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京都【大佛美術タイルめぐり】①「序章」

「大佛美術タイル」をご存じですか?

僕が愛してやまない京都産の美術タイル「泰山タイル」には、その技術をのれん分けした会社が2つあります。

1つは、手作りによる泰山タイルの技術を、機械生産による技術に転用した辻製作所窯業部が作った「泰平タイル」。そしてもう1つが今回のテーマ、大佛組が作った「大佛美術タイル」です。

大佛組の社章

一般的にはあまり知られていない「大佛美術タイル」ですが、泰山タイルと同じく「清水焼」をベースにした建築用装飾タイルです。近年の近代建築見学ブームで「大佛美術タイル」も注目されつつありますが、実際にはその詳細を解っている人は専門家を含めほとんど居ません。

しかし柏原は泰山タイルに注目すると同時に、大佛美術タイルにも注目。現地調査や多くの資料を集め、その大部分の解明に至りました。

なぜ注目したかって?実は泰山タイルが使われている建物や関係先で、大佛組が関わっていることが多く、また泰山タイルと大佛美術タイルには様々な共通点があるのです。これは何か関係があるよね?と言う推測から僕の好奇心に火が着きました。


まず最初にとても大切なことをお伝えします。「大佛美術タイル」と「大佛タイル」は別物です。同じ会社、同じ工場、同じ窯で焼いたものですが、原点の発想、使用用途、コンセプトが違うので、会社内でも分けて定義していました。現在残されている社史や資料にも、きちんと分けて書かれています。

大佛組の資料

大佛美術タイルは、簡単に言えば「瓦専門会社“大佛組”」が作った美術タイルです。衛生面を重視した工業タイルではなく、建物装飾を目的としたタイルです。基本的にオーダーメイドの特注品として作られました。

大佛組は京都市東山区今熊野に本社と工場を構え、そこからすぐ近くの泉涌寺窯にて焼成を行っていました。

大佛美術タイルの試作品

大佛組が主力商品として作っていた瓦は「大佛瓦」と呼ばれ、一般的な瓦から施釉瓦まで日本全国で広く使われました。京都や滋賀の神社仏閣においてはシェア8割を超えます。特に有名な場所は、清水寺、泉涌寺、東西本願寺、上賀茂神社、下鴨神社、二条城など、施釉瓦は平安神宮や日吉大社が挙げられます。

平安神宮の緑釉瓦は大佛瓦
大佛組が製作した緑釉鬼瓦

そんな瓦製作の会社がなぜタイル、しかも美術タイルを作ったのでしょうか?そのきっかけは「泰山タイル」と深く関わりがあります。

簡単に言えば、近所の泰山製陶所が美術タイルの生産でめっちゃ儲かっていたので、それならウチらも作ろうー!ってなった訳です。笑

きっかけは現場が同じになった際、泰山タイルの納入や施工が遅れていることが多かったため、

そない忙しいん?そない儲かるん?

ちょっと手伝おうかー?

ほな自分らで作ろうかー!

こんな流れでしょうか?ただし、そんな簡単には作れなかったのです…。

泰山タイルの技術は陶磁器試験所で研究に研究を重ね完成したもの。その特殊な技術を池田泰山さんがさらにブラッシュアップした門外不出の物でした。

泰山製陶所の辰砂釉を使って作られた大佛美術タイル

ただ大佛組はタイミング的にラッキーだったんですね。泰山製陶所と大佛組は工場も近く、職人さん達の生活圏も近かった為、公私に渡り様々な交流がありました。その中で共に事業協力をすることに大きなメリットがあったのです。

大佛組は当初、泰山製陶所の下請けをする形でした。同じ時期、泰山製陶所は「タイルの施釉技術を瓦に応用する開発」に勤しんでいました。

そこで協力したのが大佛組でした。「ウチら瓦を焼く技術持ってんでー。笑」ってことです。

瓦は大きさもあり、泰山製陶所が製作していた小さなタイルや茶碗を焼く技術では作ることが難しかったのです。また泰山製陶所の窯の大きさでは瓦を大量に焼くことも出来ませんでした。

つまり泰山製陶所は瓦を焼く技術が欲しい、大佛組はタイルを作る技術(釉薬技術)が欲しい。っと言う、お互いの利害関係が一致した訳です。またお互いに受注があった物の生産を、相互協力(職人の共有)をすることにより、その生産力もアップすることが出来ました。

泰山製陶所が作った施釉瓦
旧甲子園ホテルの屋根瓦は泰山製陶所製

そんなこんなで大佛組が泰山製陶所から得た技術で作られたタイルが大佛美術タイルなのです。もちろんその技術は「大佛タイル」にも使われています。

大佛組が作った大型の施釉タイル
大型の立体タイル

大佛美術タイルは、時に泰山タイルをしのぐ物も作られました。泰山製陶所が踏み込むことが出来なかった「大型」陶板や、大掛かりな立体タイル、ガラスを用いた特殊タイルなど、瓦製作の技術や設備を持っていたからこそ可能な「独自製品の開発」も行いました。

馬蹄型タイルや湾曲タイルはホール反響板として使われた
様々なタイプの大佛美術タイル

特に大型の窯での焼成は、一度にたくさんの量を焼けるだけではなく、安定した温度管理により焼き斑や過度な窯変を抑えることも出来ました。また焼く場所によっては、1400度以上を保つこともでき、釉薬をガラス化させるような技術もありました。これらの技術は建物外壁だけではなく、人が日常で触るなど耐久性が必要な大型ドアノブなどにも応用されました。

釉薬が高温焼成によりガラス化したもの

ちなみに、「大佛タイル」は建物外壁に使われることを目的に作られた工業製品のタイルです。機械で一度に大量に作られました。材料の土起こしから型起こし、乾燥、施釉、焼成まで全て機械で行われました。ただしその釉薬技術には、もちろん泰山製陶所の技術が使われています。

大佛タイルには緑釉が多く、大佛グリーンとも言われる

まずはここまで。では京都市内で張られた大佛美術タイルの見学に出掛けましょう!

②につづく

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