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withコロナかもな日
朝、学校に行って測ったら体温が37.2℃だった。
コロナ禍になり、毎朝、教頭席の前で熱を測って記入するシステム。
私はぎょっとして、しかし何食わぬ顔でもう一度体温計を額にかざした。
37.1℃。
げっ。
知らないよって言われるかもしれないけど、私は平熱が低い。
ほとんど見たことがない「37℃」は、私の中では病気の時の体温だ、ということになっている。
たちまち焦り、瞬時に数値を改ざんして記入することがよぎったけど、それはだめ!
とりあえず、教頭先生がとくに私に注目していないことを横目で確認しながら、早足で保健室に行った。
さっきの体温計は流行りの額にかざすタイプで、私はいまいち信用ならんと思っていたこともあり、保健室で普通タイプの体温計を借りて測ろうと思ったのだった。
保健室では、事情を説明するとすぐに脇に挟むタイプの体温計を貸してくれ、やさしい先生たちに見守られながら熱を測った。
37℃。
げーん。
どうしようどうしよう。コロナになっちゃったのかな!
保健室の先生達は、「体調はどうですか?」とか、「平熱は?」とか、「生理が近かったりすると体温が上がりますよ」と聞いてくれたけど、私の体調は万全で、平熱は35℃台、生理でもなかった。
どうしようどうしようと思ったし、ここでの「決断(診断)」……今日このまま働いていていいのか? をくだすのって誰にも無理で、保健室の先生はお医者さんでもないし責任なんて負えないのに、どうしても誰かに「大丈夫」と言ってほしくて私はすがってしまうし、保健室の先生って大変だなと思った。
私の顔を見て、先生は、「37℃は平熱だから、大丈夫でしょう。また熱を測りに来てもいいですから、様子を見ましょう」と言った。
私は、自分の現状を知ってもらっている人がいることと、自分だけでなく一緒に「とりあえず『お休み』にはせずに、様子を見ましょう」と言ってくれる人がいたことにホッとして保健室を出た。
それにしても、「自分がコロナかもしれない」恐れへの不安の威力は強く、その上気軽にそのことを言うこともできない気持ちへとすぐに追いやられるから、コロナという病気の恐ろしさや理不尽さ、悲惨さをすぐにもう十分に味わった感じがした。
だいたい普段からすでに色々なことを我慢させられていて、しだいに「我慢」を認識しないような、自分の内面に無意識に取り入れるような流れで受け入れさせられているのだというのに、いざ「その時」になったらさらに隔絶されて、孤独を押し付けられるなんて。「熱が37℃あったんです」とか、「コロナかもなんです」っていうことを、まだ全然友達じゃない同僚に言うことができずに、一人で抱えるなんて。
私は、普段から「誰がコロナになっても仕方がない」とか、「その人のせいじゃない」と思っているし、他の人に対しても思えるのに、そのことを日ごろから話して、近くの人々と共有していないと全く意味がないんだと思った。だって、他の人々に、「あなたのせいじゃないよ」と言ってもらうことができる想像が全然できないんだから!
普段からみんなで念仏みたいに「あなたのせいじゃないよ」と唱えていないといけないんだよな。
コロナかもな不安が心の奥底に居座ってしまったので、それ以降は一切の行動がそのことから離れて行えず、私は全くのwithコロナかもな人だった。
withコロナかもな私は静かに一人でパンを二つ食べた。
そして、その日の授業で使うプリントを印刷しに小部屋へ行った。
何度やっても両面印刷がうまくできず、どうやら私が途中でボタンを何回も押し忘れたり、間違えたりしているからなのだが、そんなことがいつもの自分と全然違うように思われて、やっぱり熱があるからかなと思い当たってはおびえた。
偶然、同僚が入って来て、寒くなってきたことや、学校に行くのが嫌で毎朝心臓がキューッとすることなどを話してきた。私は自分がwithコロナかもということは一瞬忘れて心配になり、その人が出て行ってもしばらく心臓がキューッとなることについて、何回も両面印刷を間違えながら考えたりしていた。
幸いなことに、その日は一つしか授業がなかったのでかなり気が楽だった。
時間まで職員室の椅子に座って大人しくしていたら、誰かの声がした。
「非常勤の先生方―! インフルエンザの予防接種に行ったという人はこの名簿に丸を付けてください」と言う。
インフルエンザの予防接種は職場で勧奨されていたし、近くの医院で受け付けているということも連絡されていた。
でも、予防接種代4千円は自己負担で、それは学校割引などでも効いているのならまだ気持ちが向いたかもしれないが、そうでない段階で私はそこまでの余裕がなく、また大人になってこれまで一度も打ったこともなく、今に至っていた。
うわーそういうの調査するんだね。なんかこわいね。予防接種はある程度の義務でありマナー、ってことになりつつあるご時世なのかもしれないけど、調査するのはまた違うじゃん? 何の説明もなく、調査とかしちゃダメじゃん? 管理社会の始まりじゃん? ジョージ・オーウェルの『1984』の世界なの? 安倍政権なの?(菅ちゃんです! 同じです!)……ってことが一気に脳内に押し寄せたけど、そんなふうにぐるぐるしているのは私だけなのだった。私が憮然&茫然としている間に、そこにいた非常勤の人たち5、6人は次々と「あ、ハイ、私受けました!」と手を挙げて、われもわれもと名簿に群がり始めた。
唖・然!
えーーーーーーーーーーー!!!
そうなの? そういう世界観なの? こわいよ!
何なの? お金もらってんの? 補助出てんの?
もしかして、常識でありマナーっていうだけの理由でそんなに「まっとう」なの?
イヤーーーーーーーーーーーー!!!
そりゃあ、それだけ「まっとう」に「予防」していたら、「インフルエンザになった」人に対して、「その人のせいじゃない」なんて言わないだろうし、「自己責任」って言うだろうし、「社会人として」とか「学校で勤めている以上当然」とか言っちゃいそうだー。それなら「コロナ」に対してだってきっとそうでしょうよ。とwithコロナかもな私は震えて思った。
予防接種は、「自分なりに万全を尽くした」と証明するための保険?
4千円で「保険」が買えるなら安いってか?
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