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【短編小説】小さな種
天才ってなんだ。
ふと、空を見上げて考えた。
あの月へ行こうと最初に考えた人は天才だ。
あの飛行機を作った人も天才だ。
このスマホを作った人も。
この飲み物を開発した人も。
テーブルという存在を考えた人も。
ヒトに生えてるコレを「指」だと名付けた人も。
みんなひっくるめて天才だ。
じゃあ自分は?
「君はもしかしたら天才かもしれないよ?」
「こんなに小説のネタを思いつく人はそうそういないんじゃない?」
さぁどうかな。
天才は自分の事を天才だと思っているのだろうか。
自分は天才ではないと言いつつ、なにかを造っているのか。
それともその逆か。
俺はもがく。
毎日。毎日。毎日。
何も創り出せない。
造ったとしても面白くない。
コレじゃない。
「今帰り?一緒に帰ろうぜ!」
「あぁ、別にいいけど」
邪魔だ。
今良いのが閃くかもしれなかったのに。
「聞いたか?転校してきたアイツ、訳ありらしいぜ?今まで転校の回数があまりにも多くて、不良だったんじゃないかって話だ。そんな風に見えないのに、意外だよな」
「本人から直接聞いたわけじゃないんだから、噂なんか間に受けてんじゃねえよ」
「そうだけどさ。でもクラスではその話で持ちきりだぜ」
…クソだるい。
どうでも良い。
他人の話なんか興味ない。
お前らは他に考える事とか、他にやる事はないのか。
これだから人と関わるのが嫌いなんだ。
自分の世界に籠って創作してる方が何倍も楽しいし有意義だ。
「じゃ、また明日な!」
「あぁ。…ちょっと待って」
「どうした?引き止めるなんて、お前らしくねえな」
「ちょっと気になったんだ」
「転校生ちゃんの話か?」
「違うよ、お前のこと」
「え?!お前まさか…そっちの趣味?」
「違えよ馬鹿。お前さ、天才ってなんだと思う?」
「は?なんだよ急に。んー、そうだな…。なんかすげえ人!ってことで良いんじゃねえの?」
「そうか。悪いな、引き留めて。じゃあな」
「おう!またな!」
俺はなんだ。
天才ってなんだ。
俺は一体何者なんだ。
ただ生きて、趣味で創作物を投稿して。
世間を馬鹿にして。
でもなにも残せていなくて。
一番ダサいのは俺で。
『明日は地球最期の日です』
アーケード通りで流れる放送。
そうだ、明日で地球が終わるんだったな。
結局俺は何者で、なにがしたかったのかわからないまま終わるのか。
それもまた人生か。
この世に生まれた大半のニンゲンが生まれてきた意味がないという。
自然を壊し、地球を破壊して終わる。
俺は価値を見出そうとする、結局愚かな生き物だった。
良かったな、地球。
どうせ滅ぶならラクに逝ってくれ。
俺は明日、何をしているだろう。
俺はまだ知らない。
地球が滅んだその後に、立ち上がる術を知る事を。
俺はまだ知らない。
滅んだ地球にひとりだけ、自分と同じ境遇のニンゲンが存在していることを。
そして次の日。
地球が終わった。
周りの人間は仮面を被るようになった。
言葉も通じなくなった。
なんとも酷い世界だ。
「アイツ、また塞ぎ込んでんのか。ったく、しゃあねえな」
俺は泣いている君に向けて手紙を綴った。
【あとがき】
以前投稿した、「匿名の手紙」のアナザーストーリーです。
手紙を送る側の物語を書くつもりはありませんでしたが、オチが思いつかずに適当に書いていったら出来上がったのがこれだったので、まあいいかといった所です。
※「匿名の手紙」で取り上げさせて頂いた手紙の内容は私が投稿するstand.fmに実際にレターで頂いたものですが、今回この小説に登場する主人公「俺」の性格とは無関係です。
ちなみにモデルは自分自身でもあります。