。

正気ではなかった。


続く…


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