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「居心地よく、居る」という演技練習

こんにちは、「ゆーの」こと田中優之介です。

ある劇団で演技指導をすることになったのですが、自分の思考整理のためにもこれから数ヶ月間「演じる」の基礎を鍛えるアクティビティを紹介していきたいと思います。

今回紹介するのは【居心地よく、居る】です。


実際にこのアクティビティを稽古場でやったので、その様子を紹介しましょう。


導入

まず、参加者に「この空間で、居心地が良いように“居て”ほしい」と伝えます。

その際、
・あらかじめ動きのプランを立てないでほしい
・「感じたこと」を大事にしてほしい
・空間や他の人間、聞こえる音など「周囲」を過度に遮断しないでほしい
・何をしても間違いではない
・部屋を出ることと会話をすること(⑤以外)はダメ🙅‍♂️
と説明します。

そして、頃合いを見計らって以下のように指示を追加していきます。

①居心地よく、ただ居る

②居心地よく、動き続ける

③スペースを限られても、居心地よく居る

④他の人を観察しながら、居心地よく居る

⑤他の人とのコミュニケーションも含めて、居心地よく居る


①居心地よく、ただ居る

①では、参加者は広い空間のどこで何をしていても構いません。寝転がるのも歩き回るのも誰かを見ているのもOKです。参加者はプランを立てず、ただ「この空間に居心地よく留まる」ことを遂行します。


②居心地よく、動き続ける

少し落ち着いてきたなと感じたら②に移ります。

②では、変化し続けながらでも居心地よく居られることを目指します。①より難しいですが、あくまでプランを立てずに、です。重心を動かすのは難しくても、手足頭など軽い部分を動かして徐々に居心地の良さを見つけていきます。


③スペースを限られても、居心地よく居る

①、②で自分と空間との関係に慣れてきたところで、③に移ります。急に動けるスペースを⅓くらいに制限し、他の人間と関わらざるをえなくします。

こうすることで、参加者はこれまでの「空間」での居心地の良さに加え、「他の人間とのあいだ」で居心地の良さを獲得していかねばなりません。

急に他の人間を「いないもの」として扱うことができなくなるために、参加者が笑顔が増えたりうつむいたりすることが増えたりします。


④他の人を観察しながら、居心地よく居る

そこで、④です。

他の人間を観察しようとしたり、視線を向けたりすることで、無視できなくなってきた彼らと自分との「あいだ」を見極めます。

そうすることで参加者は居心地悪く俯きがちになることが減り、他の参加者とのあいだに自然な身体的コミュニケーションが生まれるようになります。


⑤他の人とのコミュニケーションも含めて、居心地よく居る

最後に、⑤です。

舞台上と同じ「今、見られている」という状況にありながらも、セリフではなく、なるべく自分の感じていることに即した会話が生まれることを期待したステップです。

会話はしてもしなくても大丈夫ですが、誰かが口を開くたび場が変容していく様子が見て取れると思います。


なぜこのアクティビティをやるのか

このアクティビティは、これら5つの段階を踏むことで、「演じなければ」と強張る役者の身体に、本来の(物理的ではない)柔らかさを取り戻せるのでは、ということを狙ったアクティビティです。柔らかい身体は、舞台上で起きるたくさんのモノ・コトへの反応を可能にし、演劇が持つ「その場性」の価値を高めると、僕は考えています。

また、終わった後に、「どう感じましたか?」と質問をすることでリフレクションを促すと役者の中で高次的学習が起きる可能性が高まるでしょう。


※これは、僕が散策者という劇団で学んだことをベースに行っている実験的なアクティビティです。試した方は是非フィードバックいただけると嬉しいです!

次回もお楽しみに!

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