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24-25シーズンのはじまり
大田原にて
(2024/08/31・記)
バスケを見るたびに、分からないこと見えていないことがたくさん出てきて、出てきた以上にもっとあるんだろうなとおもえばおもうほど、どうすればもっと知れるんだろう楽しめるんだろうと、そのたびに気が遠くなる。
目指したいところが多すぎて、なにかしたいと願っていたはずなのに、目指す場所があまりにも遠くて、いつもいつの間にか迷子になっている。
✽ ✽ ✽ ✽
何もかもが初めてだった昨シーズンと違って、比べることができてしまう今シーズンに、薄っすらとしたおびえを感じ続けている。未だにそのおびえはあるけれど、それでも。
行けばその瞬間が、教えてくれる。
鵤誠司はそこにいて、渡邉裕規の声はコートに響いて、D.J・ニュービルのスリーの弾道は今日も、低く鋭くバスケットを射抜いていた。
楽しかった、それに尽きる。
たくさん分かったわけじゃない、むしろ分からないことがたくさんあって、それでも。
それでも、それだから、楽しかった。
目の前でめまぐるしく展開される幾つものプレーが、圧倒的な速さと力強さが、一対一で向かい合う勝負の瞬間ひとつひとつが、ただ、楽しかった。
それだけが、行けば分かる、たったひとつのこと。
✽ ✽ ✽ ✽
先週のTIP OFFイベントでは、大雨の影響でなかなか帰路にすらつけず、想像以上に気力体力を削られた。
強いのにのんびり屋さんの台風が列島を襲っている今、また帰れなくなるんじゃないか、そもそも行けないんじゃないかと、このプレシーズンゲームに行くかどうか真剣に悩んだ。
悩んだ末、天気予報を見ながら聞きながら(我が家には今テレビがないので、主にラジオからの情報を頼りに)行けるところまで行こう、ダメだったら帰ろうと決めた。それで良いとおもった。それが、良いとおもった。
例え天候が悪化して会場に辿り着けなかったとしても、バスケを観に行くのにムダなことなんてひとつもない。
そして迎えた当日は意外と、家を出てからも、電車に乗り込んでからも、松戸から越谷を経て、宇都宮を越えて大田原まで電車に揺られている間ずっと、雨が降ることはなかった。
しかし、気は張ったままだ。前回だって、晴れて暑いくらいの空模様を呑気に眺めていたら、終わる頃になって、帰さないとばかりに急に土砂降りの大雨に襲われた。アリーナにいても、雷の轟音がはっきりと何度も聞こえるくらい、空は荒れ狂っていた。
今回のプレシーズンゲームは、最寄り駅から体育館まで、徒歩50分とさすがに遠かったのと、いつ雨が降り出すか分からないのと、それにしても蒸し暑すぎるということで、シャトルバスに乗るつもりだった。
最寄り駅近くのローソンで、PayPayへのチャージに失敗して残高におびえつつも、ポイントを駆使して食糧を調達し(トイレが綺麗で好感度が上がった)、予定どおりシャトルバスの列に並ぼうと、てくてくと歩き出す。
すると、件のTIPOFFイベントで、ゲリラ豪雨によりアリーナから出られなかった時に少しお話をした、隣の席のおねーさんと遭遇した。
わたしの唯一の知り合いである。名前すら存じ上げないけど。
あ〜!どうも〜と声をかけられて、比留木謙司の言う "コミュニケーションの瞬発力" に乏しいワタシは一瞬かたまるが、咄嗟に「お久しぶりです」と言葉を絞り出す。我ながらよくやった。あ〜ハハッと笑って誤魔化さなかっただけ、かつての己よりはマシだ。
おねーさんからは「1週間ぶり」と返ってきて、早すぎる再会にお互いちょっと笑いながらの挨拶となった。
それにしてもすぐに、1週間ぶり、が出てくるのすげーな……。瞬発力かつユーモア……。ほ、欲しい。場数を踏めば、気の利いた返しができるようになるのだろうか。たくさん場に行かねば。
そのおねーさんは、とてもオシャレなTシャツを着ている。
"give me more" という文字とともに、淡い色のタッチで描かれた、渡邉裕規選手の後ろ姿がバックプリントされている、白いTシャツ。
両手を耳に当て、観客を煽るかのようにコートに立つ、ユニフォーム姿の渡邉選手がそこにいる。
素敵なTシャツですね、と言えばよかったな、という後悔に、家に帰ってから不意に襲われた。
TIP OFFイベントの時もおもったのに。今回も、そうおもったのに。
次の機会なんてもう、二度とないかもしれないのに。
いつもいつも、同じことを繰り返してしまう。
ダブドリのトークイベントの時も、そうだった。
大柴さんが、わざわざお客さんひとりひとりに挨拶に来てくれたのに、今までおもっていたことの半分も伝えられなかった。
何も言えなかった、という後悔を抱えながら、もう大柴さんに何か言えることはないかもしれないけれど、あの時の大柴さんの代わりには決してならないけれど、同じ轍は踏むまいと、言いたいことはなるべくちゃんと伝えようと、決めていたはずなのに。
なかなか人は変われない。
あと何回、これを繰り返してしまうんだろう。
同じ "次" なんて決してないと、もう分かっている。
だから、佐々木クリスさんが言っていた "Next Best Action" を胸に、急には変われなくても、少しずつ進んでいくしかない。
ちなみに、会場に到着して入場待機列に並んでいる時も、おねーさんはおそらく前にいてちょっと気まずかった。ただ、ワタシはTrash Talking Theory を聴いて遠慮なくニヤニヤしていたので、もし気づかれていたとしたらさぞ気持ち悪かったことだろう。
ところで例のバスだが、ふだんよく乗っているような路線バスを想像していたら、全く以て異なるシャトルなバスがやって来た。
高速バスのようなバス。いや、以前ケチって乗った高速バスよりも、はるかにふかふかそうな座席で、はるかに高そうな、バス。
これ、選手たちが使っているようなバスでは?この赤色の座席なんか見たことある。こんな高級そうなバスに無料で乗せてくれて体育館まで運んでくれるんですか?こんな立派なバスに?と、ひと目見た瞬間から恐縮を余儀なくされるような、バス。
久しぶりにあんなバスに乗った。
と、いうか、初めてあの、バスのあれに座った。補助席というやつ。パタンと倒して座る真ん中の席。
誘導のお兄さんに、「座席いっぱいになっちゃったので、補助席使ってください」と言われた瞬間の恐怖ったらなかった。使ったことねーよ……。
ビビったあまり、「あのパタンってするやつですか?」という明らかに言葉足らずな質問を投げかけてしまった。お兄さんは、「はい、そうです!」とにこやかに答えてくれた。ありがとう。でもコワイ。
しかもなんと、映えある補助席ひとり目がワタシだった。コワイ。誰かの真似をしてパタンとしてストンと座る、というスムーズな振る舞いができない。
しかも最後列から補助席が取り付けられているわけではなく、何列かしてから突如として補助席が現れる。なるべくたくさんのひとが乗れるように、ひとり目であるワタシはいちばん後ろの補助席を見つけなければならない。普段使わないため仕舞われている補助席を探すのは、補助席初心者にとってはあまりにもハードルが高かった。
こ、ここか?ここが始まりか?とうろたえながら場所を確認し、「補助席失礼します」とパタンされる席に座っている方に声をかける。
パタンと席を倒して、忘れずに背もたれもパタンと持ち上げ、座る環境を整える。よかった。慌てるあまり、背もたれに座りかねなかったが、まぁ概ねスムーズに座れたことだろう。と、安堵していたら、お尻のあたりに違和感がある。どうやら、シートベルトをおもいっきり下敷きにして座っていたようだ。どうりで。
内心慌てふためきながら、ついでに3回くらい後ろを振り返って、ここが補助席にとっての最後列だよな?と後ろの席の肘掛けあたりをガン見しつつ、なんてことないかのようにシートベルトを締めようとする。しかしシートベルトが引っかかって、なかなか上手く引き出せない。何回かガチャガチャとやった末に、ようやく、補助席に身体を固定することができた。
無事に己の身の安全も確保できたので、うつらうつらしながらバスに揺られて体育館へと向かう。ありがとう高級バス。ふかふか座席には座れなかったけど。ありがとう運転手さん。ありがとう宇都宮ブレックス。最高。また乗りたい。
そして会場に到着し、アリーナに入る。
入口では、チアさんとブレッキーが出迎えてくれたが、ブレッキーとのあまりの距離の近さに、ワタシの心は硬直した。シャトルなバスへの恐縮という気疲れもあり、もはや愛想を振りまく気力は残っていなかったので、会釈をしてそそくさと通り過ぎる。すまん。試合前にこれ以上消耗するわけにはいかないんだ。もう一刻も早く席に座って落ち着きたい。
TIP OFFイベントではついぞ身につけなかった黄色いTシャツは、今回も着るかどうか決めてはいなかったけれど、一応カバンの中には入れていた。
着るか着ないか、そんなことは、行けばその瞬間が教えてくれる。
アリーナに入ってすぐ、あーもう相変わらずクソ恥ずかしいなこれ、と半ばやけくそになりながらTシャツを身につけて、"黄色いひと" になる。
そのあとは、相手チーム・信州の選手たちのシュート練習を、ぼんやりと眺めていた。
アリーナ席から見上げるだけでも長すぎる蛇だった2階のグッズ待機列に並ぶ気力など勿論なく、多くのお客さんの足がそちらに向かっていたおかげか、自分の前の席はまだあまり埋まってなくて、選手たちの姿がずいぶんとよく見えた。
それから、ぶらぶらと歩き回ることもせず、自分の席にずっと座ったまま、練習を見たり、選手たちがいなくなってからは、『楽しまないともったいない』という、ダブドリから発行されている富永選手の自叙伝を読んでさり気なく宣伝したりと、のんびり過ごしていた。
ただ、ニコニコとした笑顔が眩しい富永選手が表紙のカバーを外して読んでいたため、おそらく誰にも気づかれてはいなかっただろう。残念だ。
ハーフタイムですら立ち上がらない(トイレの列に並びたくない)(後半の試合開始時間を気にしながらせかせかと用を足したくない)という強い意思でずっと座りっぱなしだったせいか、試合が終盤に差し掛かる頃には、お尻の骨がものすごく痛くなっていた。
たっぷりの脂肪で覆われているはずなのだが……。最近、白米と味噌汁のみの1日2食生活をしているから、ぷよ肉が減ってしまったのか?
痛みを少しでも軽減するために、第4Qに入ってから頻繁にもぞもぞと身体を動かすという、謎かつ迷惑な動きをしてしまった気がするが、選手の活躍のたびに身体が反応していた、ということにしておこう。それくらい、たくさんの選手が、たくさん活躍していた。
それはそうと、最初の選手入場のあと、コートに彼らが整列したときには、あまりにも真正面で目の前すぎてびっくりして、どこを見ればいいかも分からず体育館をあてどなく眺め回してしまった。これ以上ないシャッターチャンスだっただろうに、スマホを持った手はぴくりとも動かなかった。
しかし、試合後のインタビューの時には、あまりにも目の前すぎるということが分かっていたので(それにしても改めて、目の前だな!近いな!と恐れ慄いたものの)こんなに近いよ!という証拠写真も撮れた。ピンボケなど気にしない。近さが分かればいいのだ。
写真に映すと対象は案外小さくなってしまうから、いまいち距離感の分からない写真になってしまったが。
目の前(体感)が比江島選手だった時には、もはや笑ってしまった。こんな幸運があっていいんですか?それだけでもう、じゅうぶん、行ってよかったよ。
✽ ✽ ✽ ✽
今までがどれだけ不安だろうと、どれだけ怖かろうと、その瞬間、何を感じるか何をおもうか、何が見えるのか、試合がぜんぶ、教えてくれる。
久しぶりの観戦だったせいか、ぬぼっとした声ながらもレッツゴーとちぎと応援したし、ぬぼっとしすぎていつものごとく手拍子がズレたが、ディーフェンスと声も出した。
最後までぬぼっとはしていたけれど、最後までずっと、楽しかった。これからの予感に、今もまだ「楽しい」が残っている。
昨シーズンから1名減った、選手の名前がひとりずつ呼ばれていく。昨シーズンとは違うヘッドコーチの名前が、最後に呼ばれる。その瞬間、すとんと落ちた悲しみが、じわりと胸に広がって息が詰まる。
変わらぬチームで、昨シーズンとほぼ同じメンバーで、それでも、昨シーズンとは違う。
違うチームだと、見れば分かる。
昨シーズンを知っているから、今この試合を観たから、分かる。
それが、面白かった。
今までに見たこともないような試合を、これから幾つ見られるんだろう。どんな試合が始まるんだろう。どんなプレーをして、どんなチームになっていくんだろう。
ただただ楽しくて、知らないこと、分からないことがたくさんあって、だからこそ面白くてたまらない。
それは、バスケなんてろくに知らなくて、緊張と高揚でいっぱいだったあの頃の自分に、とてもよく似ていた。