僕の私の銭湯絵 〜もしも自分が銭湯の壁に絵を描くとしたら〜
(文=しゅんた、写真=ユウト・ザ・フロントほか)
※写真はすべて許可を得て撮影しています。脱衣所及び浴槽内で撮影をすることは禁止されています。
突然ですが皆さん。銭湯に行って、こんな光景を見たことはありますか??
もちろん、多くの人がないと思います。
「なんで浴槽で服を着てるの?」「向こうに見える足場は何?」「床に新聞紙を敷いて何をしているんだろう」
初めて見た人はそう感じることでしょう。
実はこれ、銭湯の定休日を利用して行われた「銭湯の壁画描き替え」の日のワンシーンなんです。
ここ東京都千代田区に位置する稲荷湯では、銭湯ペンキ絵師である田中みずきさん(以下、みずきさん)にお願いして、昨年に引き続き壁画の描きかえをしてもらうことになりました。
新しい絵をどんなものにするか。今年は稲荷湯で案を出して描いてもらうのではなく、子どもたちからアイデアを募り、コンテストで選ばれた作品を壁画に反映させよう!ということに。
(そこに至る経緯やコンテストの詳細については、ぜひ過去の記事をご覧ください!!)
そして実際に選ばれた作品はこちらです!(以下記事)
どれも子供たちの自由で個性的な発想を詰め込んだステキな絵ですね。
応募してくれた皆さん、どうもありがとうございました!
さて、そんなこんなで描きかえの日を迎えた稲荷湯。
応募作品が見事入賞した子どもたちを招待し、壁画制作見学会とみずきさんによるワークショップが開催されました。
※イベントは未就学児向けのアクティビティを行う就学準備教室「りりーふ」さんと共同で開催しました。
15:00 参加者入場開始!!
ぞくぞくと参加者が集まってきました。
中には、はるばる四国から来たという親子も!
受付を済ませた子どもたちは大はしゃぎ。特に就学前の子どもたちは元気いっぱいです笑
イベントが始まると、まずは稲荷湯3代目(仮)のまもるが足場の上から開会の挨拶。
私も足場の上に登ってみましたが、思ったより高くて怖かったです笑
遠くから見るとこんな感じ。
ちなみにまもるは高いところが苦手だそう(母親談)。
このときの心境はいかに。
続いてみずきさんからワークショップで子供たちが描く絵のお題が発表されました。
みずきさん:今日はワークショップのために、みんな色鉛筆やクレヨンを持ってきてくれたと思います。
これから皆さんに3つの紙を配ります。1つは雲の形、もう1つは大きな四角、そしてもう1つは小さな四角です。今からここに海の生き物を書いてもらいます。
できれば雲の紙には、自分と家族をお魚にして描いてくれたらなと思います!
お題を聞いた子どもたちのもとには3枚の紙と新聞紙が配られ、それぞれ浴槽や脱衣所に分かれて絵を描きはじめました。
参加者の多くは10歳未満。Z世代に続く、いわゆるα世代(アルファ世代)です。
そんなα世代の子どもたちはどんな絵を描くのだろうか。とても気になるところです。
その様子を少し覗いてみましょう。
さっきまで銭湯の中を走り回っていた子どもたちも、ワークショップが始まると絵を描くことに夢中になっていました。
海の生き物といえば…大迫力のクジラ!!とても上手に描けています。
「四足歩行の動物を描くとすべて同じ動物に見える」という妙技を持つ筆者とは大違いです。
こちらは、最近水族館がやたらと推してくることで有名なクラゲです。
絵のタッチや色の塗り方が優しげですね~
こうして子どもたちが絵を描く様子を眺めていると、あることに気づきました。
それは…
真剣に絵を描く子どもたちですが、みんなの手元にはある共通点がありました。
それは開始早々、親御さんからスマホを借りて自分の描きたいものの写真を調べ始めたことです。
もちろん全員がそうしていたわけではありませんが、肌勘ではだいたい7割くらいの子どもが画像を見ながら描いているようでした。
画像を見ながら描く子供と見ないで描く子供。両者に違いはあるのか。
そんなリサーチクエスチョンを立てながら注意深く見ていたところ、ある気づきが。
「画像を見ながら描く子どもはリアルを追求し、見ずに描く子どもはイマジネーションを追い求める」
イルカやマグロ、サメなど現実に存在する生き物を描く子どもたちは画像を見ながら描き、空想の生き物を描く子どもたちはイマジネーションを働かせて描いていました。
これについて個人差は特に見られませんでした。
こちらの子どもはトビウオを描いています。
やはり手元にはスマホで調べたトビウオの写真。
こちらもやはりサメを描くために画像を横に置いています。
実際の写真ではなく、はじめからイラストを見て描いている人もいました。
生まれたときからスマホなどの電子機器に馴染みがあるα世代は、実在する生き物を描くとき、より写実的に描くことを追求するということでしょうか。
一方、こちらの子どもが描いているのは(少し見えづらいですが)トランプカードと魚を組み合わせた「トランプお魚」。
子どもならではの自由で独創的な発想です。
このように、空想の生き物を描く子も何人かいたので、「スマホによってイマジネーションが失われている」というわけではないようです。
皆さんご存じの通り、今回みずきさんが描く壁画は全て子どもたちの絵がもとになっています。
そのアイデア主である子どもたちが稲荷湯に訪れているせっかくの機会なので、なぜその絵を描こうと思ったのか、その想いを聞いてみました。
まずは紙を横いっぱいに使い、大きな絵を描いてくれた颯生くんです!
「色々な世界」村上颯生くん(7)
颯生くん:宇宙と海と空、とにかくいっぱい描けば選ばれるんじゃないかと思ってたくさん書きました。
たしかに左側には富士山、真ん中には海の生き物、右側には大きな虹が描かれていて、皆が大好きなものがたくさん詰まっている感じがしますね!
どうすれば入賞することができるか、というところまで考えているのが子供ながらに賢くて、話を聞きながら感心してしまいました。
次は、とても上手なタッチでオリジナリティ満載のキャラクターを描いてくれた奈々江さんです!
「イルカのバード号」苅谷奈々江さん(8)
奈々江さん:(キャラクターは)完全に想像で書きました。絵を描くのにかかった時間はだいたい1日2日くらいです。イルカが夜から朝に向けて、バード号に乗って飛んでいる様子を描きました。ポイントはバード号の機体にオリジナルのマークをつけたところです。工場で作られた感じを表現しました。
まず、小学3年生がこの絵を描いたということに驚きを隠せませんでした。
バード号の機体にも小さな工夫が施されていて、とても1日2日で描き上げたとは思えないクオリティです。
最後は大きな虹に、きれいな桜。日本が誇る美しい自然を上手に表現してくれた琉子さんです!
「日本のうつくしいしぜん」山本琉子さん(6)
琉子さん:だいぶ前に描いたので、なんで紙飛行機を描いたかは忘れてしまいました。桜の木はお母さんと行った「ダミアン・ハースト展」で見た桜の絵の描き方を真似しました。
ダミアン・ハースト?!
(出典:The Virtues - HENI Leviathan | Damien hirst, Hirst, New art (pinterest.jp))
ご存じない方のために、こちらがダミアン・ハースト作の桜です。
たしかに琉子さんが描いた桜の木はまさにダミアン・ハーストの描き方そっくりですね。
稲荷湯に来ればダミアン・ハースト展と同じ気分が味わえるというわけです(?)
※ただし、実際の壁画はこのタッチで描かれていません。琉子さん、大人の事情ですみません…
琉子さんが描いた紙飛行機は実際の壁画にも採用されています。
※ちなみにこの紙飛行機は、お母様と琉子さんの共同作品だったそうです(後日談)。
以上、今回は時間の都合で3人からしかお話を聞けませんでしたが、他の子供たちもそれぞれ思い思いの絵を描いて応募してくれていました。
皆さん、稲荷湯のためにステキな絵をありがとうございました!!
最後はお待ちかねの、みずきさんへの質問コーナー!!
参加者:どうやったらそんなにうまく絵が描けるんですか?
みずきさん:皆さんが本当にいろいろと、楽しい明るい気持ちになるなとか、稲荷湯さんらしさというか、そういうのを考えながら描いてくださっているのが伝わってきて、その絵をここに描かせてもらっています。
なので、もしきれいな絵だなと思ってくれているのなら、それは皆が絵を頑張って描いてくれたおかげだと思っています!
参加者:(応募作品を)どうやって組み合わせたんですか?
みずきさん:一人ずつの要素を、なにかモヤモヤした雲の中に描けないかと考えました。バード号という魅力的なキャラクターもいたので、これはもう描くしかないぞと思って入れました。
実は銭湯の絵って画面が横に長いので、それに合うように組み合わせました。完成作で自分の絵を探してもらえたらなと思います。
自分たちの絵がどのような形で銭湯絵になるのか。とても気になっている様子でした。
ワークショップで皆さんが描いてくれた絵は最後、大きな絵の中に。
きれいな水の生き物たちが楽しそうに泳いでいます。
しばらくは稲荷湯のフロントの壁に貼ってあるそうなので、ぜひ見に来てくださいね!
最後は皆で集合写真を撮りました。
皆さん、ワークショップお疲れさまでした!
ワークショップが終わった後も、みずきさんは稲荷湯で夜遅くまで絵を描いてくださいました。
アイデアの募集から入賞作の選定、描きかえの実施まで、いろいろな苦労の積み重ねでしたが、その1つひとつが稲荷湯の大きな壁画となっています。
では、いよいよ完成した銭湯絵のお披露目です!!
稲荷湯に来れば完成した銭湯絵を眺めながら、温かいお風呂に浸かることができます!
最近は特に寒くなってきたので、この機会にぜひ稲荷湯に訪れてみてはいかがでしょうか。