冬野ゆな@⛄web作家
普通の短編置き場です。
高校生の底辺退魔師と自称ただの助手の日常退魔録。
わりとどうでもいい話をつらつらと書いておいてます。日記兼雑記兼なにか。
海外ホラー風短編集。怪物ホラーや怪奇幻想文学を目指したホラー作品集です。 収録作:「エーゼルランド島の怪物」「フラッフィー」「緑の沼」「死体処理」「ある幻覚剤について」「ウォーターベイビー」「マッドサイエンティスト」
主にノベプラやカクヨムなど、小説投稿サイトの企画などで書いた短編をまとめて置いておく場所です。
夜にだけ現れるその影に気がついたのは、僕、ピーター・レスターがまだほんの子供の頃だった。 夜というのは暗いものだと思っていたし、なにも疑問に思うことがなかった。夜は暗くて見えにくいなんて当たり前のことだったし、その小さな丸い影は夜の暗闇に紛れて、中央の一番奥に陣取っていたからだ。 ベッドでおやすみを言うために顔を覗き込ませるママに、こう言った。 ちょうどママの鼻を隠すのが面白くて、僕はくすくす笑っていた。 「ママ、そこにいると顔の真ん中がピエロみたいになるね。真ん中っ
1 南太平洋に浮かぶ小さなギベレー島に上陸を果たすと、僕はようやく一息ついた。 船旅はひどいものだった。まだクラクラする。壊れかけたような古い漁船に、船の持ち主である漁師を含めた六人が身を寄せて縮こまっていたのだから当然だ。これから仕事だというのに体のあちこちが痛む。 陰鬱な顔の漁師は、五日後には必ず来ると言って早々に帰還した。こんなところに一秒たりともいたくないという風だった。二週間も歩き回り、説得し、ようやく見つけた案内人だったが、それでもやはりあまりここには居
1 メアリー・レフラーは五時半ぴったりに目を覚ました。 四十分までに着替えと洗顔を済ませた後は、家じゅうの窓を開けて、朝刊を確認する。そこで六時。今日も心地良いほどに時間ぴったりだ。洗濯機のスイッチを入れて、朝食の準備を始める。朝食はいつも同じ。目玉焼きにベーコンを焼いて、食パンをトースターに入れる。そしてコーヒーだ。コーヒーを淹れる前に、六時二十分ぴったりには夫のジョニー・レフラーを起こす。そして夫がのそのそと準備を整えている間に、ようやくコーヒーの準備を始める。こ
1 十一月七日。N県Yヶ岳――。 夜になっても雪は降り続いていた。 彼女は茂みの中で震える体を抱きしめていた。本来ならば昨日のうちに、既に山頂に着いている予定だった。道を見失ったのはいつだったか。確か山道の途中で、木に書かれた赤い矢印を見た。それから見えてくるはずの次の目印はいつまで経っても見えてこなかった。入る道を間違えたのだ。けれどその恐怖さえ、今のこの状況に比べればきっとマシだ。 いま、この茂みの中で、隠れて震えるしかない状況に比べれば――。 ――化け物
自分の小説の中にうっすらと「存在承認」ってよく使ってるなという話です。 小説書きさんって、別の作品でもうっすらと似たような設定があると思うんですよね。 表面的な「魔法を使う」とか「機械を操る」とかではなくて、もっと下敷きみたいなところ。 そのうちのひとつに「存在承認」があるなという話です。 存在承認というのは、ある人物の存在を認めて、挨拶をしたり名前や顔を覚えること、みたいな感じなんですが、たぶん小説書きの中で同じ意味で使っている人は……どうだろう。現代モノなら
本日、蝶尾出版社様の1000文字小説の掲載差し止めと、副賞である優秀賞の辞退をしました。 現在メールをして返事待ちというところです。 とはいえ私のポストをご覧になって作品を購入してくださった方々には本当に申し訳ありませんが、おそらく修正版には掲載はありません。ご迷惑をおかけしてしまい、心からお詫び申し上げます。 最終的にこの判断に至った経緯になります。 まず勘違いしてほしくないのは、私自身がバチクソにキレてるとかそういうわけではないです。丁寧に対応していただけま
結構前にX(Twitter)で、作者に著作を古本屋で買った話をするなみたいな話が上がってたのをぼやーっと見ていたときがあります。 まあ古本屋だと作者に還元されないのでどうなのかみたいな話だった気が。 それがいいとか悪いとかではなく、「そういう考え方もあるのかぁ……」という感じで見ていました。確かに漫画家さんも商売でやっているわけで、還元されるのが一番良いとも言えます。 オタクは作者に金を投げる習性のある生きものなので。 とはいえ。 何故そう思ったのかというと、
つい最近、3x3EYESの続編である「幻獣の森の遭難者」を買いました。 先にこの話の感想を書けよという気もしますが。 その中で第二部冒頭を思わせるシーンがあったのですが、(どういう流れかは結構なネタバレなので伏せます)その第二部って少女漫画の文脈だなあ……と思ったという話です。 3x3EYESの始まり方って、普通に少年漫画的な所から入ってるんですよね。 一応(?)、普通の高校生だった八雲のところに、パイと名乗る女の子が現れて、事故的に三つ目の妖怪である彼女(もう
ジョーンズ・リッカーは新しい家から配信できるのを心待ちにしていた。 四日ほど前に着いたばかりの新居は、郊外の一軒家だった。茶色い切妻屋根で、外壁は淡い黄色で塗られている平屋建て。人が住むにもじゅうぶんなスペースを持った屋根裏部屋がひとつあり、外にはガレージもついている。このあたりの相場よりもずっと安く売りに出されたこの家に、ジョーンズは「配信部屋」をいちばんに作り上げていった。 都会住まいを諦めたのはこれが要因だ。ジョーンズはゲーム配信を主体に活動している、いわゆるゲー
「あの村はとにかく、いわくばかりではっきりしねえ。だけどひとつだけわかってるのは、あの村にゃあ滅多な事じゃ近づかない方がいいってことだけさ……」 すっかり酔いが回ったころ、ベン爺さんがそう口を滑らせた。 ジャックはすぐさま耳を傾ける。酒場に集う老人たちのくだらない噂話を我慢した甲斐はあった。どこそこの娘が都会に出て行っただの、だれそれの息子が行きずりの女を妊娠させて結婚する羽目になっちまっただの、そんな他愛もない話に混じって、その村の話は密やかに語り継がれてきた。 この
あのマーガトゥン・ブレイズが最初に思いついたのは、SNSに写真を載せることだったんだ。 あんただってマーガトゥン本人を知らなくても、「幻想写真家M」のアカウントと、掲載されている写真を見たことくらいはあっただろう。 無い? まあしょうがない。 そのアカウントだって、数多くの市井の芸術家のなかに埋もれていたんだからな。なにしろ最近は昔と違って、一般人や素人でも自分の「作品」を簡単にネットに上げられる。それが絵だろうが写真だろうが変わらんのさ。 まあでもとにかく、マー
第1話 アントン・コムニーは子供の頃から眼鏡をかけていたので、彼の大きな特徴になっていた。 必要があっての事だが、たまたま日本で安価で見栄えのする眼鏡が手に入ったおかげで、とびきりのお気に入りになったのだ。日本の漫画が何作か流行ったのも大きかった。漫画のジョークに倣って「眼鏡が本体だ」などと弄られていたが、アントン本人も容認していた。わざと眼鏡を外しておくと、みんなが慌てたふりをして「おい、どうしたアントン。何も言わなくなっちまった!」と眼鏡に向かって言ったりするのだ
第1話 婚礼の儀はつつがなく始まろうとしていた。 ほとんどの婚姻がそうであるように、人々は平穏と祝福の内にあった。太陽は優しく地を照らし、一点の曇りもなかった。サンドルク男爵領主の美しい娘、セシリア・リエーヴルはきょうこの日、素晴らしい男の妻となる。かれらの領地であり、サンドルク領主館の建つ素朴な村を突っ切り、教会に向けて先頭の馬車が出発するのを子供たちはいまかいまかと待っていた。贅を尽くした花嫁衣装をひとめ見ようと、村の女の子たちは首を長くして待ち望んでいた。男の子
第1話 五年前、自分の音色のことをこう表現されたことがある。 「アツシ。キミのピアノはまるで、何か手に入らないものを探しているようだ」 ドイツの音楽学校でそう告げた教師は、意味ありげに口角を上げた。 「どういう意味ですか?」 「例えば――そう、もう会えない過去の恋人とか、熱に浮かされた一夜の恋のようなね」 誰か、日本に残してきたんじゃないか。教師はそう言いたげだったが、篤志にはピンとくるどころかむしろ狼狽えたように苦笑するしかなかった。それほどまでに恋い焦がれた相手
幾多の苦楽だけを友として、男はようやく隠された塔にたどり着いた。 いまにも船を沈めんとする荒波を渡り、魔物の住まうという岩山を越え、毒沼と霧のたちこめる森を抜け、失われた文明の眠る砂漠を渡って、この秘密の塔にたどり着いたのだ。 この秘密の塔の中にはひとりの老賢者が住んでいて、世界の隠された秘密を知っているという伝説があったのだ。男は見事にその塔にたどり着いたのだ。 男の目の前に建つ塔は円柱形で、天に向かってそびえ立っていた。いったいどこまで伸びているのか見当もつかない
男の目の前に女神が現れたとき、これは転機だと思った。 男は山の中で泉に転落し、溺れかけたところを女性に助けてもらえたのだ。 その女性は自分を泉の女神だと名乗った。自らを落っことしてしまった男に対し、女神は例の謎掛けをした。「あなたが落としたのはなんですか?」だ。 男はそれに対して「退屈な人生を持て余していた自分です」と答えた。 「わかりました。正直者のあなたには、退屈な人生を変える何かをあげましょう」 なんてことだ、と男は思った。 男は子供のころから退屈を持て余