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トスカニーニの第9 アルトゥーロ・トスカニーニ&NBC交響楽団

若き日のカラヤンが規範にしたというイタリアの指揮者アルトゥーロ・トスカニーニ。戦前はフルトヴェングラーと人気を二分した巨匠が演奏する第9。

アルトゥーロ・トスカニーニ

アルトゥーロ・トスカニーニ(1867.3.25~1957.1.16 アルトゥーロ・トスカニーニ - Wikipedia)はイタリアのパルマ生まれの指揮者。ミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場等の音楽監督として活躍。ムッソリーニに反発して祖国イタリアを去ってアメリカに移り、NBC交響楽団(NBC交響楽団 - Wikipedia)を指揮して活躍。楽譜至上主義、即物主義の演奏スタイルは、カラヤンをはじめ多くの後継者を生んでいる。
驚異的な暗譜能力で知られ、レパートリーにしていた歌劇を含む400曲あまりを譜面、歌詞に至るまで完璧に暗譜していたという。
またリハーサルの厳しさで知られ、オケや歌手が指示どおりに演奏しない(できない)時は、罵声を浴びせたり楽譜を破いたり懐中時計を壊したりすることもしばしばだった。

アルトゥーロ・トスカニーニ

トスカニーニの第9

と、まあ、なかなかに厳しい人だったトスカニーニ。楽譜至上主義、即物主義は、20世紀前半のもう一人の指揮界の雄フルトヴェングラーとは対照的な演奏スタイルでした。
そのトスカニーニが手兵のNBC交響楽団を指揮して晩年に録音した第9。フルトヴェングラーの「バイロイトの第9」と並ぶ名演として知られています。

アルトゥーロ・トスカニーニ&NBC交響楽団ほか
日本盤初出LPのジャケット

<演奏者>
Sop:アイリーン・ファーレル Alt:ナン・メリマン
Ten:ジャン・ピアース Bs:ノーマン・スコット
指揮:アルトゥーロ・トスカニーニ
NBC交響楽団、ロバート・ショウ合唱団
1952年3月31日&4月12日 ニューヨーク・カーネギー・ホール

フルトヴェングラーの第9を「深遠」と表現するならば、トスカニーニの第9は「情熱」。かなり速いテンポで音楽が推進していきます。
第1楽章の空虚5度の和音は、フルトヴェングラーは宇宙創成を思わせる曖昧模糊とした表現ですが、トスカニーニは6連符の刻みがはっきりと聞こえます。
叙情的な旋律では思い入れたっぷりにテンポを落とすこともあったフルトヴェングラーに対し、トスカニーニは作曲者の速度指定がない限りテンポが伸縮することはほぼありません。強弱の落差は非常にはっきりとしています。ただし第3楽章については、夢幻の境地を極遅のテンポで歌ったフルトヴェングラーの方に一日の長があります。
声楽が入る第4楽章は、トスカニーニが得意としたヴェルディの歌劇のようなドラマティックな演奏です。
フルトヴェングラーの対極にあるようなトスカニーニの第9ですが、こちらも一度聴くと忘れられない訴求力に満ちています。

トスカニーニの第9は、1948年に収録されたNBCテレビの映像がYouTubeに上がっています。→Beethoven: Symphony No. 9 (Toscanini, NBC Symphony, 1948)
トスカニーニの第9を、音だけでなく映像つきで味わいたいという方は、ぜひこちらを。

カラヤンとトスカニーニ

カラヤンがまだ駆け出しの指揮者だった20代の頃、バイロイト音楽祭でワーグナーの楽劇を指揮するトスカニーニを聴くために、当時指揮者を務めていたウルムの歌劇場から100㎞あまりの道をモーターバイクで通い詰めたという逸話が残っています。
また後年、1960年代にカラヤンが自身2度目のベートーヴェン交響曲全集を録音する際、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団にトスカニーニのベートーヴェンを聴かせ、「私はこういう演奏をしたい」と話したという逸話も残っています。

次回予告 40年ぶりに日の目を見た名演 オットー・クレンペラー&フィルハーモニア管弦楽団の第9特別演奏会

それまで存在すら知られていなかった第9の録音。セッション録音の直後に行われた特別演奏会の名演が40年ぶりに日の目を見たのです。

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