【晩夏のゾーッとするクラシック・11】ラヴェル:夜のガスパール/ルイ・ロルティ【ピアノによる奇怪な音詩】
「スイスの時計職人」によるピアノの奇怪な音詩
フランスの作曲家モーリス・ラヴェル(1875~1937)は「オーケストラの魔術師」「スイスの時計職人(フランスの人なんだけど)」の異名を取り、精緻・繊細・華麗な作風で知られました。「ボレロ」やムソルグスキーのピアノ曲を管弦楽編曲した「展覧会の絵」が有名ですが、ピアノ曲もたくさん書いています。
今回取りあげる「夜のガスパール」は、ルイ・ベルトランの同名の詩集を題材として書かれたピアノによる音詩です。
夜のガスパール
次の3曲で構成されています。
題材となったベルトランの詩の大意も紹介します。
オンディーヌ
人間の男に恋をした水の精オンディーヌが「結婚して湖の王になってほしい」と告白する。男がそれを断るとオンディーヌは激しく泣き、続いて大声で笑い、激しい雨の中を消えていく。
絞首台
城壁に吊された処刑された男の死体。鐘の音に混じって聞こえてくるのは、風か、死者のすすり泣きか、頭蓋骨から血の滴る髪の毛をむしっている黄金虫か・・・・
スカルボ
伸びたり縮んだり、見上げるばかりに大きくなったり虫のように小さくなったり。自由に飛び回る不気味な小悪魔。
「死刑」「死刑囚」をテーマにしたクラシック音楽
3曲ともピアノによる奇怪な効果をふんだんに用いて作曲されているのですが、ゾーッとするのは、処刑された死刑囚の死体を題材にした「絞首台」でしょう。
「死」をテーマにしたクラシック音楽はたくさんありますが、「死刑」「死刑囚」をテーマにしたクラシック曲はさすがに多くはありません。すぐに思いつくのは、前に紹介したベルリオーズ「幻想交響曲」の第4楽章「幻想交響曲」とアルトゥール・オネゲルのオラトリオ「火刑台上のジャンヌ・ダルク」、そしてこの曲くらいです。ベルリオーズ、オネゲル、ラヴェルの3人ともフランスの作曲家というのが、ちょっと興味深い。死刑の方法も、断頭台、火刑、絞首刑と三者三様・・・・
弔いの鐘の音を表すピアノの同一音が終始一貫して鳴り響く中、吹きすさぶ風、死者の泣き声、死者の血を啜る黄金虫などが、ピアノで表現されます。
ラヴェルは自作のピアノ曲の多くを管弦楽編曲しているのですが、「夜のガスパール」は編曲がなされていません。
ルイ・ロルティについて
ルイ・ロルティは1959年生まれのフランス系カナダ人ピアニスト。ショパン、ベートーヴェン、ラヴェルのスペシャリストとして知られています。
<次回予告>
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