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京都【アンデパンダン】泰山タイル公式解説を担当

カフェ・アンデパンダンの泰山タイル公式解説を担当しました。近く公開予定の新ウェブサイトにて掲載されます。ノートでは先行してご紹介をさせて頂きます。

1928ビル

アンデパンダンは、京都市中京区中京区弁慶石町56番地、三条通御幸町東南角「1928ビル(旧毎日新聞社京都支局)」地下1階のカフェ。

泰山タイルとは

1928ビル「カフェ・アンデパンダン」に張られた腰壁タイルは、大正から昭和にかけ京都市南区東九条の「泰山製陶所(たいざんせいとうしょ)」で造られた「泰山式タイル」です。(以下、泰山タイル)

泰山製陶所は池田泰山により創業され、タイル生産の他、様々な種類の陶磁器製品が造られました。清水焼や民藝の流れを持ち、全て手作業による生産であることが最大の特徴です。

泰山タイルは、衛生面を重視した一般的な工業製品のタイルではなく、建物を彩ることにおもきをおいた美術タイルです。その美しさと技術や品質の高さから「美術タイルの最高峰」として称され、日本国内はもちろん、遠くは中国大連、ソウル、フィリピン、タイからも受注されました。


アンデパンダンの泰山タイルは、一般的に世の中に出回っている泰山タイルとは少し違い、以下、三つの点において特別なものです。

円形の柱に合わせて造られている。

① 特注品

一つ目は、全てこの場所の為に造られた「特注品」であることです。泰山タイルは基本的に規定があり、スタイルやサイズはその範囲内で造られました。皇室関連の建物から洋館、日本家屋など、様々な場所に使われていますが、そのほとんどは既製品です。しかしアンデパンダンの泰山タイルは壁の高さ、幅、角(役物)、柱など、全て採寸された上で造られました。タイルは陶磁器である為、焼成中に歪みや縮みが生じます。その点も計算され造られました。

② タイルの色

二つ目は、「タイルの色」です。この「深い紫色」は、現在は再現することがほぼ不可能なものです。使われている釉薬は「辰砂釉」と言い、水銀を含む鉱物から作られるものです。一見すると、紫、青、緑と複数の釉薬が使われているように見えますが、実際には辰砂釉のみの一種類です。この辰砂釉は、中国や朝鮮から伝わってきたものをベースに、京都市陶磁器試験所で清水焼に合わせ新たに開発されたものです。辰砂釉の色に関して、陶磁器界の巨匠として名高い河井寛次郎やその師匠である小森忍が池田泰山と激論を交わしていた記録も残っているほど、特別なものとして扱われました。

泰山製陶所には、この釉薬を焼成する為の特殊な温度のレシピがありました。通常この釉薬を使い焼成した場合、「緑色」や「茶に近い色」にしかなりません。しかし泰山製陶所では、窯の中の温度を時間で管理することにより、美しい紫色を発色させる技術を持っていました。この「窯変」技術は現在に至るまで池田家のみが知る秘技でもあります。

陶磁器は窯の中の酸素を調整する「焼成と還元」によって釉薬の発色に変化を与える技術がありますが、泰山製陶所は基本的にその方法は使わず温度管理のみを行いました。また温度計は用いず、炎の色とゆらぎ、煙の出方と色により温度を管理していたとのこと。まさに驚きの職人技です。

尚、泰山タイルの窯変は、焼成の際、置かれた場所によっても生じました。窯の中の場所や空間は、温度や酸素の量にも影響し、結果、自然に「焼成と還元」を生み、泰山製陶所がこだわった「一つとして同じ物が存在しない」美しいタイルが生まれるに至りました。ちなみに焼き過ぎたタイルには、一部ガラス化した部分も見ることが出来ます。まるで宝石のように輝くその様は偶然の産物であり、陶磁器の大きな魅力の一つです。

③ 製作経緯

三つ目は、このタイルが生まれた「経緯」です。1928ビルを設計した武田五一は建物を彩るタイルに特別なこだわりを持っていました。そのこだわりを形にしたのが「泰山製陶所」です。しかし泰山製陶所は、全て手作業による生産を行っていたことや、当時、多くの受注を受けていたこともあり、納期に間に合わないことが課題となっていました。

それを解決したのが、武田五一の発案により立ち上げられた、泰山製陶所の技術を新たな形で継承したブランド「泰平タイル」です。実はこの1928ビルのタイル製作は、その泰平タイルを生み出すきっかけとなった最初の機会でもありました。完成したタイルは、もちろん泰山製陶所が造った泰山タイルではありますが、泰平タイルのプロトタイプとしても位置付けられています。

泰平タイルの裏刻印

このプロジェクトは、京都陶磁器界の教官的立場であった福田直一を中心に行われ、京都市陶磁器試験所と泰山製陶所の共同製作と言う形で進められました。また焼成は、宇野仁松(タイルを造り人間国宝になった唯一の人物)が泉涌寺東林町に構えた共同窯により焼かれました。このことからも、この1928ビルのタイルは、当時の京都陶磁器界オール一丸となり生み出された特別なものです。

これは昭和天皇御大典に関連し、1928ビルに天皇陛下の訪問が予定されていたことも影響にありました。結果的に天皇陛下の訪問はありませんでしたが、様々な運命が重なり生み出された唯一無二のタイル、それが1928ビル「カフェ・アンデパンダン」の泰山タイルなのです。

泰平タイルはのちに辻常吉製作所窯業部(大阪市東成)によって生産を任されることになります。武田五一の要望に応えるべく、泰山製陶所の技術を用いつつ、生産は全て機械により行われた結果、美術タイルの大量生産と製品化に成功します。ゆえに武田五一が関係した建物のほとんどが、この泰平タイルが使用されていることにも注目したい事実です。

辻常吉製作所の商品目録

尚、泰平タイルの名前の由来は、福田直一が行っていた陶磁器製作集団「泰平居」から影響を受け名付けられました。ただし泰平居が活動した工房や使用した窯は、泰山製陶所や宇野仁松とは関係はありません。さらには混同されがちな「泰平窯」も別物である為、注意が必要です。

1928ビル「カフェ・アンデパンダン」にご来店の際は、泰山タイルを手で触って頂き、その質感と美しさを実感して頂ければ幸いです。

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