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フルトヴェングラーの3つの第9 (1) バイロイトの第9-ヴィルヘルム・フルトヴェングラー&バイロイト祝祭管弦楽団ほか

日本では年末になるとベートーヴェンの第9があの町この町で演奏されます。それに便乗したわけではないのですが、強く心に残った第9のCDを紹介していきます。1回目は伝説の名盤とされているフルトヴェングラー&バイロイト祝祭管弦楽団の第9(1951年録音)。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(1886.1.25~1954.11.30 ヴィルヘルム・フルトヴェングラー - Wikipedia)は20世紀前半の最大の指揮者の一人。今年2024年が没後70年。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の第3代常任指揮者(カラヤンの先代)。
ベートーヴェン、ブラームス、リヒャルト・ワーグナー等のドイツ本流の音楽を得意とし、その神がかり的な演奏は語りぐさとなっていた。没後70年が経った現在でも、多くの演奏がCD化されており新しいファンを生んでいる。

フルトヴェングラーの第9

フルトヴェングラーの第9は、全部で11種の録音が遺っているとされています。詳しく知りたい方はこちらを→フルトヴェングラーの第九まとめ|バイロイト音楽祭 1951|HMV&BOOKS online
・1937年5月 ジョージ6世の第9 ベルリン・フィル
・1942年3月 ベルリンの第9 ベルリン・フィル
・1942年4月 ヒトラー生誕前夜祭の第9 ベルリン・フィル
・1943年 ストックホルムの第9 ストックホルム・フィル
・1951年1月 ウィーンの第9 ウィーン・フィル
・1951年7月 バイロイトの第9 バイロイト祝祭管 
・1951年8月 ザルツブルクの第9 ウィーン・フィル
・1952年2月 ニコライの第9 ウィーン・フィル
・1953年5月 ウィーン芸術週間の第9 ウィーン・フィル
・1954年8月 バイロイト音楽祭1954 バイロイト祝祭管
・1954年8月 ルツェルンの第9 フィルハーモニア管

「バイロイトの第9」と真贋論争

バイロイト音楽祭はリヒャルト・ワーグナーが楽劇「ニーベルングの指輪」を上演するために創設した音楽祭(バイロイト音楽祭 - Wikipedia)。
その第2次世界大戦後最初の音楽祭の開幕(1951年7月29日)に当たって、フルトヴェングラーの指揮によるベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」が演奏された。
その演奏は、当時フルトヴェングラーが契約していたイギリスEMIによって録音され、フルトヴェングラーの没後に発売された。
「バイロイトの第9」は、第9演奏の決定版として高く評価されていたが、2007年にバイエルン放送のアーカイヴで発見された演奏が「真のバイロイトの第9」としてOrfeoによって世界発売され、EMI盤とOrfeo盤とどちらが本番の演奏かと議論を呼んだ。
その後、2021年にスウェーデン放送のアーカイヴからこの日の生放送の録音テープが発見され、BISによって世界発売された。BIS盤の演奏はOrfeo盤の演奏と同一であり、長らく神格化されていたEMI盤の「バイロイトの第9」はゲネラルプローベ(本番前の通し練習)の録音を商品化したものされている。

バイロイトの第9
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー&バイロイト祝祭管弦楽団ほか
紙ジャケット表

長々と「バイロイトの第9」とその真贋論争について書いてきましたが、私の愛聴しているのは、今ではゲネプロの録音としてほぼ決着しているEMI盤です。
何しろ、中学2年の冬に自分の小遣いで初めて買った第9のレコードで、以来長い年月を「バイロイトの第9」として聴いてきたのですから、今さら「EMI盤は本番の演奏ではないから愛聴盤から陥落」というわけにはいかない。
畑違いのたとえですが、2005年だったかに冥王星が惑星の定義を満たしていないとして惑星から準惑星になったことがありました。その時、銀河鉄道999の作者として知られる松本零士さんが「冥王星が準惑星になったからといって、消えてなくなったわけではない。私やSFファン、天文ファンの中では、冥王星は今でも太陽系の第9番惑星」と語ったのと同じです。

演奏について

宇宙の創成を思わせる神韻縹渺とした空虚5度の和音で始まり、たちまち姿を現す巨大な第1主題。宇宙が鳴動するような圧倒的なスケールで第1楽章が進みます。
その大きなスケールの音楽がそのまま続く第2楽章。おだやかな中間部で束の間の平穏が訪れますが、スケルツォ主部に戻って激しいリズムの乱舞が続きます。
一転して平穏に満ちた第3楽章。家族の愛、女性の愛を求めながらも結局それを得られなかったベートーヴェンの晩年の心境が描かれているのかもしれません。
引き裂くような不協和音で開始される第4楽章。これまで3つの楽章のテーマが回想されては否定され、やがて宇宙の彼方から聞こえてくるような最弱音で「歓喜の歌」のテーマが現れ、それがヴィオラ→ヴァイオリン→管楽器と受け渡され、その頂点で合唱も加わります。
フルトヴェングラーの第9の一番の特徴は第4楽章のコーダ(終結部)。楽譜の速度指定もPrestissimo(きわめて急速に)なのですが、フルトヴェングラーの演奏では他のどの指揮者も足もとにも及ばぬ猛烈なテンポで驀進します。特にこのバイロイトの第9のコーダはオーケストラが鳴り切っていないし、最後の音も合っていません。ですが、この急速テンポとメチャクチャな合奏が圧倒的な感動を呼びます。 
☆なお、Orfeoが発掘して商品化した「もう一つのバイロイトの第9」では、コーダの部分はオケはきちんと鳴っており、最後の着地も成功しているそうです。 

バイロイトの第9
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー&バイロイト祝祭管弦楽団ほか
紙ジャケット裏

私は「バイロイトの第9」の真贋論争に加わるつもりはありません。「バイロイトの第9」は、長年聴いてきたEMI盤があれば十分と思うのです。

次回予告 フルトヴェングラーの3つの第9 (2) ヒトラー誕生前夜祭の第9-ヴィルヘルム・フルトヴェングラー&ベルリン・フィルほか

フルトヴェングラーが、激しく忌避していた独裁者アドルフ・ヒトラーのために、平和と人類愛の讃歌「第9」を演奏した・・・・そんな大戦中の悪夢の出来事のドキュメント。

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