『春と私の小さな宇宙』 その59
※ジャンル別不能の不思議な物語です。少し暗め。
※一人称と神視点が交互に切り替わります。
以上が大丈夫な方だけ閲読ください。
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自宅の入り口まで来ると、郵便受けに封筒が入っていた。すぐ目に入るよう封筒の半分がはみ出ている。
まるで絶対に気付いてほしいのだと主張しているようだった。
封筒を取り出し、家に入る。二階に上がって自室に入ると先程の封筒を見た。封筒は真新しく、表には「ハル様」と書かれていた。マジックペンで書かれており、綺麗な字だった。裏面には宛名がない。郵送ではなく誰かが直接、郵便受けに入れたのだろう。
開封すると、白い紙が一枚、入っているだけだった。皺のないきれいな紙に、パソコンで文字が打たれている。紙にはただ一言、こう書かれていた。
R神社に来い
ハルは誰の指示なのか直感的に悟った。手早く身支度を済ませ、一階に移動する。外に出るためだ。
すると、リビングからカレーのにおいがした。アキが昨晩、作ったものである。作り置きしてあり、今朝食べたにも関わらず、まだ鍋に大量のルーが入っている。間違いなく夕飯はカレーに決まりだ。
ふと、ハルの脳内にアキとのやり取りが浮かんだ。カレーに入っている野菜について議論していたときのものである。
彼女は、野菜には栄養剤では得られない未知の成分が含まれていると推察していた。
栄養剤は決められた成分を決められた量だけ配合し、量産している。もし、全ての野菜にある未知の成分が解明され、それらが一つの栄養剤に詰め込まれれば、野菜を食べる必要性は存在するのだろうか。
浮かんだ記憶に新たな議題が発生する。それと同時に、ある仮説が生まれた。
一つに圧縮する。
ハルは思わず笑みをこぼした。
「やはり無から無限の宇宙は生まれない」
宇宙の真理をつきとめたハルはアキに感謝する。あの独特の味がする料理にも、少し親しみが持てる気がした。
無事に帰れたら、またカレーを食べよう。アキと一緒に。
リビングにカレーのにおいを残し、ハルはR神社に向かった。
6
○ 小さな宇宙
私はどうかしてしてしまったのだろうか。なぜあんな映像を。思考がうまく働かない。
死んだイトウの顔が脳裏にこびりついて離れなかった。
ハルは宮野を利用してイトウに復讐した。それでいいはずだ。悪いことではない。
なのに、自分の精神が揺れていた。横たわったイトウの顔がおぞましかった。見開いたままの目。表情は凍りついていて動かない。ただ、じっと機能を停止した眼球がこちらを見つめている。
私は強く、目を閉じた。しかし、目は最初から閉じられており、こと切れたイトウの顔が消えることはなかった。
タスケテ! ハル!
必死に助けを呼んでも、私の不完全なテレパシーではハルに伝わらない。願いはかなったのに、全然、良い気がしなかった。あれだけ、復讐してやろうと思っていたのに。こんなことになるなんて……。
とてつもなく不安だった。私が願うと、このところそれがすべてかなってしまうのだ。
はたしてそれは良いことだったのだろうか。
ふと、ミハエルの言っていた話が頭をよぎった。
『宇宙が、誰かによる想像の産物だとしたら』
宇宙がだれかの想像。なら、この世界もだれかの想像? そのだれかは……私?
外の世界が私の望むように動いている。いや、私の望む世界に出来上がっている? そ
もそも外の世界なんてあるのだろうか……。
私の中で想像と現実の境があいまいになった。
空想が現実になっている。イトウが死んでほしいと強く考えてしまっただけで本当に死んでしまった。ハルが仕組んだことだとわかっている。ただ、私が復讐を想像してしまったせいでハルをそうさせてしまったのなら、私がイトウを殺したようなものだ。
なにより、ハルを人殺しに加担させてしまった。
精神に亀裂ができたかのように、胸から痛みを感じた。痛くて、痛くてたまらない。ぎ
ゅっと手を握り、身体を丸めて私はうずくまった。
ハルたちは空想の世界の住人かもしれない。
私の脳が無意識につくり出したまやかし。
漆黒の世界から逃れるための、唯一の光。
だから思い通りに事が進む。否定したはずなのにどこか認めてしまっている自分がいる。
やっぱりあの映像は、私がつくりだした幻想の世界なのかな。
本当は、ハルという人間は存在しないのでは?
違う! そんな事考えちゃダメだ!
たまたまであってほしい。偶然、願いと現実が一致しただけ。そう、思うことにした。
ごめんね、ハル。
一瞬でも信じきれなかった私を許して。
何があっても今度こそ、あなたを信じる。現実だと信じる。
ここから出て証明してみせる。想像の世界なんか無いって。
続く…
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