高野ユタ

(ゆた)/ 学研から発売中の「夢三十夜」、「5分後に意外な結末」シリーズなどにショート…

高野ユタ

(ゆた)/ 学研から発売中の「夢三十夜」、「5分後に意外な結末」シリーズなどにショートショートが掲載されています。 そのほか、Kindleにて配信の無料SSマガジン「ベリショーズ」にvol.1から参加しております。(~現在) お仕事や受賞歴、書籍等、詳細は下記のプロフィールから。

マガジン

  • 掌編、短編小説

    青春小説、親愛小説。 ショートショート以外の公募への投稿作など。

  • 詩歌

    詩っぽいもの。短歌っぽいもの。

  • ショートショート

    長さまちまち、ショートショート類。

  • #毎週ショートショートnote

    #毎週ショートショートnote の企画に投稿した、410字ぴったりのショートショートまとめ。(ときどき倍の820字)

最近の記事

「ナイトミラードールズ」(16482文字)

『@○○○news LTBGとか結局ホモでしょ。じっさい迷惑なんだし間違えじゃなくねw』  投稿ボタンをタップして五分。ぴこん、とポップアップが上がり、「ナツメ」の投稿にひとつめの返信がつく。  殴りかかるように飛び込んできたのは、ストレートな侮蔑だ。その文面を二度、三度読み返しているうちすぐにもうひとつ返信がつき、間を置かず、ひとつまたひとつと増える。  軽蔑。怒り。罵倒。口調もアイコンもバラバラなそれは、けれど、同じ温度を持って次々と連なっていく。  わたしは肩口まです

    • 真白な街に風が吹く 広場の花々は寿ぎ 柔らかな香を返す 遺跡になれなかった瓦礫は触れる風を嫌い はためいた錦糸は途切れた 風が鳴る ノットフォーユー 瓦礫をすり抜けていく 聴こえましたか 転がるじょうろに砂が溜まる 波形を残して 時を止めたまま ノットフォーユー ノットフォーユー ノットフォーユー 風がやむ

      • 【6/23発刊】「帯電体質の解決法」【電子書籍「3分間のまどろみカプセルストーリー」(Gakken)より掲載】(3290字)

         ――パチッ!  またか。  もうすっかり聞き慣れてしまった嫌な音と指先への刺激に、男は眉間へしわを寄せた。巻き込まれた友人は反射で引っ込めた手を戻しつつ、男に向けてプラプラと振ってみせる。 「あいかわらず百発百中だなー」  あはは、と友人はおかしそうに笑うが、男にとってはまったく笑いごとなどではなかった。  ドアノブへ手を伸ばせば、パチッ。  ものを手渡そうとすれば、パチッ。  手すりをつかめば、ゆびきりをすれば、手をつなごうとすれば――パチッ、パチッ、パチッ。  男の人生

        • 「おにぎり研究家」(4546字)

           神童、非凡、天才、鬼才、私。  幼い頃から人並み以上に料理が得意だった私は、本気で自分のことをそんな風に思っていた。  物心つく頃には、料理上手な母の背中越しに調理のイロハを習得していたし、小学校も半ばを過ぎる頃には、自分のスパイス瓶のスペースを台所に持つほどに成長していた。当然手際も良かったけれど、何よりも味の足し算引き算に関しては、我ながら天性のものを感じていたほどだ。  圧倒的な全能感。何者の追随をも許さぬ、絶対的な才能。  小学六年生にして、私は料理人としての自分の

        「ナイトミラードールズ」(16482文字)

        マガジン

        • 掌編、短編小説
          5本
        • 詩歌
          8本
        • ショートショート
          15本
        • #毎週ショートショートnote
          8本

        記事

          無料ショートショート電子書籍「ベリショーズ」 作者自薦、最高の一作はどれ!?(6/15更新)

          ■はじめに こんにちは。 今はやりのショートショート、ご存じでしょうか? 定義はいろいろとありますが、ショートショート作家の田丸雅智さんの言葉を引用しますと、「アイデアがあって印象的な結末のある物語」、そしてその名の通り、ある程度長さの短い物語のことをいいます。 さて、今回の記事タイトルにもあります「ベリショーズ」とは、そんなショートショートを書く有志たち30人ほどが集まってつくり、年2回程度、AmazonKindleなどで無料配信している電子書籍のショートショートアンソロ

          無料ショートショート電子書籍「ベリショーズ」 作者自薦、最高の一作はどれ!?(6/15更新)

          果実

          立っている 地団駄も踏まず 足踏みもせず ただ立っている 走っていく人の 叫ぶ人の 両手を振り回す人の いくつもの姿を見送って 立っている 草木が芽吹き 季節が身動ぎ 足元が埋もれて 地球がなんべん寝返りを打っても ただ立ったままでいる 遠くで草木に実がみのる その色を その香りを 僕は知らない

          「合コンと書いてサバンナと読む」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          「獅倉さんはグイグイ系です。虎谷さんは新しい人を探すとかなんとか」 合コンの端で、馬場は隣にだけ聞こえるようそう言った。 隣の鈴木は、頷きつつも紙ナプキンで亀を折っている。先ほど友人らに「独創的」と紹介されていたのも頷ける珍行動だ。けれど。 「どうかした?」 「や、えっと」 鈴木は、なんともいえず可憐だった。 馬場が草食系なら、鈴木は植物そのもので。 「……鈴木さんは、お花みたいだなって。おひさまが似合う感じ」 「そう? 馬場くんは草食系だよね。お花も食べるの?」 「えっ」

          「合コンと書いてサバンナと読む」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          「名探偵」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          「ようこそ」 恰幅のいい紳士は、品よく僕を招き入れた。 口元に髭をたくわえたその人は、三つ揃えのスーツに身を包み、丸みのあるハットを被っている。そう、まさに。 「……ポワロ」 ぼそりと僕がこぼすと紳士探偵はぱあっと嬉しそうに相好を崩した。が、ハッとしたようにもとの紳士然とした顔つきに戻る。 僕は依頼内容を説明した。 探偵は、ふむ、と頷いて目を閉じた。 それから、10分、20分。 探偵は家のさまざまな場所を歩き回りながら、なんとも深い考察を巡らせている様子を見せる。けれどどれだ

          「名探偵」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          「クインテットの縁側」(820字)【#毎週ショートショートnote】

          「うちの猫らは歌うんだ」 猫好きのじいちゃんは、俺が遊びに行くたびにそう言って、よく下手な猫の鳴きまねをした。 3匹も飼っている猫たちは、当然、一緒に歌うでもなく、自由気ままにすごすばかりだ。だから俺にとって、じいちゃんの家で歌うのは、猫でもなんでもなく、ただひとり、じいちゃんだけだった。 ある日、じいちゃんが入院した。 両親は病院へ付き添い、俺は猫の様子を見るため、ひとりでじいちゃんの家に向かった。 カララ、と引き戸を開けて中へ入ると、家の中はしんとしていた。じいちゃんの

          「クインテットの縁側」(820字)【#毎週ショートショートnote】

          「アドベンチャーカレンダー」(3847字)

           目を開けると、そこはジャングルだった。  思わず振り返ってみたものの、どこをどう見回してみても熱帯ふうの植物が目に入るばかりで、年季の入った俺のワンルームの面影はどこにもない。着ていた寝巻き兼部屋着のスウェットは、ベルト付きの上着と丈夫なハーフパンツに変わり、首からは双眼鏡が下がっている。唯一、見覚えがあったのは、空に浮かぶ、裏返しになった大きな数字の「1」だけだった。 「これって、やっぱり、そういうことか……?」  さきほど自分の手で切り開けた窓に印刷されていたのと同じ、

          「アドベンチャーカレンダー」(3847字)

          「リストランテ・カームセーヌ」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          前菜を口にした瞬間、相田と木村は揃って顔を見合わせた。 不味い。 ただの会社員である相田はいいとして、新店舗を任されるほどのシェフである木村にとっては耐えがたいだろう。 なんでまたこんな店に、と項垂れたくなるのを我慢して前菜を片付け、次のスープを倒しにかかる。 相田と木村は、またしても顔を見合わせた。 うまい……! もう一口。そこからは手が止まらなかった。 マナーも忘れ、ふたりはくる料理くる料理、ガツガツと一気に平らげてしまった。 「でも、あれは結局、最初の不味さからの振り

          「リストランテ・カームセーヌ」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          「天使のキス」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          ある国に、AとB、ふたりの天才科学者がいた。 同じ年に生まれ、それぞれに何不自由のない恵まれた環境で育った。 有り余るほどの才能は甲乙つけがたく、周りはよくふたりの功績を並べ立てては比較した。けれど本人たちは、他人と自分の序列になど、まるで関心を示さなかった。 接点はなかったが、興味の向くものもその向き合い方も、ふたりはとてもよく似ていた。 ある日、そんなふたりが、秘密裏にそれぞれ研究を続けていた、新種の微生物の培養に成功した。それは世界を揺るがす、大変な発見であった。 ふ

          「天使のキス」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          「失恋」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          ああ、お久しぶりです。そちらはお変わりなく。 え? 荒れてるって? 僕? 弱ったなあ。そうです。ええ、まあ、失恋ってやつです。はは、お恥ずかしい。 ……結婚、したんですって。先日、ふたりで親父さんに挨拶にきてました。ええ、ふたり揃って。 いえ、僕もわかってはいたんです。いつかはって。彼女と僕じゃ、土台、住む世界が違いますから。でも、もし彼女が生涯添い遂げる相手に出会わなければ、僕のところに……とはね。少しは。 よく、「結婚は人生の墓場」、なんて言うでしょう? それが本当なら、

          「失恋」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          「カクテル オブ デミグラス」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          そこは初めて入ったバーだった。 一次会でもかなり飲んだが、まだやめる気はなかった。 ジントニック、ギムレット、ピーチフィズ……二次会参加の面々が酒のメニューから次々と注文していく中、俺の目はある一点へと吸い寄せられた。 【デミグラス(二次会限定)】 「デミグラス……」 思わず読み上げたそれで注文が通ってしまい、ほどなく、ブラウンのソース状のものの入ったエスプレッソカップが運ばれてきた。何の気なしに口をつけ、俺は驚愕した。 それはまさに、身体が今求めている味、そのものだった。

          「カクテル オブ デミグラス」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          「花束」(1694文字)

           バラは誓約の花だ。  花言葉ではない。ただ、私と彼にとって、そういう花なのだ。 「一緒に過ごすにあたって、君に約束してほしいことがある。それを花に誓ってほしい」  そう言って、彼が一輪の赤バラを差し出してきたのは、付き合って一か月ほどが経ったころだった。 『待ち合わせには少なくとも5分前に着く』 『朝はおはよう、夜はおやすみのラインをする』 『異性のいる酒の場には行かない(会社行事は除く)』 『デートのときに餃子は食べない』  私に約束事をひとつ告げるたび、彼はバラを一輪、

          「花束」(1694文字)

          「宝くじ魔法の詠唱」(410字)【#毎週ショートショートnote】

          宝くじのシステムは魔法でできている。 そう知ったのは、5歳のときだった。 じいちゃんに着いて宝くじ売り場に行ったとき、売り場のお姉さんの指先に、光の粒みたいなキラキラとしたものが見えたのだ。 僕の視線に気がついたお姉さんは、「君は素質があるね」と言って、僕に宝くじの秘密と魔法学校のことを教えてくれた。 以来、僕は宝くじ魔法学校で、基礎訓練と、最も大切な詠唱を何年も鍛え続けた。 そうして今日。 ついに売り場へと配属になったのだった。 宝くじ売り場は詠唱の実地訓練にうってつけで、

          「宝くじ魔法の詠唱」(410字)【#毎週ショートショートnote】