見出し画像

「観客をみる」という演技練習

こんにちは、「ゆーの」こと田中優之介です。

ある劇団で演技指導をすることになったのですが、自分の思考整理のためにもこれから数ヶ月間「演じる」の基礎を鍛えるアクティビティを紹介していきたいと思います。

今回紹介するのは【観客をみる】です。


やること

このアクティビティは、5分程度のエチュード(お題付き即興劇)を演じている最中に観客を見たり、少なくとも視野に入れたりすることを意識する、というものです。

今回、内容はただエチュードをやるだけで、ステップも何もありません。(時間があれば、以前紹介した「『ふれない握手』で感じる」という演技練習はよいお膳立てになるかもしれません)

しかし、その代わりにイントロ(導入)をしっかりと行います。

それでは、導入と、実際に「観客をみる」とはどういうことなのか、という事例を紹介していきます。


導入

「演劇はナマモノだ」とよく言われます。

この言葉には「その場限り」「その日の観客・役者だからこそ」「その瞬間の演出ならでは」のものである、という意味が込められています。


しかし、その演劇の「ナマモノ性」は”どう上演される”のでしょうか?

つまり、”場”や”役者”、音、光などの”演出”、そして(今回考えたい)”観客“などというものは、どう実際的で具体的な「見え(観客の観劇体験)」に影響するのか、ということです。

少しずれてしまいますが、これは映画・絵画と演劇の違いとはなにか、ということにも繋がってくる疑問だと思います。


僕が、演劇の「ナマモノ性」を上演するためにとても大事だと考えているのが「観客をみる」ということです。


演じることとは難しいもので舞台上に立つと、セリフや立ち位置、表情に相手役者との関係性など、考えなければ(覚えてなければ)いけないことが山積みです。

しかし、このときに忘れてはならないのは「観客をみる」ことだと僕は思います。

ふだん私たちが演じるとき、相手役者との関係性を大事にしようと思うと自然と相手役者を「みる」ものです。

それと同じく、演劇が観客も含めた「ナマモノ」であると言うならば、観客を大事にするためにまずは「観客をみる」べきなのです。


ここには、「ナマモノ」の演劇を立ち上げるには、その場にあるすべてのものと双方向的な関係を築く必要がある、という根本的な信念があります。

すなわち、観客と役者は「見る/見られる」だけではなく「みてるし、みられている」という関係にあるほうが、より「ナマモノ」感のある演劇になると考えるのです。


やってみる

さて、導入では非常に抽象的なことを言ってきましたが、大事なのは「観客をみる」の実際的で具体的な実践方法です。

以上のようなことを大事にしながらエチュードをやると、実際にはどのような「観客の見方」が生まれるでしょうか?


①観客を「見立てる」

「観客をみる」とは、ただ視線を向けるだけではありません。

たとえば、銀行強盗というテーマのエチュードでは、観客が人質に「見立てる」ことも「観客をみる」ことです。

「見立てる」という観客の見方は、使える場面が限られるかもしれませんが、舞台と客席の関係性を変容させ、演劇をナマモノに仕立て上げる強力な武器になります。


②観客の反応をみる

たとえば、次の大事なセリフを効果的に聞いてもらうために観客の視線を伺うことだったり、直接的ですが笑いどころのセリフを言ったあとに、笑えとばかりに観客をまじまじと見たり、など。

①ほど明白な”み方”ではありませんが、この”み方“もうまくいけば、舞台と客席の間にノリや一体感が生まれるでしょう。


③観客を視野に入れる

①、②では直接的な「観客の見方」を紹介しましたが、必ずしも、観客をダイレクトに見つめる必要はありません。

たとえばあるひとりの観客から1mほど離れた、斜め上の虚空をみつめることも「観客をみる」ことです。

このときの観客との役者の関係はとても微妙なバランスの上に成り立っています。

見られているのか、見られていないのか、そのセリフは自分に向けられたものなのか、それとも自分は視界に入ってすらいないのか。

観客の胸中には、さまざまな感情が渦巻くでしょう。そして、役者も同じく自分が観客を見ているのか、見ていないのか分からない、微妙なバランスの上でさまざまな感情が頭を走り抜けるはずです。

これもれっきとしたひとつの「観客の見方」で、舞台と客席の間に双方向的な関係を築きます。


④観客の視線をみる

ここでいう「視線をみる」とは、私(役者)とあなた(観客)の間にある関係性をみる、ということです。

つまりこれは、私(役者)はあなた(観客)に見られている、ということを認識することでもありますし、観客の存在を無視しないことでもあります。

この「観客の見方」は「『ふれない握手』で感じる」という演技練習で紹介した、「観客とも握手をする感覚をもつ」ということにもつながります。  

抽象的でとても難しいですが、①〜③をやってから④にチャレンジすると少し感覚がつかめるのではないかと思います。


まとめ

今回は、「みる」から「ナマモノ性の上演」を考えられるアクティビティを紹介しました。

ナマモノ性、という言葉は分かりづらいかもしれませんが、僕はこれを「集団の創造性」と同義だと考えています。


つまり、今回紹介したアクティビティの目的を言い換えると、集団の創造性を育むための、個人間の関係づくりだとも言えるのだと思います。

演じる、ということは奥が深いですね。


次回も、おたのしみに!


いいなと思ったら応援しよう!