【ショートショート】 割れる本
その本は、チョコのようにパリッと割れる。
割った本は、自由に交換可能で、自分が読みたい本をカンタンに作ることができる。
友達とページを交換したり、かたぬきのように文章をくり抜いてみたり、絵を集めて表紙を作ってみたり、遊び方は自由だ。
本の中身は、AIが書いている。
人工知能がランダムに作っているので、内容はチグハグであることが多い。
つまり理想の本を作るためには、たくさんの『割れる本』が必要になる。
ゆえにネットでは、人気のあるシーンや、使いやすい文章などが、高値で取引されている。
『割れる本』が注目を浴びた背景には、悲しい事件があった。
本好きのカップルがいた。
仲むつまじい二人は、『割れる本』を使って一緒に小説を作った。
完成した本を、まるで我が子のように大切にしていた。
とある日、掃除をしていたら、うっかりその本を落としてしまった。
もちろんそれは、花瓶のように割れて、粉々になってしまった。
どうにか修復しようとしたが、飛び散った文字を元通りにすることはできなかった。
そして、カップルは大喧嘩。
さらに裁判沙汰にまで発展したことが、テレビに取り上げられた。
この事件がキッカケで『割れる本』が世間に広まった。
現在では、国語の教材としている学校もあるとか、ないとか。
(了)