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【晩夏のゾーッとするクラシック・7】シベリウス:悲しきワルツ/ヘルベルト・フォン・カラヤン&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団【病床の女を訪れる幻の客】
ジャン・シベリウス
前回に続き、フィンランドの作曲家ジャン・シベリウスの「死」を扱った名曲です。シベリウスについてはこちらを→【晩夏のゾーッとするクラシック・6】シベリウス:トゥオネラの白鳥/サー・マルコム・サージェント&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団【黄泉国の河の嘆きの白鳥】|Yuniko note 交響詩「フィンランディア」でフィンランドの独立に大きく貢献した人です。
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ヘルベルト・フォン・カラヤン&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
曲目と演奏者
ジャン・シベリウス
交響詩「フィンランディア」
トゥオネラの白鳥
悲しきワルツ
交響詩「タピオラ」
指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
カラヤンはシベリウスには愛着があったようで、主要な作品は数度にわたり録音していますが、これは1984年2月に録音されたカラヤン最後のシベリウス作品集です。
前項で取りあげた「トゥオネラの白鳥」も収録されており、これも荘厳な名演です。サージェント&ウィーン・フィルの「トゥオネラの白鳥」は凍てつく雰囲気の中にも、ほのかにあたたかみを感じましたが、カラヤン&ベルリン・フィルの演奏は厳冬の寒々としたトゥオネラ河に浮かぶ白鳥です(ほめ言葉です)。
悲しきワルツ
シベリウスが1903年に作曲した戯曲「クオレマ(死)」のための劇付随音楽の1曲です。
病床に横たわる女。
彼女のもとを幻の客が訪れる。どこからか聞こえる不思議なワルツの音色。彼女は音楽に導かれてワルツを踊る。
ワルツが最高潮に達し、彼女は疲れ果てて倒れる。
音楽が消えたとき、戸口にたっていたのは「死」だった。
カラヤンの演奏する「悲しきワルツ」は、他の指揮者の演奏よりもずいぶんとテンポが遅く、重苦しい雰囲気に包まれています。そんな中、フルートとクラリネットで奏でられるワルツのメロディーがとても美しい。
そしてだんだんとテンポを上げて奏でられる「死」のワルツ。その激しさ。
そしてワルツが終わったとき=彼女が息絶えたときの、寒々とした寂寥感、虚無感。
徹頭徹尾、どこまでも寒々とした演奏です(繰り返しますが、ほめています)。
この演奏が発売されたとき、音楽雑誌では「重苦しすぎる」「カラヤンの老い(録音当時カラヤンは75歳)が顕著に表れている」などの評価が並びました。
まったく的外れも甚だしい評論です。「悲しきワルツ」は、暗く重苦しい「死」の音楽なのですから。
「悲しきワルツ」の演奏が、軽やかだったり、きらびやかだったり、若々しく生命力に満ちあふれているなんて、ありえません。
ジルヴェスター・コンサート1983の「悲しきワルツ」
カラヤン&ベルリン・フィルは「悲しきワルツ」の映像も残しています。
ベルリン・フィルは毎年12月31日の夜、日本時間では翌1月1日の朝4時頃から、クラシックの親しみやすい曲を演奏するコンサートを行っています。
これは1983年12月31日に収録されたほぼ(※)完全なライヴで、DVDやBlu-Rayでも入手容易です。
※この日一番最初に演奏されたシューベルトの「未完成交響曲」と、一番最後に演奏された父ヨハン・シュトラウスの「ラデツキー行進曲」が未収録です。
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このコンサートの正式名は「ジルヴェスター・コンサート」
これについては、言いたいことがいっぱいあるので、いずれ項を改めて
ここで演奏されている「悲しきワルツ」はライヴということもあるのか、CD以上の名演です。
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ジルヴェスター・コンサート1983
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ワルツのメロディーを奏でる首席フルート奏者アンドレアス・ブラウ
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ワルツのメロディーを奏でる首席クラリネット奏者カール・ライスター
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「死のワルツ」に入る直前のカラヤンの激しい指揮
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終結部 女性が死ぬ場面を指揮するカラヤン
この激しい演奏の雰囲気、演奏者たちが真摯にこの演奏に集中する様子が少しでも伝わればと思って、キャプチャ画像をはりました。
このディスクには、「悲しきワルツ」のほかにも、ロッシーニの「ウィリアム・テル」序曲やスメタナの交響詩「モルダウ」など、親しみやすい有名曲が収録されています。
おすすめです。
<次回予告>
【晩夏のゾーッとするクラシック・8】ムスルグスキー(ラヴェル編曲):組曲「展覧会の絵」~こびと、カタコンブ、死者の言葉による死者への語りかけ、ババ・ヤーガの小屋/エフゲニー・スヴェトラーノフ&ソヴィエト国立交響楽団【ロシア民話の妖怪とキリスト教の地下墓地】