【第5輪】 銭湯絵師・田中みずきさんにインタビュー! 描くときの思考回路を暴いてみた! (前編)
ついに、銭湯絵師・田中みずきさんが
湯の輪らぼにご訪湯!!!♨️♨️♨️
こんにちは。
湯の輪らぼの編集長:ユウト・ザ ・フロントです。
先日、投稿させていただいた記事では、我々のホーム・稲荷湯の「銭湯絵描き換え」を取材しました。
※11月26日投稿の記事(【第4輪】 銭湯の絵って、どう描き換えるの? 編集部が絵の企画を体験してみた)
(*銭湯内での携帯電話の使用及び撮影は禁止されています。今回は特別な許可を得て撮影しています。)
そして、前回の第4輪でも、触れさせていただいた銭湯絵師の田中みずきさん!
そのみずきさんがなんと、湯の輪らぼに出演してくださることになりました!
銭湯絵師・田中みずきさん
そこで、今回と次回の二記事に分けて、田中みずきさんへのインタビュー記事を掲載します!
前編たる今回は「稲荷湯と田中みずきさん」と題し、先日の銭湯絵描き換えの具体的エピソードから、銭湯絵師の脳内を解剖していきたいと思います!
それでは、本編をどうぞ!
まもる:みずきさん!本日は、宜しくお願いします!
みずきさん:こちらこそ、宜しくお願いします!
まもる:早速なんですが、先日の稲荷湯での「銭湯絵描き換え」について、伺っていきたいと思います。先ほど拝見した、みずきさんのブログでは、今回の描き換えが「一日で制作する限界」と書いてあり、驚きました。
具体的にどのような点が「限界」と感じられましたか?
みずきさん:やはり「モチーフの多さ」は圧倒的だったと感じています (笑)
他の銭湯さんの場合は、風景は基本的に一つであることが多いんですよね。
まもる:確かに、世界旅行記的な銭湯絵だと、そういった難しさが出てきますよね。
みずきさん:そうですね。正直、具体的なモチーフの数は、これまで頂いたご依頼の中でも、最多でした。
田園の奥の風景に富士山を入れたり、アルプスの山を入れたりというモチーフの多さもそうですし、稲荷湯さんの、男湯からも女湯からも、逆側の上の方の様子は見える横長の珍しい構造も大変さの要因になっていたように思います。
なので、これらをどのように一枚にまとめようかってことを、まず考えましたね。
まもる:そしてこのような下書きが出来上がったのですね!
みずきさん:モチーフ数は多かったのですが、「旅をできるように一つの空で繋がっている」「みんなが世界に思いを馳せる」という隠されたコンセプトがあるように思いました。
そこで御依頼頂いた色んな地域の風景を一つの空で繋いでイメージ図を描いてみると、バラバラだったはずの風景群から一気に描ける部分が見えてきて。ペンキ絵の画法で何とか1日で制作できるだろうと思いました。
そのため、モチーフとしても、コンセプトの点でも、時間的にもできるだろうと思いました。
まもる:みずきさんの著書 「私は銭湯ペンキ絵師」(2021年、秀明大学出版会 )では、みずきさんの師匠中島盛夫氏の元での修行中、「新たな挑戦をする際にも『何を問いて描いていけばよいか』という思考の仕方ができるようになった」とあり、描く上では問いを立てることを重要視されているように感じました。
今回の依頼を受けて、みずきさんはどのような問いを立てながら描いていましたか?
みずきさん:自分の中でお話を頂いて思っていたのは、モチーフ自体の世界をどう描くか、時代や時間の流れをどうテーマにしていくのか、ということです。
まもる:前者の「モチーフ自体の世界をどう描くか」ということに関しては、具体的にどういった思考回路をたどるんですか?
みずきさん:まず、銭湯絵を描く時には、ご依頼主の銭湯観やその銭湯の個性を考えます。ご依頼を聞きながら銭湯の方々がどう銭湯や地域と関わっていこうとしているのかを探っていきます。今回のように銭湯がある地域だけでなくもっと広い視点で考えているのかもしれない場合もありますね。
今回はモチーフの希望内容を伺った当初はアルプスやトゥクトゥクなど、具体的な場所やものに意味があるのかな、と思っていました。しかし打ち合わせをする中で、場所にこだわりはなく「世界の色々な地域が描かれている形にしたい」ということがわかり、全世界感が出るといいんだなという結論に至りました。
まもる:なるほど。そこから「世界を旅行する」かのようなコンセプトが、一枚にまとまっていったのですね。
みずきさん:そうですね。稲荷湯(を営む長谷川家)さんは、留学生の方々を受け入れてきたり、お風呂のお客さんでも外国の方がいたりするので、世界に色々な人が住んでいるっていうことを体感してきた銭湯さんだなと思いました。なので、世界に意識が向いているのだろうなって感じました。
みずきさん:また、意識という話で言うと、以前、フロントに置く絵のご依頼を受けた時にも、まもるさんの不思議な「意識・視点」が記憶に残っています。
まもる:「不思議」と言うと?
みずきさん:フロントの絵のご依頼を頂いたとき、まもるさんが「コロナ禍で動けないので、旅をする感じにしたいです。近代の街並みの絵で!」っておっしゃっていて、それを聞いた時に自分の中で若干違和感がありました。
名所の絵であればコロナ禍で動けないので旅に行く想像を促すものだと理解できるのですが、そこで「近代」ということで「場所じゃなくて時空を超えてきた!」って思って。それが面白くて(笑)
ということは、何か時代みたいなものを超越した世界観とか、今のものと言う感じではない世界を求めていらっしゃるのだろうと思っていました。なおかつ、もしかすると、ちょっと懐かしい雰囲気を求めているんじゃないかって思ったんですよね。
まもる:そこまで、読み取っていたんですね・・・!
みずきさん:はい。そのため、今回の銭湯絵をまとめる時には、フィルムのモチーフを使ってみました。
ただあれも、今の小学生には意味がわからないかもしれないって懸念はありました。ですが、もしかしたらおじいちゃんおばあちゃんの家で見たことがあってちょっと懐かしい感じがするんじゃないか、とも感じました。
まさに今コロナで旅ができないから、昔の個人個人の思い出みたいなものから世界を手繰り寄せていくような感覚につなげていけば、近代の絵が描いてある稲荷湯さんのフロントで見た絵から、つなげて見ていただきやすいのかなという思いはありましたね。
まもる:浴室内の絵がフロントの絵から繋がっているということは考えてもいませんでした (汗)
みずきさん:おそらく気付く人はいないと思います (笑)
ユウト:フィルムのアイディアを見たときに、すごい発想力だなって思ってびっくりしました。
「銭湯絵は銭湯絵」っていう素人ながらの考えがあったので、銭湯っていう空間を一括りで見られているっていうのは、ずっと銭湯に携わってきたからこその視点なんだなって感じました。
みずきさん:モチーフが本当に色々な地域の風景だったので、迷ってて。はじめはフィルムじゃなくて、昔の紙の写真をイメージしたんですよね。
それが散らばってる感じにするといろんな風景が描けるかな、とか。
景色って、本当に面白くて、富士山と並べてアルプスを描いちゃうと、「どこかの長野県の山脈なのかな?」と思えてしまうこともあるんです。
似たように、オランダと思って風車を描いても、「そういう地域は、九州とか行くとあったっけ?」なんて。世界上の全然違う場所を描いていても、一枚の絵にまとまってしまうとどこかわからなくなってしまい、なかなか場所性って表しづらいんですよね。
それで、1枚の絵にモチーフを詰め込むのではなく、画面を分割しないとおそらく世界の様々な場所を描いているって皆さんには伝わらないだろうなと思いました。
そこでまた空が繋がっていることなどを思い出して色んな要素をバラバラと考えていくと、線で繋がるようなところがあって、フィルムになったんですよね。
ユウト:フィルムがあることで、点として存在していた風景が、一枚の絵になった気がしましたね。
サーフィンをする動物たちも良いスパイスになっています (笑)
みずきさん:でも、私自身は、そこからサーフィンに行くとは予想してなかったです(笑)
「サーファー!? えー!」ってびっくりして。
そうか、フィルムって波に見えるんだなとか思って。あれは面白かったですね。
ユウト:やっぱり、僕たちも発想力で負けたくなかったんですよね。
わーすごいの出してきた!だから僕たちも何か面白いものを出したいなって思って(笑)
みずきさん:あれ、なんかね、動画の発想だなって思ったんですよ。
あのペンキ絵を写真に撮って、動画になって、サーフィンをしている人がスーって飛んでいくとかだと、波の動きが出るなって思ってて、その時にジェネレーションギャップを感じたんですよね。
「あ、動画が身近な世代だ」「動きを考えている!」とか思って(笑)
ペンキ絵は動きを止めた後の風景を描く静止画なので、フィルムの動きに注目するっていうのは、自分だったら絶対に思いつかなかったので。すごく面白かったですね。
ユウト:そこを拾ってくださって、フィルムの端が波になっているっていう動きもペンキ絵で表現していただいたってことですもんね。
みずきさん:実はこっそりやってたんですけど、伝わるかなぁって(笑)
ユウト:湯の輪らぼの読者の方々は、絶対に気づいていただけるはずです!
ということで、ぜひ皆さんも、稲荷湯を訪れて、想いのこもった銭湯絵に心を打たれてください! (笑)
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さて、前編はここまで!
一枚の絵にも、ここまでの想い、思考が詰まっていることを感じていただけたでしょうか。
12/26に投稿される後編では、銭湯絵を描くときの細かな技術や職人性、そこから見えるみずきさんの日本文化観を深掘っていきます!
乞うご期待!!!