【短編小説】とあるハンバーグレストランでの恋
「おはようございます!」
大学の授業を終え、今日も私は元気にタイムカードを押した。
これから働くのにどうして元気かって、それは、このバイト先に好きな人がいるからなのです。…みんなには内緒だよ。
私のバイト先は、とあるハンバーグ屋さん。
バイトメンバーは面白い人ばかり。
店長はちょっと変わってるけど気さくで優しい。
同性のバイトの子は同い年で、めちゃくちゃ明るいリーダー格の女の子。
男性陣のひとりは、同い年で野球が趣味らしい。
そして、私の好きな人。
大学生で、年齢は私の一個上。
そこにいるだけで空気が透き通るような、絵になるような佇まい。
ウルフカットの髪型がよく似合う。
普段何を考えてるのかわからないくらい物静かだけど、気が利くし、なによりたまに見せる笑顔が可愛い。
お客さんに難癖をつけられたとき、彼はサッと間に入り、助けてくれた。
何度か帰りの地下鉄が一緒になったことがあった。
その時の彼といったら、小説を読んでいて…。
次の日書店でおんなじ本を買ったんだ。
「いらっしゃいませ。お席までご案内いたします」
お客さんをご案内して、一瞬だけ彼を見てみた。
すると目が合ったような気がした。
恥ずかしくて、すぐに目を伏せてしまった。
顔が熱くなる。
…かっこいいなぁ。
両思いだといいな。
彼女とか、いたりするのかな。
連絡先は交換したわけじゃないけど、店長から聞いたから知っている。
「お休みを代わってもらうために、あの人の連絡先を教えてほしい」と頼んだら教えてもらえたんだ。
まぁ、一回も連絡したことないんだけど。
そうそう、さっきの小説の話。
彼が読んでる小説は難しそうな小説だった。
私は普段は小説を読まないんだ。
本を買ったのなんて何年ぶりだろうっていうくらい。
彼と同じ本を読めば、彼と同じ思考になれる気がした。
彼と同じ本を読めば、彼になれる気がした。
彼と同じ本を読めば、彼と話せる気がした。
あ、あとね、
彼の家も知ってるんだ。
買った本を読み終えたから、どうしても彼に話しかけたくて、気づいたら一緒に地下鉄から降りたことがあったんだ。
そもそも彼と私の家は反対方向なんだけど…。ふふっ。
歩いてる間に
「ほら、頑張って話しかけて!」って自分に言い聞かせてたけど間に合わなくて、結局彼は家に入っていっちゃった。
でもそこで見ちゃったんだ、彼の秘密。
だから、私だけが彼を愛せるの。
私だけが知ってるから、内緒にしててあげてるの。
明日も一緒に帰ろうね。
【あとがき】
この小説には続編があります。
今後更新します(気が向いたら)。
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