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【グルメ小説】魯山人(ろさんじん)
はじめに
こちらは
以前ゆにおが「シンプル小説」シリーズとして、
海外の方に「シンプルな日本語で」「日本文化を楽しく知ってもらう」お役に立てれば…と書いたもの。それを加筆修正しました。
※初出はmonogatary.com
著作権フリーになってる青空文庫所蔵の作品を原案に、
独自解釈してわかりやすい物語仕立てにしてます。
今回は、
ちょいと気難しい食通として知られる「北大路魯山人」の和食エッセイが原案です。
冬にぴったりのメニューだよん!
日本人が読んでもおもろい思いますので、
よろしければぜひどうぞ!
◇
魯山人 (グルメ小説)
ある冬の日よう日。
小学生のまさおさんは、お隣に住んでいる、魯山人先生の家に行きました。
「先生」と言っても、学校の先生ではありません。魯山人は、日本ではとても有名な「食通」です。
食通とは、食べものにくわしい人という意味です。
魯山人は、さまざまなおいしい料理やおいしい食べ方を熟知し、こだわりをもっています。
だから、「食の先生みたいだ」ということで、いつしか魯山人「先生」と皆が呼ぶようになったのです。
なんと、「美味しんぼ」というグルメマンガの登場人物のモデルにもなったほどです。
◇
「魯山人先生、こんにちは。ぼくに、おいしい日本食の話を聞かせてください」
「よく来たね、まさおくん。いいだろう。日本にはおいしいものがたくさんあるよ。その中でも、日本人が大好きなのは、やっぱりまぐろだろう」
「ぼくもまぐろが大好きです。家族でよく、スシローに行きますよ!」
スシローというのは、回転寿司のお店です。寿司がレーンにのって回ってきて、セルフサービスで皿を受けとります。日本の子どもが、大好きなお店です。
「ふむ、スシローか。
確かに人気の店だが、通ではないね。
まぐろの寿司には、わさびがかかせない。鼻がツーンとして、なみだがボロボロ出るほどたくさん塗るのが、おいしいよ」
まさおさんは、わさびが苦手です。辛くて食べられません。
「大人はわさびが好きですね」
「うん。あと、まぐろはお寿司以外も美味しいよ。
白いごはんに、おしょうゆをつけてのせて、食べたりね。『づけ丼』と呼ばれる料理だよ。
そこに、日本茶のあついのをかけたら『まぐろ茶づけ』さ。
日本人は、ごはんにお茶をかけた茶づけが好きだね。もちろん私も大好きだ」
「まぐろって、生でしか食べないんですか?」
まさおさんは、おさしみ以外のまぐろを食べたことがありませんでした。
「いや、『ねぎま』という料理がある。「ねぎ」と「まぐろ」をいっしょに煮た鍋料理や焼いたものをそう呼ぶよ」
まさおさんは目を丸くしてびっくりしました。
まさおさんが知っている「ねぎま」は、とり肉とねぎを串にさして焼いたしたものだったからです。
「なるほど。やきとり屋でも『ねぎま』が売っているね。あれは、最初ねぎとまぐろだったのが、いつしかねぎととりに変わっていった。そして、名前だけそのまま残って日本全国に広まったんだよ」
まさおさんは、ーーさすが、先生と言われるだけのことはある。食べものにくわしいなあ!ーーと思いました。
◇
魯山人先生の話はまだ止まりません。
「日本人と言えば、お米を忘れてはいけないね」
「たしかに! 日本人の主食です。スーパーに行くと色んな名前のお米がありますね。『こしひかり』とか『あきたこまち』とか……あれは何が違うのでしょう?」
「あれは、お米の品種の名前さ。
日本人はお米が大好きだから、色んな品種を開発しているんだ。
どれもそれぞれおいしいよ」
「へえ~。ぼくは、カレーライスが好きです。給食で出てきたら、うれしいなあ」
魯山人先生は、不敵に笑いました。
「カレーが好きとは、まさおくんはまだ子どもだな。
通は、米だけのおいしさというものを知っているよ。上等な銀シャリは、おいしいから毎日食べてもあきないし、何もつけなくてうまいものさ。
あるいは、茶づけが一番だ」
ーーぼくはお茶づけより、カレーが好きだな。
まさおさんは思いましたが、黙っていました。
◇
まさおさんは、ふと思い出しました。
「そういえば、ぼくのお父さんはお酒を飲むからと言って、ご米を食べません。おかずだけを食べるんですよ。
大人はなぜ、お酒を飲むときにお米を食べないのですか?」
「ふうむ。
お米を食べると、お腹がいっぱいになるだろう。すると、お酒が少ししか飲めないからさ。大人は、お酒をいっぱい飲みたいんだ。
しかし、米もうまいのになあ! 私はお米をさいごに食べないと、食事をした気分がしないよ。
米はいい炊き方で、ますますおいしくなるよ。上手に炊けたごはんは、最高のごちそうだ。つやつや、もちもち、ふっくらで、甘い。
ああ、思い出すとよだれが出てくるなあ!」
まさおさんも、ごくりとつばを飲み込みました。
◇
魯山人先生の話を聞いているうちに、まさおさんはおなかが空いてきました。
「魯山人先生、ぼくはとてもはらぺこです。なにか、美味しい日本食を食べさせてください!」
「よかろう! こんな寒い日は、湯豆腐がいいだろう」
湯豆腐とは、だし汁でとうふを煮て、やくみやしょうゆをかけてたべる料理です。
「なぁんだ、湯豆腐かあ」
まさおさんは、がっかりしました。湯豆腐は、味がうすいし、地味な料理だからです。
「先生。ぼくはすきやきか、たまごやきがいいです」
「ばかもの。
湯豆腐のようにシンプルな料理こそ、ほんものの料理なんだよ。私が作ってあげるから見ていてごらん」
◇
魯山人先生は、豆腐がちょうど一丁はいるくらいの小さな土鍋を台所から持ってきました。
「湯豆腐は、土鍋じゃないとな。土鍋とは、土で作ったやきものの鍋のことだよ。ぶ厚いから、熱がじんわりと入るんだ」
そして、板のように大きなこんぶをハサミで正方形に切り取りました。鍋に入るくらいの小さなサイズです。
それから、その四角いこんぶの両端に、切れ目を3つずついれます。
「鍋で湯をわかし、こんぶを入れるよ。こんぶから美味いだしが出るんだ。
切れ目をいれたのは、豆腐をこんぶの上に置いたとき湯が沸き立つ泡でいっしょに浮かび上がってこないようにするためだ」
魯山人先生は台所に戻ると、まっ白な豆腐を皿に載せて戻ってきました。
「りっぱなお豆腐ですね!」
まさおさんがいつも家で食べている豆腐とは、風格がちがいます。
「ふふふ、そうだろう。
これは私が京都から取り寄せた、こだわりの豆腐なんだ!」
豆腐とは、大豆をゆでたしぼり汁をにがりで固めたものです。
豆を茹でるのに水を使うだけでなく、固めた後にも、たっぷりの水に泳がせるため水の美味しさが重要になります。
京都は水が綺麗な場所が多いのです。
「それに京都は精進料理の本場だろう。
だから、豆腐を作る技術が研ぎ澄まされたんだ」
「精進料理とは、何ですか?」
まさおさんにとって、初めて耳にする料理名でした。
「その昔、日本の仏教ではお肉を食べてはいけなかったんだ。だから、お寺のお坊さんたちがお肉をつかわずに食べ応えのある料理を作ろうと献立にさまざまな工夫をしたんだね。そうやって生まれたのが、精進料理だ。
京都はお寺がたくさんあるから、よけいに発展したんだよ。豆腐は大豆だから、精進料理の材料によく選ばれるのさ」
「へえー。京都のお豆腐ってそんなに美味しいのかあ!」
魯山人先生は、豆腐を包丁で切りわけ、土鍋に滑り込ませました。
しばらくして、豆腐が温もった頃を見計らい、網のお玉でお腕に取り分けます。
そして湯気のあがるきめの細い肌の上に、醤油と胡麻とネギをパラリとかけました。
「薬味にネギはかかせんな。さあ、まさおくん。食べてみて!」
上等な京都の豆腐で拵えた湯豆腐は、シンプルなのに大きな存在感がありました。
「いただきます!」
まさおさんは、豆腐の白く柔らかい肌に箸を入れ、二、三度息を吹きかけると、口に運びました。
「熱い、熱い。でも、すごくおいしい!」
魯山人先生は、大変得意そうでした。
「だろう、だろう。お醤油も、わたし自ら厳選したこだわりの品だからね。
きみはさっきまで、『湯豆腐なんて』とがっかりしていたが、こだわったもので作ると、シンプルな料理こそ実に美味いだろう」
「本当ですね、先生。
はふはふ。
こんぶだしの風味が、豆腐にしみて最高です。ぼくは、日本に生まれてよかったです!」
まさおさんのことばに、魯山人先生は「がっはっは!」と笑いました。
「日本にはまだまだ美味しいものが、たくさんあるよ。外国にも美味しいものがたくさんあるし、食べ方の工夫でさらにうまくなるものもある。
わたしはこれからも、美味を追求し続けるよ」
窓の外には、雪が舞っていました。雪化粧の景色を眺めながら、あつあつの湯豆腐を食べる。
「実に風流ですね!」
まさおさんは、最近覚えたことばで感想を述べました。
fin
◇
原作として扱った魯山人のエッセイ4つ
以下の4つの魯山人グルメエッセイを、
ゆにおがリミックスして今作としました。
青空文庫から無料で読めますので、
ぜひリンク先と見比べてください。
ゆにお作品の魯山人先生はかなり優しいです笑笑 本家はさらに辛口!
① 「鮪を食う話」
② 「お米の話」
③ 「美味い豆腐の話」
④ 「湯豆腐のやり方」
すべて、北大路魯山人・作。
◇
追記
※こっそりと【文章・創作のサークル】さまのコンテストに参加です。
今年もお世話になりました!
原案付きは反則技かも?
なので、もしNGなら対象外でOKです。コンテストさまの判断にお任せします〜!
おてまかけます汗