【短編小説】カード
僕はふと、いつもの教会を訪れた。
なにをしたかったわけでもない。
ステンドグラスから差す光がとても綺麗で、好きな場所だったからだ。
流れている男性のコーラスのBGMも良い。
大きな扉を開けるとそこには目を疑う光景があった。
この国に住む者全員が作成を推奨されるカードがある。
個人情報を全て登録するといったカードだ。
政府からの命令で、それが推奨から強制へいつの間にか変わっていたらしい。
何の疑いもなくみんながそれを作っていた。
ついに強制になるとは。
役所へ訪れると、スーツを着た男に声をかけられた。
紙を片手に不気味な笑顔で僕に近寄る。
「君はまだあのカードを作っていないのかい?ダメじゃないか。このカードを作るとメリットがたくさんあるんだよ。この紙を渡しておくから、今月中に申請を出すんだ。」
「…。」
しぶしぶと紙を受け取り、役所を後にする。
そして僕は教会へ向かった。
扉を開ける。
講壇の前に不自然なベッドがあった。
そこには老婆が横たわっていた。
目元は包帯で乱雑にぐるぐる巻きにされており、手はお腹の上で組まれている。
見るからに細かった。
(なんだこの光景は…死んでいるのか…?)
よく見るとかすかにお腹が上下に動いている。
良かった、生きているらしい。
しかし、手の皺が亡くなった後の僕の祖母にそっくりだった。
「君はこの老婆を見てどう思う?」
物陰から神父の格好をした男が現れる。
なんと、役所にいた男と同じ男だった。
「この老婆は身寄りがない。それでいて病気を患っている。もう長くはないだろう。
君がカードを作れば君の存在が国に認知される。この老婆のように、誰かに看取ってもらえるのだ。」
男は満面の笑みだった。
「そんなの、僕は嫌だ。全てが誰かに管理されるなんて、人間の尊厳はどこへ行く。勝手にそこらへんで死ぬ方が良い。」
「君はひとりで死ぬのは怖くないのか?カードを作るだけで孤独から解放されるのだ。」
「孤独は怖いよ。でもそんなの人間らしくない。」
それでも逃げられない。
カードを作るのが義務化されたのであれば。
あぁ、僕の人生はこの先どうなるのだろうか。
【あとがき】
これはついさっき見た夢の内容です。
考えさせられる内容で面白かったので起きてすぐ書きました。
そのため、実際の人物、団体とは関係ありません。