【短編小説】小さな世界の大きな物語
「今日も朝早いね!もう起きてたの?」
「そりゃそうさ、朝は早く起きて美味しいご飯を食べるんだ。ほら、早速やってきたぞ!いただきます!」
「食い意地が凄いなぁ。」
「美味い!ほら、お前も食べろよ!」
「そうだね、いただきます。」
「ふわぁ…。もう昼かぁ。一眠りしてたらもうこんな時間。」
「ねぇ」
「ん?どうした?」
「昨日からずっと僕を見てるニンゲンがいるんだ。今日も来たんだ。さっき僕をじっと見て、またいなくなった。」
「ニンゲンってなんだっけ?」
「あれだよ、見えるだろ。あの大きい奴らだよ。」
「あぁ、あれ、ニンゲンっていうんだっけか。で、お前の事見てるって?」
「そうだよ。僕を正面からじっと見てくるんだ。しかも何回も。いなくなってはまたやってくる。一体何を考えてるんだ。」
「たしかに怪しいな。お前、なんかしたのか?」
「してないよ。なんにも悪いことはしてない。毎日お前と話すことしかしてないよ。」
「そうだよなぁ。不思議だな。ニンゲンって奴は。」
「ほらまた来た!見て!あいつだよ!」
「本当だ。一体何なんだ。お前のことガン見じゃないか。」
「でしょ?…なんか嫌な予感がする。」
「なんだよ。食われちまうってのか?」
「わからない。でも前に見たことがある。僕の仲間が別のニンゲンに連れ去られていた。次は僕かもしれない。」
「えっ。」
「わからないけどそんな予感がするんだ。そうなったらお前とはお別れだ。」
「そんな…。嫌だよ!毎日おしゃべりしてたじゃないか!」
「僕だって嫌だよ!お前の話を聞くのが毎日の楽しみだったんだ。ご飯なんて二の次ってくらいに。」
「離れるなんて嫌だよ…。」
「狭いこの家の外にお前がいる安心感は僕にとって救いだった。もし離れるなんてことになったら僕だって寂しいよ。」
「うぅ…。」
「泣くなよ、僕はだいじょ…」
瞬間、ニンゲンの大きな手が僕を掴んだ。
やめろ!行くな!!というアイツの声だけが響く。
あぁ、やっぱりそうか。
なんだか嫌な予感はしたんだ。
今まで楽しかったよ、ありがとね。
元気でな。
何が起きたのかわからぬまま、狭い空間に押し込められた。
ほんのり温かい暗闇で、僕は不安しかなかった。
どのくらい時間が経っただろう。
もうアイツの声はとっくに聞こえない。
嗅いだ事のない、外の匂いがした。
急に光が差し込むと、そこは新しい僕の家のようなものだった。